僕が愛した君は今
5の遣い
第1話 「幸せ」は続くはずだった
起きて、食べて、働いて、学んで、寝て。
そんな代わり映えのない毎日はつまらない。
スリルが欲しい。
そんな奴がこの世に入るんだってさ。
そんな奴が羨ましい。
一気に人生が一変したとしてそんな事をほざけるのか。そう思ってしまう。
でも、俺自身そのおかげで貴重な体験をする事も出来た。そして、消えかかった物をより一層の固く構築する事が出来た気がする。
それは、揺るがない事実だと。
身近な物ほど、その大切さや必要性に気づきにくく、見失った時見つけにくいものになるのかもしれない。
目の前には晴れ渡る青い海と青い空。
白い雲とそこを飛ぶ渡り鳥たち。
「やっぱり地球って綺麗。」
色鉛筆を片手に、髪にその風景を一所懸命
描写する。
「おーい!太陽!」
後ろから名前を呼ばれたような気がする。
もしかしたら聞き間違いかもしれない。
でも、振り返らずには居られない。
ゆっくりと後ろを振り返ると、そこには
「君」がいた。懐かしい君が。
目を見開いた。そして、涙が零れていく。
「何?なんかした?」
「へへへ。」
純白のワンピースを着た肌の白い彼女。
背は僕より小さく、けれども矛盾した大人っぽさを持つ彼女。
しかし、顔が靡く長い髪で隠れて見えない。
髪をたぐり顔を見ようと手をかけた瞬間
真っ白な壁が距離を取ってそびえ立つ
身体を置きあげようとした瞬間
身体が焼けるように痛む
頭だけを回転させる事はできる。
体を動かすとまたあの痛みが襲ってくる。
周りにはベットが3つも4つも並んでいる。
白いベッドの集まった部屋。
反対を見れば、通路が見える。
そこに通り掛かったのは包帯を巻く人々。
そうか。ここは病院か。
「気が付いたんですね!佐藤さん!」
「佐藤さん?誰ですか?」
「何を言ってるんですか?佐藤 善 あなたの事ですよ!」
「えっ。俺の名前は神崎 ですよ!。
神崎 あおい 。」
その言葉を聞いた先生は向かいの看護師と顔を見合わせる。
険しい顔をして。
「少しお待ち下さい。」
しんみりとしたどこか哀れみを含んだ表情で僕の事を見てきた。
少し、流石に不快感が湧き出てきた。
でも、それを決して外に出ては行けない。
彼女と約束したから。
医師が俺を無視して、隣のベッドに向かう。
何やら頭に包帯を巻いた…女性?いや、今は多様性の時代。どちらと決めつけるのは良くないか。
おでこにかかった包帯の下には、綺麗な女性の面が描かれていた。
「神崎さん。この方は存じ上げておられますでしょうか?」
じっと彼女の透き通った顔を見つめる。
「とても美人でお綺麗な方です。けれど、私の記憶にあなたの事は残っていません。」
「本当に?」
「はい。」
「分かりました。質問は以上です。後ほど今後の事についてお知らせします。その際、ご一緒いただきます。」
「何だよ。本当に。」
医師たちの失礼な態度に多少の鬱憤が溜まる。
「初めまして。」
あの女性が話しかけてきた。
「先程はどうも。」
「驚きましたよ。いきなり私の事指して、存じ上げられますか?何てあなたに聞かれて。」彼女は少しとぼけた顔をする。
「本当に。ご迷惑かけてすみません。僕のせいで。」俯き、まるで子供のように方を萎縮させる。
「「いやいや、大丈夫ですよ。気にしないでください。」
「…」
しばらく気まずい雰囲気が流れる。
時の流れもゆっくりになる。
「所で、お怪我はどうされたんですか?」
「あぁ、それは…」
記憶を蘇らせようと頭の神経に集中した。
けれど、事故の記憶が全く分からない。
様子が浮かんでこなかった。
あれ?事故だよな。それはわかるんだけど。
「ごめんなさい。ちょっと思い出せないですね。」
「それはそうですよね。気が動転されてるのかも知れませんね。」
僕は気付いた。彼女の目は少し濁った。
いや、申し訳なさそうにしていたのかも。
「あっ。私、佐々木 です。」
「俺は、神崎あおいです。」
「素敵な名前で。」
「そちらこそ!」
お互いの口角は上弦の月のようにつりあがる。
すると、入口の方から
「佐々木さん。こちらへ。」
「X線で頭を見られるんです。行ってきます。また後で。」
「頑張って下さい。」
彼女の去る姿を見た時、エアコンについた
暖房が勢いを増したのか?と思った。
それにしても慌てて頑張って下さいなんて返したけど、行ってらっしゃいの方が良かったのかな。こういう経験あんま無いからわかんないよ〜。
僕は窓の外の真っ赤な景色を見て、
「勉強しよ。」
そう思った。
他の誰かを暖かくできるような接し方。
その時、謎の既視感を覚えた。
その正体は分からない。けれど、何故か見た事ある気がする。
デジャブか?いや、現実味に帯びすぎている。
そんな事を考えていると、頭に激痛が走った。
「あぁぁがぁぁぁ。」
呼吸も乱れる。息が出来ない。
目の前の景色は過去の記憶を見ているかのようにフラフラ揺れて、プツリと途切れた。
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