矜羯羅街の鬱屈

外山文アキ

プロローグ:門前の目覚め

 じめりとした晩夏の夕暮れ。乱鴉の鳴き声が頭上に響いている。壁の如き街の幾重にも分岐する魔境の路地の入口の一つ。その門前で少女は目覚めた。その仄暗い奥底の一点を見つめたまま佇む彼女は考えを巡らせていた。しかし頭に浮かぶ全てに靄がかかり、何一つとして思い出せない。自分が何処から来て、何故このような場所に存在しているのか、自分の名前さえも覚えていない。此処はなんなのだろうか。この道を進むべきだろうか。罠かもしれない。しかし少女は前に進む覚悟をした。暗闇に誘われた気がしたのだ。きっと何かが分かるだろう。そのような期待を抱き、少女は路地の中へと消えた。

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