キサラギ 2人台本(不問2)

サイ

第1話




ボク:はっ…寝過ごしちゃった…。


トモダチ:よく寝ていたね。


ボク:今どのあたりだろう。


トモダチ:さっき、「やみ駅」ってアナウンスがあった気がするな。


ボク:やみ…?それってどんな字で書くんだろう。


トモダチ:さぁ…?こんなところまで乗ったことないから…。


ボク:とりあえず、一度降りて反対の電車に乗らないといけないね。


トモダチ:そうだね、次の駅で降りようか。






ボク:とりあえず降りたけど…薄暗くて、気味が悪いな…。


トモダチ:誰もいないね。


ボク:駅名は?


トモダチ:あそこに看板があったけど…。


ボク:…けど?


トモダチ:あったけど…読めないんだ。


ボク:読み方が難しいってこと?


トモダチ:いや…なんて言えばいいんだろう。あれだと思うんだけど…読める?


ボク:…なんだ、あれ。


ボク:まるで、文字化けしたかのような…日本語じゃないな…。


トモダチ:これじゃ、帰り方調べられないね。


ボク:いや、さっきここに着く前、駅の名前を言ってなかった?


トモダチ:ああ…ひとつ前の駅の名前はたしか、「やみ駅」って言ってた気がする。


ボク:それだ。それを頼りに、地図アプリで検索をかけてみよう。




トモダチ:…どう?


ボク:おかしいな、聞き間違いだったのかな。いくら検索しても出てこないんだ。


トモダチ:そんなはずはないよ、車掌さんはたしかに、「やみ駅」って言ってたから。


ボク:はぁ…どうしよう…。


トモダチ:さっきの電車って、こっちへ進んで行ったよね。とりあえず、線路に沿って、反対方向へ歩いてみる?


ボク:こんなひとけのない駅で滞在できないもんな…せめてひとけのある駅に移動して、タクシーに乗って帰ろうか。


トモダチ:それがいいよ。そうしよ。






ボク:しかし…少し寝過ごしただけでこんな田舎まで行き着くとは。


トモダチ:こんなに歩いても、全然人が歩いていないもんね。


ボク:この辺の家は…全部空き家なのか?明かりが灯った家が一つもないな。


トモダチ:廃村…廃集落?


ボク:…にしては、あまり廃れていない気がするんだけどな。


トモダチ:道中一人でも人がいれば、道とか聞けたのにね。


ボク:…なんか、妙だな。


トモダチ:田舎だし、自然と人が減っていったんじゃない?


ボク:人の数もだけど…あれから電車が一度も通ってない。


トモダチ:そういえば、たしかに?


トモダチ:でも田舎でしょ?本数が少なくても仕方ないんじゃない?


ボク:いや、よく考えてみてよ。いくら田舎であっても、ボクらが乗ったのはそこそこ都市部だし、本数だって10分〜20分に一本は最低でもあったはず。


ボク:ボクら、いったい何十分歩いた…?


トモダチ:軽く30分以上は歩いているね。


ボク:終電にはまだ早い時間だし…。反対方向への電車も、一度も見ていないわけだし。


ボク:…夜通し歩いたとして、ボクらは家に帰れるのかな。


トモダチ:諦めちゃダメだよ、頑張って歩こう。






ボク:今、いったい何時なんだろう。


トモダチ:あれ?スマホ持ってたよね?


ボク:いや、表記されている時間はわかる。


トモダチ:どういうこと?


ボク:なんとなく…ただの夜にしては明るいというか。


トモダチ:そう?


ボク:だって、街灯は一つもないのに、足元がうっすら見える程度には明るい。


トモダチ:目が暗闇に慣れてきただけじゃない?


ボク:に、したってさ…仄かに明るい気がするんだよな…。


トモダチ:知らない場所にいきなり放り出されたから、不安に感じて何もかもおかしく感じてしまうだけだよ。


ボク:…そうかな。


トモダチ:そうだよ。知らない場所を歩くときって、実際の時間より長く感じるときあるじゃん。この道であってるのかな、さっきも同じような場所通らなかったっけ?って。色々考えてると、すごく時間が長く感じられるの。


ボク:「さっきも通らなかったっけ」は迷路でもない限り、ないと思うけど。


トモダチ:そう?!都会の街並みなんてみんな同じに感じるよ!高い建物ばっかりで、ほとんど迷路のようなものだよ。


ボク:…そう。


トモダチ:…疲れたね。あの辺で一旦休む?


ボク:…でも、こんな気味が悪い場所、早く抜け出したい。


トモダチ:焦らないほうがいいよ。転んで足捻っちゃってもいけないし。


ボク:…わかった。






トモダチ:よっこいしょ。


ボク:……おなかすいたな。


トモダチ:たしかに。何か持ってなかったかなぁ。…あ、こんなのあったよ!


ボク:…何これ。


トモダチ:アケビ味の飴。


ボク:どこで売ってるの、そんな味。


トモダチ:まぁまぁ。疲れてる体には甘いものが一番だって。はい、どうぞ。


ボク:ありがとう。


トモダチ:…食べないの?


ボク:…ちょっと、気になることがあるんだけど。


トモダチ:どうしたの?


ボク:ここに来てから…記憶がおかしいみたいで。


トモダチ:記憶?


ボク:地元の街の名前は覚えてる、自分の名前も。ボクが昔、なんて名前の学校に通って、どんな生活を送ってきたのかも…鮮明に覚えてる。


ボク:でも。


ボク:おかしいんだ。




ボク:…なぜか、


ボク:きみの名前も、


ボク:何をして一緒に過ごしてきたかも、


ボク:思い出せないんだ。




トモダチ:…え。


ボク:ぼやっと、きみが昔からずっとそばにいてくれたような、気がするんだ。


ボク:でも、何をしてきたのか、思い出せない。


ボク:名前すらも。


トモダチ:……。


ボク:…ごめん。


トモダチ:…きっと、


ボク:…え?


トモダチ:きっと、疲れてるんだよ。いきなり知らない場所に来て、脳がフル回転しすぎて、オーバーヒートしちゃったんだよ。


トモダチ:疲れてる頭には、甘いものが一番だって。飴、食べときなよ。


ボク:…うん。(飴を頬張る)


トモダチ:おいしい?


ボク:…不思議な味がする。


トモダチ:うんうん、しばらく口の中で転がしておくといいよ。






ボク:…思い出せるかな。


トモダチ:そんなに不安?


ボク:不安っていうか…きみのこと、友達だって記憶はうっすらあるのに、友達としての思い出は何ひとつ思い出せないんだよ。


トモダチ:家に帰れないかもしれない不安よりも、目の前にいる人のことを考えてくれるんだ。


トモダチ:きみって優しいね。


ボク:……。


ボク:失礼なのはわかっているんだけど、ひとつ、きみに聞いてもいい?


トモダチ:いいよ。




ボク:きみは、いつからボクのそばにいるの?




トモダチ:…いつから?


ボク:教えて欲しいんだ。ボクの記憶には、電車で隣に座っていたときからしか…。


ボク:いや、


ボク:「やみ駅」を過ぎたあたりからしか、記憶にない。


トモダチ:……。


ボク:きみは誰なの。


ボク:きみは本当に、ボクの友達なの?


トモダチ:……。


トモダチ:ばれちゃったか。


ボク:…え。


トモダチ:わたしはきみの友達なんかじゃないよ。


ボク:…どういうこと。


トモダチ:ここにきみを呼んだのはわたしなんだ。


ボク:どうして、そんなこと。


トモダチ:だって、退屈だったから。


ボク:でも、友達だって記憶が。


トモダチ:いきなり近づいたらびっくりするかなと思って。友達だと思ってくれていれば、気軽におしゃべりできるかなって。


ボク:じゃあ…きみは誰なの。


ボク:いったい、誰なの…?!


トモダチ:わたしは、これから友達になるひとだよ。


トモダチ:これからきみの友達として、ここで永遠に過ごすの。


トモダチ:どうせ、もう元の世界には帰れないし。だったら一緒に楽しく過ごそうよ。ね?


ボク:帰れないって…いやだよ、ボクは帰る。こんなところにいたくない。ボクの街に帰るんだ。


トモダチ:無理だよ。


ボク:来た方向に進んでいけば…!


トモダチ:うん、さっきまでは、それで帰れたよ。


トモダチ:でも、きみはわたしがあげた飴を食べたよね。


ボク:…どういうこと。


トモダチ:…ヨモツヘグイ。


トモダチ:きみはこの世界の食べ物を口にしてしまった。


トモダチ:もう現世に帰ることは、不可能なんだよ。




トモダチ:ようこそ、




トモダチ:わたしのトモダチ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

キサラギ 2人台本(不問2) サイ @tailed-tit

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る