第183話 ドラフト直前

 各球団のドラフトに関しては、直前まで検証作業が行われる。

 なんならドラフトの指名中に、優先順位を変更することさえあるのだ。

 今年のレックスの課題は、ピッチャーは一枚以上、二遊間が一枚以上。

 あとは比較的、本当ならば優先順位は低い。

 直史の引退と百目鬼のメジャー移籍で、数年以内には先発が足りなくなるのは分かっている。

 もっともそれまでに二軍の若手から、伸びてくる選手もいるだろうが。

 百目鬼もそこまでの期待株ではなかったし、なんなら木津はかなり特殊な部類だ。

 育成から一軍のローテを掴み取ったのは、かなりぎりぎりの話であった。


 二遊間は緒方の次が求められる。

 なんなら一時的にならば、小此木をセカンドに入れるのもいい。

 元はセカンドであったのだし、経験という意味では悪くない。

 だが足腰への負担を考えるなら、やはり若手から抜擢したい。

 三位前後で指名できる選手と、それよりも下位で指名できる選手。

 どちらにもプロに来てから、成長する余地がないと意味がない。

 ピッチャーは出来れば、即戦力が望ましい。

 ならば大卒か社会人という話になるが、高卒でも何人か即戦力で通用しそうな、怪物がいるのが今年のドラフトだ。


 もしも上手く即戦力ピッチャーが取れたなら、そこからまた打撃力を先に補強することも考える。

 二遊間というのはおおよそ、プロ入り一年目で通用する選手は、ほとんどいないと言ってもいいのだ。

 あるいは守備力に特化してもらって、他のポジションで打撃力を補強する。

 その意味ではレックスの場合、外野のセンターを少し考えてもいい。

 たとえばアルトなどは、明らかにNPBのセンターのほとんどよりも、守備力は高い。

 これで打撃も対応できるなら、レックスでも取る価値がある。


 だいたいどのチームでも、キャンプ中などに故障者が出る。

 そしてシーズン中のどこかのタイミングでは、戦力が不足してくるのだ。

 特にピッチャーなどは、下手に絶対的なエースがいると、その離脱を埋めることは出来ない。

 全体の投手力を、高める必要がある。

 しかしレックスは今の時点で、リーグでもトップクラスの投手陣が揃っているのだ。

 リリーフも数年、メジャー移籍しそうなことを考えると、毎年補強はしていかなくてはいけない。

 だが先に必要なのは、得点力の上昇だろう。


 緒方の打撃成績も、あまり良くないものとなってきた。

 なのでセカンドの世代交代は、早めに考えるしかない。

 また外国人にしても、カーライルはともかくクラウンは、もう36歳になる。

 充分に衰える年齢なのだ。大介や悟を基準にしてはいけない。

 それを言えば小此木も、来年は36歳のシーズンになるのだが。


 助っ人外国人の確保は、やはり急務である。

 ピッチャーにしても出来れば、外国人で一人は埋めたい。

 須藤や国吉などは、先発転向の可能性を捨てるべきではないだろう。

 イースタンリーグでは即戦力かと言われていた大豊が、しっかりとプロのレベルに適応してきている。

 来年は開幕から、一軍のスタメン争いをしてほしい。




 九月には一度、方針を固めることは固めるのだ。

 だがそこからチームの故障や、あるいは指名予定選手の故障、また秋のリーグ戦が大学ではある。

 そういった諸々を考えると、直前まで何度も検討しなおす必要がある。

「明らかにNPBに興味のないジュニアは、一位指名しなくてもいいのでは?」

 そんな意見も出てくるが、ピッチャーとしてあれは、確実に即戦力である。

 短い年月でメジャーに移籍するにしても、その間の貢献度が高いものになるだろう。


 全体としての意見は、それでも統一される。

 ハズレ一位を真田で行こうという話も、おおよそ共通している。

 ただライガースが昇馬ではなく、真田を一位で一本釣りするのでは、という見方もある。

 その場合は中浜か獅子堂あたりを、数年は使えるピッチャーとして指名したい。

 ただ中浜は代理人になりそうな坂本が、かなり厄介な気もするが。


 一位指名に野手を、という話もないではないのだ。

 外野のアルトか、サードを守る風見か鷹山。

 小此木にセカンドをやってもらうなら、それもいいだろう。

 この二人は甲子園などを見る限りでは、充分に守備力も高い。

 長打力があるタイプのバッターだが、足も遅いわけではないのだ。


 直史が投げられるのが、あと何年か。

 なんだか50歳ぐらいまで、平気でローテは回せそうな気もするが。

 シーズン成績が衰えたなどと言いつつ、24勝もしている。

 内容は確かに悪くなったが、毎年のパーフェクトは持続している。

 それまではにはまた、レックスの若手から出てくるピッチャーもいるだろう。

 だが真田や獅子堂の実力は、かなりまだ伸び代があると思われている。


 素材としては一級品などと言われて、素材のままで朽ちていく選手がどれだけいるか。

 そういったことを考えると、フィジカルや技術だけではなく、メンタルのことも考えないといけない。

 中浦などは素材としての面が強く、まだまだ線が細い。

 一年や二年は待ってもいい、というのがフロントまで含めた球団の考えだ。

 毎年優勝を狙っていくには、レックスは育成の資本などが足りていない。

 資金力がないのだから、育成するには数を絞らないといけない。

 育成枠を使うのは、せいぜい年に一人といったところ。

 そこから上手く育てているのだから、レックスに育成で指名される選手は、契約する可能性が極めて高い。

 本当に自分に可能性を見てくれているのだ、と信じられるからだ。


 支配下登録でないというのは、プロではないということだ。

 金をもらってはいるが、一軍で活躍して初めて、野球選手はプロと言える。 

 二軍では30歳までには、ほぼ確実に戦力外となる。

 一軍での実績があってこそ、二軍に落ちていてもまだ、復活してくるのを待ってもらえる。

 もっとも故障してしまえば、そこで完全に終わりではある。




 甲子園で故障した選手や、その前にも故障している選手は、判断が難しい。

 プロになれば食生活も変わり、故障しにくいようにトレーナーなども付く。

 だが根本的にプロのレベルに、フィジカルが付いてこなければどうなのか。

 故障と付き合いながらの、微妙なプロ生活になるだろう。

 それでもちゃんと戦力になればいいのだが、中途半端に少しだけ活躍すれば、編成も判断が難しくなる。


 比較的早く引退した選手なら、レックスの場合はもちろん星もそうだし、吉村も20代で引退したものだ。

 だが二桁勝利を五年以上もしていれば、充分に戦力になったとは言える。

 選手側からしても、年俸が一億は超えるので、平均的に見ればそれなりの生涯年俸になったりする。

 だいたい二億を一度でも経験すれば、その前後の年俸も合わせて、かなりの企業のサラリーマンの、生涯収入に匹敵することになる。

 もっともプロ野球選手の場合、かなり派手に金を使う人間も多い。

 しっかりと資産運用などをするのは、むしろおかしなものである。


 ただどんな選手がプロで通用するのか、実際にプロになってみないと分からない、というのも本当だ。

 複数球団からの競合指名を受けても、まるで通用せずに三年から五年で引退、という選手もいる。

 そもそも少し前までは、大学野球で壊れている選手、などというのもいたのだから。

 今は高校生に関しては、かなり球数制限もされている。

 大学野球でそれが導入されていないのは、むしろ高校野球よりも、ビジネスとして成立していないからだ。


 高校野球は甲子園を狙って、選手をしっかり育成する必要がある。

 特待生を潰すような監督は、淘汰される傾向になってきている。

 これがまだ大学であると、古い体質が残っていたりする。

 しかし高校野球の場合は甲子園に行くか、少なくとも行ける可能性が高くないと、野球部の価値が上がらない。

 この数年の千葉の私立が、有望な選手を獲得するのが難しかったのは、昇馬が圧倒的に県内を制圧していたからだ。

 神奈川にしても実は、少しその傾向があった。

 もっともあちらはさすがに、千葉よりもさらに強豪が揃っていたし、実際にセンバツには二校を選出されたことがある。


 高校から大学、そして社会人にプロ。

 プロでも今は独立リーグなどという、地方のリーグが存在している。

 どういうルートを辿ることで、どこに到達することを目指すのか。

 そういう野球のキャリアを考えることも、今はよほど複雑になっているのだ。

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