10:話しておいで
目を覚ますと、私は天蓋つきの寝台に寝転んでいた。
ゴツゴツした剥き出しの岩肌の洞窟ではなく、ふかふかの寝台。
何故こんな豪華な寝台で寝ているのかわからず、困惑しながら金の刺繍が入った紺碧色の天蓋を眺めていると。
「気がついた? リーリエ」
横からエミリオ様の声が聞こえた。
気絶する前の記憶が瞬時に蘇り、私は飛び起きた。
身体にかけられていた毛布が上体から落ち、ぱさっと音を立てる。
服装は変わらず、桃色のドレスのまま。
果たして、四人のうち誰がここまで私を運んでくれたのだろうか?
「そんなに警戒しないでよ。何もしてないし、するつもりもないからさ」
傍らの椅子に座っているエミリオ様は苦笑した。
この部屋にいるのは私とエミリオ様だけだった。
「王子権限云々言ったのは忘れて。あれは確かに良くなかった。謝る」
エミリオ様はぺこりと頭を下げた。
一国の王子に頭を下げられてしまった……!!
「ギスランからも怒られたよ。『もしお前が地位を利用してリーリエの意思に反する言動をした場合、俺はお前を心底軽蔑する』って、きつーくさ」
「ギスラン様が……」
「そうそう。ルークもフィルも怒ってたけど、何気にあいつが一番怒ってた気がするよ。自分は無関係です、花嫁争奪戦には参加しません、なんて殊勝な態度を取っておきながら、実はあいつも参戦したかったんじゃないかな」
「……花嫁争奪戦って……」
顔から湯気が出そうだった。
「まさかそんな。ギスラン様までもが私に好意を寄せていてくださったなんて、そんなわけがありませんよ。ギスラン様は正義感に溢れたお方ですから、私を思いやってくださったのでしょう」
「……リーリエって結構鈍感だよね。ぼくたちの好意にも気づいてなかったでしょ。ルークもフィルも丸わかりだったのに」
呆れたような顔をされてしまい、私は返答に窮した。
「実はさ。明日の夜、七時になったらリーリエと現時点でのライバルを全員連れて第二会議室に来いって父上に言われてるんだ。花嫁争奪戦について話がしたいって」
だから花嫁争奪戦って呼び方は止めてください!?
「ぼくはフィルとルークと三人で行くつもりだったんけど。さっきの態度を見て、ギスランも連れて行ったほうが良いような気がしてきたよ。あいつは多分、あの体質……というか、性質っていったほうが良いのか……のせいで、一歩引いてる。自分はリーリエの恋人には相応しくないと思ってるんだろうね。リーリエはギスランの性質をどう思ってる?」
「私は何とも思ってません! 戦地で何度も私を庇ってくださったギスラン様がいなければ、私はとうに死んでいたことでしょう」
「…………」
何故かエミリオ様はつまらなそうな顔をした。
「エミリオ様?」
「なんかものすっごく嫌な予感がするんだけど……このまま知らん顔を決め込むのが一番良いような気がするんだけど、皆が薄々気づいててあいつだけ挑戦権を与えず、あいつ以外の誰かが婿になるっていうのもフェアじゃないし……嫌だしムカつくけど。死ぬほどムカつくけどリーリエが幸せになるのが一番だし……」
眉間に皺を寄せ、エミリオ様は俯き加減にブツブツ呟いている。
「??」
何を言っているのかわからず、私は困惑するしかない。
「とにかく、リーリエ。ギスランと一度話をしておいで。あいつならいま、訓練場にいるはずだから」
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