教辞め方法論

夜風 天音

第1検索 「担任拒否の方法」

「え?担任?いやです」

彼方かなた先生、そ、そこをなんとか…!」

「いやです」


にっこり営業スマイルを生意気な後輩に叩きつける。

すると後輩は狼狽うろたえたように視線を彷徨さまよわせる。

ふん、どうせあのクソ校長に命令されたんだろう。

おあいにくさま、俺はそんなめんどくさいことはごめんなんだ。


「それでは次の授業があるので、これで失礼します。」

「えっ、あっ、ちょっとまって…!」


待てと言われて待つバカがどこにいるっての。

少なくとも俺は論外ろんがいだね。

とっとと道具をまとめ、後輩を振り切って職員室を出た。

ここはレチクル国立魔法高等学校。

一般的な魔法を教える学校である。

俺はそこの教師歴なんと八年。

いわゆるベテランだ。

ちなみに一番長くつとめてんのも俺。

ちょっと前まで俺より長く勤めてた奴がいたのだが、今年の初めぐらいにお亡くなりになったので、俺が一番になった。

それにしても、今は11月ぞな。

そんな時に担任を頼むなんざどうかしてる。

今までの担任はどうしたんだ。

あー、いや、そっか、そういや死んだんだっけ。

昨日死んだって通知来てたの忘れてたわ。


「ん…?」


カタリ、って物音がしたような。

気のせいか?

って時は大体気のせいじゃないんだよね。

まーた暗殺者が入り込んでんのか。

この学校セキュリティ甘すぎんだろ。


「とりま通報っと」


近くの壁にある赤いボタンをポチッとな。

その途端とたん、ビービーと警報が鳴り始める。

このうるさいのどうにかしてくれないかなぁ。

もうちょっとささやかな音にしてくれよ。


「見つけたぞ!」

「こっちだ!」

「よし、捕まえろ!」


そういう声が聞こえた。

よしよし、ちゃんと捕まったようで何よりだ。

でもこっちにこられると色々厄介なので俺はさっさと一限目の教室に行こうじゃないか。

え?これのどこが『魔法を教える学校』なのかって?

んー、そうだな、じゃあ、訂正しよう。


ここはレチクル国立魔法高等学校。

暗殺者たちに狙われるような金持ちの子供たちのみが通う、であり、共にという一般からはかけ離れた学校であり……、俺こと、夜果よるはて彼方かなたの職場である。




)ー…----…ー(




「お客様、お帰りはそちらのドアとなっております」

「そっ、そうじゃなくて、たんに──」

「お客様、お帰りはそちらのドアとなっております」

「だから、たん──」

「お客様、お帰りはそちらのドアとなっております」

「た──」

「お客様、お帰りはそちらのドアとなっております」

「ッ〜〜〜!!」


おーおー、そうかっかするんじゃないぞ後輩くん。

あんまり怒るとお前の顔がトマトになるぞ。

それも完熟済みの。

でも悪いね?後輩君。

俺は、どぉ〜しても、担任だけはイヤなんだ。


「さぁ、帰った帰った。先輩様のお部屋に夜遅くに押しかけてきたんだ。

 明日の書類持ちは覚悟しろよ?」

「ッ!!」


この学校での序列じょれつは、年齢ではなく教示歴だ。

つまり、教示歴が一番長い俺は実質校長と同じ、それどころかそれ以上の権限を持つ時がある。

俺のこの学校での共通認識としては…、とても認めたくはないが、『授業は興味深くわかりやすいが、だらしなく、生徒に興味がないクソ教師』ってところが妥当だとうだろう。認めたくないケド。

ちなみに言うと、これは『生徒の』認識ではなく、『この学校での』認識なので、教師陣も同意見ということだ。

やべ、ちょっと泣きそ。


「明日は馬車馬のごとく働かせるからな?」


クックック、と邪悪に笑い、後輩をドアの外に放り出す。

ドアをとんとん、かちゃかちゃと、ひかえめに『開けて』と訴えていた後輩は、俺が夕飯を食べ終わった頃には諦めたようだ。

足音がっていく。

そして俺はベッドから起き上がり、気配がもう音が聞こえない範囲に達したことを確認する。

静かに、もう冷たくなった床に裸足で立つ。


「ふぅ…」


そっとまぶたを開く。

きっと俺の瞳は今、真っ青に染まっていることだろう。

ふわりと魔力を纏い、クローゼットの奥の方にしまってある袖&フード付きのローブを着て、黒色の覆面を被る。

さぁ…、夜はまだ始まったばかりだ。




)ー…----…ー(




くんっ、と軽く細い鎖を引く。

すると、ひゅんっ、と小さな風切り音を立てて鎖の先に繋がれていた短剣が飛翔する。

鎖鎌ならぬ鎖短剣だ。

我ながらダサいと思う。

ちなみに名前は黒百合くろゆりである。

厨二臭いだろ?

俺もイヤなんだけどさぁ、コレを俺にたくしたというか、渡した奴が『この名前がいい』っつって譲らなかったのだ。


「ひぃ、ふぅ、みぃ、うわぁ、8人。今回は大御所だったな。」


ぺいっ、と短剣から男を抜いて投げる。

うーむ、黒百合、相変わらずの精度。

キレーに男の心臓ココロを射抜いてやがる(意味深)(物理)。


「くそっ、こんな情報、ひとつもはいってなっ…!」

「はいはい静かにしようねー。俺のために。」


情報を吐かせる要員けん人質の口にガッ!と猿轡はめ込む。

なお、暗殺者陣そっちに俺の情報が渡っていないのは当然である。

だって深夜の暗殺者殺しこれ、学校にも言ってないもん。

毎夜のごとく部屋を出るので、昼は眠くて仕方がない。

だからさ、チョークを魔法で動かして並列思考で授業しながら寝ても問題ないと思うんだ。

そりゃ、生徒諸君から見れば、椅子に座って寝ているのにチョークが勝手に動いて数列をつらつらと書き連ねる上に、寝ているはずなのにその口から理論が流れ出るように出てくるのだ。

さぞ気色悪く見えるだろうけどさぁ…。

水鉄砲放みずでっぽうはなって起こすのは流石にナシじゃない!?

アウトだよ、ルール違反!!

しかもさ、なに、ぜってぇ結託けったくしてるだろ、おまえら!

俺が水鉄砲犯を追及しようとしたら、あれよあれよと話題をらす。

なんなの!?


「人質くんはこっちね。後の人たちは牢屋で待っててね。すぐに君たちの騎士ナイトが来てくれるから。」


死んでいるのはわかっているが、俺は回収する気は微塵みじんもないので、近くの赤いボタンを押す。

途端、例の警報が鳴り出す。

近くの寮の人たち、起こしちゃってごめんねー!

まぁ、夜に警報が鳴る程度で苦情をもうしていれば、この学校にはいられない。

六時間50分授業のこの高校、50分の授業の中で十何回は警報が鳴る。

入学式から5ヶ月も経てばれる慣れる。

最初のうちは警報が鳴るたびにビクビクして、夜に鳴ればパッと電気がつくほど怯えていた新入生はもういない。

月夜の下、俺は小さく歌う。




とーおりゃんせーとおりゃんせー

良い子の子供はねんねしな

うる狼

わるぎつね

夜に巣食すくうはどのものか

あくせぬものはちて

今このでさえ容赦はしない

追い発たされるか

おのれで発つか

残るというなら容赦はしない

我が夜の中で

逃げる敵はありはしない。

風の立つ

ほしかな

特の異能と花導はなしるべ

亡き人還帰かえるはあるべからずに




ちりん♪


小さく、腕のブレスレットの鈴が鳴った。



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教辞め図鑑 第1P


夜果よるはて彼方かなた

御年26歳の教歴8年になる超ベテラン。の、はず。

魔法理論教師。授業はわかりやすいし興味深いがそれ以外が一切合切いっさいがっさい全てダメダメ。

教師の証である指輪はかろうじて着けているが、ローブも帽子ぼうしも杖もなし、教師失格に近い。

絶対に担当クラスは持ちたくないと思っている。

極度きょくどのめんどくさがり屋で、いつもだるそうで眠そう。

授業中によく寝る。

生徒にめちゃくちゃめられている、良くも悪くも庶民的な教師。

たまに生徒と一緒に悪ふざけして先生なのに先生に怒られてたりする。

だが、学校がなくならないように夜に暗躍する一面も。


「はぁっ?補習?ナシだナシ、んなもん。

 理由は俺がめんどくさいから!質問があんなら別のやつに聞けよ、俺は眠いんだ!」

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