僕が愛した君は今

@cat7fish3

第1話 「幸せ」は続くはずだった

起きて、食べて、働いて、学んで、寝て。

そんな代わり映えのない毎日はつまらない。

スリルが欲しい。

そんな奴がこの世に入るんだってさ。

そんな奴が羨ましい。

一気に人生が一変したとしてそんな事をほざけるのか。そう思ってしまう。

でも、俺自身そのおかげで貴重な体験をする事も出来た。そして、消えかかった物をより一層の固く構築する事が出来た気がする。

それは、揺るがない事実だと。

身近な物ほど、その大切さや必要性に気づきにくく、見失った時見つけにくいものになるのかもしれない。
















目の前には晴れ渡る青い海と青い空。

白い雲とそこを飛ぶ渡り鳥たち。

「やっぱり地球って綺麗。」

色鉛筆を片手に、髪にその風景を一所懸命

描写する。

「おーい!太陽!」

後ろから名前を呼ばれたような気がする。

もしかしたら聞き間違いかもしれない。

でも、振り返らずには居られない。

ゆっくりと後ろを振り返ると、そこには

「君」がいた。懐かしい君が。

目を見開いた。そして、涙が零れていく。

「何?なんかした?」

「へへへ。」

純白のワンピースを着た肌の白い彼女。

背は僕より小さく、けれども矛盾した大人っぽさを持つ彼女。

しかし、顔が靡く長い髪で隠れて見えない。

髪をたぐり顔を見ようと手をかけた瞬間

真っ白な壁が距離を取ってそびえ立つ

身体を置きあげようとした瞬間

身体が焼けるように痛む

頭だけを回転させる事はできる。

体を動かすとまたあの痛みが襲ってくる。

周りにはベットが3つも4つも並んでいる。

白いベッドの集まった部屋。

反対を見れば、通路が見える。

そこに通り掛かったのは包帯を巻く人々。

そうか。ここは病院か。

「気が付いたんですね!佐藤さん!」

「佐藤さん?誰ですか?」

「何を言ってるんですか?佐藤 善 あなたの事ですよ!」

「えっ。俺の名前は神崎 ですよ!。

神崎 あおい 。」

その言葉を聞いた先生は向かいの看護師と顔を見合わせる。

険しい顔をして。

「少しお待ち下さい。」

しんみりとしたどこか哀れみを含んだ表情で僕の事を見てきた。

少し、流石に不快感が湧き出てきた。

でも、それを決して外に出ては行けない。

彼女と約束したから。

医師が俺を無視して、隣のベッドに向かう。

何やら頭に包帯を巻いた…女性?いや、今は多様性の時代。どちらと決めつけるのは良くないか。

おでこにかかった包帯の下には、綺麗な女性の面が描かれていた。

「神崎さん。この方は存じ上げておられますでしょうか?」

じっと彼女の透き通った顔を見つめる。

「とても美人でお綺麗な方です。けれど、私の記憶にあなたの事は残っていません。」

「本当に?」

「はい。」

「分かりました。質問は以上です。後ほど今後の事についてお知らせします。その際、ご一緒いただきます。」

「何だよ。本当に。」

医師たちの失礼な態度に多少の鬱憤が溜まる。

「初めまして。」

あの女性が話しかけてきた。

「先程はどうも。」

「驚きましたよ。いきなり私の事指して、存じ上げられますか?何てあなたに聞かれて。」彼女は少しとぼけた顔をする。

「本当に。ご迷惑かけてすみません。僕のせいで。」俯き、まるで子供のように方を萎縮させる。

「「いやいや、大丈夫ですよ。気にしないでください。」

「…」

しばらく気まずい雰囲気が流れる。

時の流れもゆっくりになる。

「所で、お怪我はどうされたんですか?」

「あぁ、それは…」

記憶を蘇らせようと頭の神経に集中した。

けれど、事故の記憶が全く分からない。

様子が浮かんでこなかった。

あれ?事故だよな。それはわかるんだけど。

「ごめんなさい。ちょっと思い出せないですね。」

「それはそうですよね。気が動転されてるのかも知れませんね。」

僕は気付いた。彼女の目は少し濁った。

いや、申し訳なさそうにしていたのかも。

「あっ。私、佐々木 です。」

「俺は、神崎あおいです。」

「素敵な名前で。」

「そちらこそ!」

お互いの口角は上弦の月のようにつりあがる。

すると、入口の方から

「佐々木さん。こちらへ。」

「X線で頭を見られるんです。行ってきます。また後で。」

「頑張って下さい。」

彼女の去る姿を見た時、エアコンについた

暖房が勢いを増したのか?と思った。

それにしても慌てて頑張って下さいなんて返したけど、行ってらっしゃいの方が良かったのかな。こういう経験あんま無いからわかんないよ〜。

僕は窓の外の真っ赤な景色を見て、

「勉強しよ。」

そう思った。

他の誰かを暖かくできるような接し方。

その時、謎の既視感を覚えた。

その正体は分からない。けれど、何故か見た事ある気がする。

デジャブか?いや、現実味に帯びすぎている。

そんな事を考えていると、頭に激痛が走った。

「あぁぁがぁぁぁ。」

呼吸も乱れる。息が出来ない。

目の前の景色は過去の記憶を見ているかのようにフラフラ揺れて、プツリと途切れた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る