13話:「―続く再会、そして予期せぬ邂逅―」

 思わぬ再開を果たした趣意より、改めて詳細を聞けば。

 趣意は今年の春より、皇国海軍航空隊の飛行士学生として、実地研修を兼ねた部隊配属の身となっていた。

 そして今回、皇国軍も参加する事となった広域防災演習への派遣要員として指名され。今の上官である白鬼大尉と共に、本日このティークネスト基地を訪れたとの事であった。

 そこで偶然にも、同じく参加者となった血侵と再会したのであった。


「成程。少尉の伯父様は、高速道路パトロール隊の隊員の方なのですね」


 互いに一連の詳細を説明しあった後。白鬼大尉は納得したように言葉を零す。


「趣意が、お世話んなってます。真面目そうな見た目に反して、悪戯餓鬼で難儀してるでしょう」


 その大尉に向けて、血侵はそんな言葉を紡ぐ。


「ははは。少尉は普段は真面目過ぎるくらいなのですが、時折イタズラ好きの子供っぽく可愛らしい一面を見せる事がありますね」


 そんな血侵の言葉に、大尉は身内に配慮した様子ながらも、趣意の実際の所を評した言葉を返す。


「おじ様っ!大尉までっ!」


 そんな両者の評するそれに、当の本人は少し不服そうにふくれっ面を作る。


「立派な少尉殿に任官しても、その実はすぐには変わらねぇか」


 それに血侵はまた、淡々としながらも揶揄う言葉をまた掛けた。



「少尉、伯父上との再会は喜ばしい事だが。我々はまずは到着の受付や各報告がある事を忘れてないか?」

「い、いえ!しかし……すみません……」


 それから大尉は。趣意にそんな揶揄い交じりに、促す言葉を掛ける。それに、実際血侵との再会にはしゃぎ失念していたであろう趣意は、気まずそうに謝罪の言葉を紡ぐ。


「それを済ましてしまえば、我々は少し時間が在る。先に追えてしまおう」


 それにまた、大尉は促す言葉を掛ける。


「伯父上様、そういう訳で我々は一端失礼します。少尉は手続きが終われば、しばらくお預けできますので」

「いえ、存分に連れまわしてもらって結構なんで」


 また冗談交じりの大尉の言葉に、血侵も同じ様子で返す。


「もう、またっ」

「ほら、行くぞ少尉」


 両者のそれにまた口を尖らせる趣意だが。大尉は構わぬ様子で促し、先んじて身を翻してその場を離れる。


「おじ様、すぐにまた来ますからねっ!」


 趣意は血侵にそんな言葉を寄こしつつ、その大尉の後を追っていった。


「血侵さんの従兄弟姪さんですか。びっくりですね」


 二人が去った後に。端でやり取りを見守っていたセンコウが、思わぬ再開の光景に遭遇した事で、少しの驚きの言葉を寄こす。


「あいつも操縦士として任官してたんだったな。驚きだが、考えりゃ不思議ではねぇか」


 それに血侵は、そんな事を考えつつ返す。


「血侵さんにあんまり、っていうか全然似てないね」


 続け今度は、ヘキサがそんな感想の言葉を寄こす。


「従兄弟姪ですからね。血が少し遠いから、そこまで似てるわけでもねぇ」


 それに血侵は、否定するでもなくそんな旨を返す。


「でも、妙に懐かれてる感じだったね?仲いいんだ」

「どうして懐かれてんのかは、自分も不思議に思ってます」


 続けてのまたのヘキサの言葉には。血侵は自分も知りたいと端的に返した。


「――戻ったよ」


 趣意と大尉を見送り、そんなやり取りをしていた血侵等の元へ、背後端より別の声が届き掛かる。

 見れば。手続きを終えて戻って来たのであろう、ウォーホールの歩いてくる姿が見える。


「あ、代理」


 それに返すはヘキサだったが。

 しかし。ウォーホールのその後ろには、向かう時には無かった別の二つの人影が一緒に見えた。

 どちらも先の趣意等の物とは異なる、緑色を基調とするフライトスーツを纏う、また操縦士と思しき姿服装。それはよく観察すれば。血侵の故郷でもある太拳の灼円自由藩県体の、地隊の航空隊の操縦士に支給されるものであった。

 その内一名は、少し険し目な威圧感のある顔立ちに。何より異様に肥大し突き出た後頭部が酷く特徴的な人物。

 それはまた真灼連島の地に住まう種族である、ぬらりひょんの妖怪種族の操縦士隊員であった。そのフライトスーツの襟には、三等地佐(陸軍少佐に値)の階級章が記されている。

 ウォーホールに導かれるように歩み辿り伝い、そのぬらりひょん系の三佐と、そして残るもう一名は。血侵等の前に立ち、まずは軽い会釈を寄こして見せる。


「ッ」


 その、もう一名の姿を見止め。血侵はまた驚きの色を顔に浮かべたのはその時であった。


「お二人とも、紹介します。こちらはキャピタルビーチ交通管理隊の隊員で、ユレネンナカン隊員、算荼羅隊員、Dri隊員です」


 そんな方や、ウォーホールはまず先方である地隊航空隊の二名に。身内である血侵等を紹介。


「皆、紹介するよ。こちらは太拳の灼炎、地隊航空隊の善制(ぜんせい)三佐と――」


 そしてウォーホールは続け、その地隊航空隊の二名を血侵等に紹介しようとした。


「――修奈」


 しかし、それを阻み、ある種引き継いで肩代わりするように、血侵が続く言葉を零したのはその時であった。


「ん?」


 それにウォーホールは、「どうした」とでも言うように言葉を零し寄こす。

 しかし血侵の視線はその奥、まだ紹介のされていない一名を――そこに立ち、血侵と同様に驚きの、そして同時にバツの悪そうな顔を浮かべている青年。

 血侵が従兄弟甥――フライトスーツ姿の修奈を見つめていた。


「っー……なんでアンタが……っ」


 一方の修奈は、次には悪態にも似たそんな言葉を、片手で手を覆いつつ零す。


「血侵君?お知り合い?」

「あぁ、とんだ失礼を――」


 ウォーホールから不思議そうに尋ねる言葉が掛かり。血侵はまず、紹介の場を遮ってしまった事を謝罪する。


千万霊ちよろずれい三尉?お知り合いなのか?」


 一方の修奈の側では。ぬらりひょんの三佐が修奈の名字を呼びながら、また不思議そうに尋ねる言葉を掛けている。


「えぇ……俺の、従兄弟伯父です」


 それに、修奈はまたバツが悪そうに詳細を返した。



 状況としては先の趣意のパターンと大体同様であった。

 修奈は今年の春より教育隊での課程を終えて部隊配置となり、戦闘投射飛行隊に所属。

 今回その飛行隊が広域防災演習に派遣される事となり、その人員の指定を受けて。修奈は上官であるぬらりひょんの三佐と一緒に、このティークネストの基地を訪れたとの事であった。


「ビックリだね」


 事の詳細を聞き終え。ウォーホールはそんな驚きを表す言葉を零す。


「三尉の従兄弟伯父の方か。なんたる偶然という感じだな」


 そしてぬらりひょんの三佐は。その種族特有の異質感ある風貌に反した、静かで淡々とした様子で。言葉を零しつつ納得の色を見せている。

 ちなみに善制という名のこのぬらりひょんの三佐は、過去に行われた今回同様の防災演習で、ウォーホールと知り合った身であり。話がてら血侵等にも顔見せをするために、この場に立ち寄ったとの事。そこで同行していた修奈が、血侵と再会するに至ったのであった。


「今日は、驚きが立て続くな」

「他にも、何かあったのか……?」


 先の趣意との偶然の再開に続けての、今度の修奈との再会に。言葉に反して最早驚くを通り越した様子で紡ぐ血侵。

 それに、言葉に反して興味は無い様子で。そして居心地悪そうな様子で適当に返す修奈。


「――おじさまーっ!」


 そんな所へ。また透る声で、そんな声が場へ飛び込み聞こえたのはその時。それは先にも聞いた趣意の声に他ならない。

 声を辿り見れば、想像に違わず趣意がパタパタと駆け寄って来る姿が。その後ろには、白鬼大尉の彼女が少し呆れた様子で続き歩んで来る姿が見える。

 血侵も同様に、少し呆れた思いを浮かべつつも。それを迎え入れようとした。


「ッ!」


 しかし血侵の視界の端で、修奈が目を見開き。そしてあからさまに気を張る様子姿を見せたのはその時だった。


「?、どうした」


 それに気づき、尋ねる声を掛ける血侵。


「おじ様っ。お待たせしましたっ、少しお話を……――えッ?」


 だがその前に、趣意がすぐ傍へと駆け寄り到着し。そしてしかし、その趣意にあっても何かに気付いた様子を直後に見せ、目を見開く姿をまた見せる。


「!――なっ……き、貴様っ!?」

「お前か……ッ!」


 そして――修奈と趣意は。互いに、同時に、何か少なからずの剣幕の含まれた声を発し上げた。

 そして次には二人は、互いに互いを。鋭く刺すような視線で見止め射抜いていた。

 それはまるで、仇敵でも前にしたかのようなそれであった。


「あん?」


 互いの当然のそれに、血侵は訝しむ声を上げ。

 血侵は元よりウォーホール等も、双方の上司である善制と白鬼大尉も。何事かと訝しむ色を作る。


「なぜ貴様がここに!?」

「こっちの台詞だ。お前がなんだってまたこんな所に……ッ」


 そんな各々をよそに。

 趣意は血侵と接する時とはまるで打って変わった、武人のそれである口調で言葉を荒げ。

 一方の修奈は、明らかに面倒臭く煩わしそうだといった様子で。嫌味の色が多分に含まれた言葉を返す。


「おいどうしたお前等、どういう事だ?」


 互いの雰囲気が少なからずよくない物である事は明らかであり。血侵は二人に向けて言葉を割って入れる。


「おじさま、少しお待ちをっ――この下郎を下がらせますっ!」

「アンタは少し引いてろ、このうるさい女を静かにさせる」


 しかし。その二人はほぼ同時に荒げた言葉で血侵に発し寄こし。そして互いを視線で刺し合う。


「ちょいタンマだッ。趣意も、修奈も、ちとクールダウンしろッ」


 そんな様子の二人に。

 血侵は見かね今度は体で双方の間に割って入り。少し強めた言葉語調で互いに促す。


「っ?おじ様?この無礼な男をご存じなのですかっ?」

「?、アンタ、この女を知ってるのか?」


 だが、両者の間に割って入った血侵に。

 双方が互いを視線で牽制しつつも、少し訝しむ様子で尋ねる言葉を寄こしたのはまた同時?


「あん?お前等、何を……――あっ。あぁ……――ッ」


 それに、血侵はまた訝しむ言葉を双方へと返し掛けるが。

 そこで血侵はしかし、〝ある事〟に今そこで気付いて言葉を切り。代わりに少しうなだれるような言葉を零した。


「そうか――そう言やお前等、これまで〝会った事無かった〟な――」


 そして、そんなうなだれつつも納得の言葉を紡ぎ零した血侵。


「?」

「?」


 それに、その従兄弟伯父の姿にまた訝しむ二人。



「――おじ様の、従兄弟甥……?」

「――あんたの従兄弟姪……?」


 それから血侵がいくつかの簡単な説明の紡ぎ伝え。二人が揃って言葉を返したのは、その後。


「あぁ。お前らの爺さんと婆さんは兄妹だ。つまり――」


 続け互いを見ながら紡ぐ血侵。


「つまり……この男と私は……」

「この女とは……」

「「――又従兄弟同士……!?」」


 そして修奈と趣意は。

 何やらここまでを見るに、因縁らしきものがある様子の二人は。

 しかしここにあって――初めて互いが血縁者である事を知るに至った――

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