教国の王女 〜Zipped Memories〜

善天侍 利乃匠

プロローグ

 階段を一歩一歩登るにつれて、螺旋らせん状の外階段の周りは薄緑色の霧に覆われていきました。三階に差し掛かるころには、もう外の景色は見えなくなり、緑がかった金色の雲に包まれています。

 段を踏みしめながら、私の希望は現実へと変わる。この仲間たちと、共に過ごし、共に戦ったあの世界へと。


 あの方が、いよいよ階段を登りきりました。その後ろには、ぼんやりと青い空が見えます。それはついさきほどまで、私たちが過ごしていた世界とは異なる、濃紺の空でした。

 本当に私たちはあの世界へかえれるのでしょうか? まったく別のどこかへ出てしまわないのでしょうか?


 そのような不安も、振り返ったあの方の笑顔が、すべて消し去ってくれました。彼が差し伸べてくれた手をとり、最後の一段を登りきります。


 目に飛び込んできたのは、部屋の窓越しに見える澄み渡った紺碧こんぺきの空と、黄土色の岩肌でした。

 同時に、聞こえてくる人々の声や金属音。澄みきった空気に含まれるのは土のにおいでしょうか、それともホコリでしょうか。


 私はほおに伝わるものを、こらえきれません。全身の震えも抑えられません。

 あの記憶の奔流が頭の中に襲いかかってきてから渇望していました。共に手をとり、助け合い、励まし合った仲間たちと生き抜いた場所。後悔のなか、引き離された場所でもあります。

 そう。ここがかえりたかった世界。私が、そして仲間たちが待ち焦がれていた世界でした。



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