第179話 ドラフト前評価

 高卒選手が豊作な年である。

 昇馬を一位指名するのは、他のチームに取られると致命的なだけに、どうしても避けられない。

 だがそれを逃した時、果たしてどうすればいいのか。

 これはドラフトの直前まで、指名順位が決まらないものである。

 日本シリーズの結果から、現時点での必要ポジションを考える。

 多くのチームはまずピッチャーであるが、バッターとしても打てる二遊間などがいればほしい。


 ハズレ一位でセンターを守れるアルトを取るべきか。

 風見や鷹山はかなりの長打力を誇るが、二人ともポジションがサードでかぶっている。

 せめてセカンドを守れるのなら、価値は上がるのだ。

 しかし強打者というのは、内野だとファーストが圧倒的に多い。

 次がサードといったところで、あとは外野の両翼であるか。


 センターラインのポジションで、打撃力の高いアルトは二位には消える。

 大卒の選手はそれなりにいるが、今年はやはり高卒が中心となる。

 それでも即戦力の選手を求めるなら、大卒の数人が狙い目になるだろう。

 ここから編成陣は何度も話し合うことになる。


 将来的なことも考えて、獲得しなければいけない。

 ポスティングを容認するのかどうか、という話も今は出てくる。

 日本の選手は特に、内野手は厳しい評価を受ける。

 外野手はまだしも、しかし打撃力は必要となる。

 ファーストやサードのポジションとなると、相当の打撃力が求められるのだ。

 それこそDHとして使っても、文句が出ないほどの打撃を必要とする。


 WBCなどの国際大会でも結果を残し、何度も二冠を達成した西郷なども、メジャーには行っていない。

 本人があまり関心がなかったとも言われるが、あちらからの接触もなかったのだろう。

 これまでの記録を見ても、必要とされる野手のタイプは、出塁率と長打力、そして守備力も揃った選手だ。 

 成功したピッチャーに比べて、野手の数は圧倒的に少ない。

 単純なスラッガーなら、他の外国人で間に合うと、考えられているのだろう。

 もっとも大介があそこまで打てるなど、誰も信じられなかっただろうが。

 今でもどうしてあそこまで打てたのか、分かっていない人間は多い。


 総合力もあった上で、バッティングに秀でている。

 そういう選手が必要なのだが、一番の問題は守備と言われる。

 日本の守備は確実性が求められる。

 だがメジャーであると守備は、とにかくスピードであるのだ。

 日本に比べると特に、内野には強肩と言うか、スナップだけで一塁に、早くボールを送れる選手が必要となる。

 その点では大介や、キャッチャーで樋口が通用したのは、全体のスピードが早かったからだ。


 なのでアルトはともかく、風見や鷹山といった感じの選手は、メジャーからはあまり必要とされない。

 もちろん全く見られないということはないだろうが、プロで果たしてどこまで力を発揮するだろうか。

 ただ鷹山などは高校でも、控えのピッチャーはやっていた。

 サードで守備力が比較的高いのだ。

 するとメジャーに注目されてしまうかもしれない。

 今のドラフトによるスカウトは、そんな将来のことまで考えて、指名しなくてはいけなくなった。

 特にピッチャーなどは、メジャー志向がほとんどとなっている。

 司朗が一年目から、ここまで活躍したという事実。

 もっとも一年目や、二年目に本格的に戦力になっている高卒野手は、ちょっと他にはいない。




 二番手に高い評価は、やはり将典である。

 これはさすがにスターズに取られる。

 弱体化しつつあるスターズの投手陣は、これでかなりの補強になるだろう。

 そして三番手は、果たしてどうなるのか。

 ピッチャーとしては真田が、一番安定しているだろうか。

 少し故障した選手は、即戦力とはいかない。

 ただ中浜などは、打撃の方でも評価が高い。

 中浦と同じく、プロ入りして一年か二年は、体作りとなるだろうが。


 代理人のような形で、マネジメントをしているのが、中浜の場合はメジャーリーガーであった坂本なのだ。

 日本のプロ野球にはもう、関心をなくしている坂本。

 そもそも高校時代から、高校を途中で退学して地元に戻り、一浪してから入学しなおした。

 それから三年生になって、野球部を退部してから、卒業後はアメリカに渡ったのだ。

 そういうルートでキャッチャーにコンバートしたというのが、意味の分からないキャリアである。

 もっとも高校三年生の時には、年下のピッチャーのボールを受けていたから、そういうキャリアになったのかもしれないが。


 坂本もバッティングのいいピッチャーであった。

 だからこそメジャーでも、それを有望視して使われたわけだが。

 球団によっては即戦力が必要なものと、素質に優れた選手を育てる余裕があるものに分かれる。

 タイタンズなどは野手ならば、相当に二軍も厚い。

 そして福岡の選手層は、主力が抜けてもすぐに、対応できるというものである。

 うらやましいことだが、一位指名を育てるのが下手、などと言われている時期もかなりあった。


 レックスにしても即戦力として獲得したはずの、大卒一位指名はほぼ、二軍でプレイした一年だ。

 助っ人外国人が外野のポジションを、しっかりと守ってくれたからである。

 今のレックスに必要なのは、緒方の後継者だ。 

 左右田がしっかり復帰してくれればいいのだが、もしも時間がかかるのならば、一番難しいショートも育成しなければいけない。

 なんだかんだ去年よりは、得点力は上がっている。

 それでも選手層は、守備的な控えが多いため、少し抜ければ得点力も落ちてしまうのだ。


 レックスは昇馬を逃したら、次は真田と決めている。

 だがそこも逃す可能性はあるのだ。

 その場合には果たして、誰を指名していくか。

 ピッチャーは必要なので、少し故障したとは言っても、復帰してきた獅子堂あたりか。

 中浦などは体格からして、一年は育成して二軍でプレイさせるのが、将来的にはいいであろう。

 しかしそうなると、野手の方がどうなるのか、問題が出てくる。


 小此木は元はセカンドであったし、今でもそこを守ることは出来るだろう。

 メジャーでも状況に応じて、ショートを守ったこともあるのだ。

 だが年齢的にもポジション負荷的にも、サードあたりが一番いい。

 即戦力になる二遊間などより、育成してみるべきだ、というのが編成の意見。

 強打のセカンドなどというのは、相当に少ないものであるのだから。




 三位以下で確実に指名したい選手、というのが実はいる。

 上田学院のショートであり、甲子園でも何気に打っていた、三好という選手である。

 真田と共に一年から、スタメンで使われてきた選手。

 打撃力に関しても、体格からするとかなり打っている。

 だがそれよりも守備力と走塁が、評価が高いのである。


 こういったフィジカルの微妙な選手というのは、本当に評価するのが難しい。

 甲子園で一本か二本でもホームランを打っていれば、そちらの評価も出来る。

 だが三年間で、公式戦では五本程度しか、ホームランは打てていないのだ。

 打率も出塁率も、そして盗塁もいい記録を残している。

 二遊間のどちらかで、一年後ぐらいを目途に使えれば、レックスのセンターラインを任せられる。


 こういった微妙な選手を、どれぐらいの順位で指名するか。

 打てるショートなどというのは、どのチームでもほしいものなのだ。

 レックスは左右田が、果たして復帰できるかどうか、それが問題となる。

 彼の打力などを考えると、セカンドにコンバートしてもいい。

 数年間をプロで過ごし、内野の指示も出来るようになっている。

 緒方の打力は年々、わずかずつ落ちてきている。

 今年は当初、七番を打っていたのもそのためだ。

 小此木の打力があったので、守備と内野への指示に仕事を任せていた。

 だが左右田が抜けてしまって、困ったのも確かであるのだ。


 もう41歳である緒方が、スタメンでセカンドを守るのは、限界がある。

 そのまま守備走塁コーチに入るのが、適切であると思うのだ。

 そもそも現役でありながらも、同時にコーチもやってほしい。

 将来的には監督が出来るのでは、とフロントも考えている。

 なんだかんだ高校時代、大阪光陰を優勝させているキャプテンではあったのだ。


 外野にしてもまだ、改善の余地はある。

 センターの守備力特化は、もし打てるセンターが入ってくれば、終盤の守備固めに入ってもらうことになるかもしれない。

 また両翼を外国人に守ってもらっているのも、センターの守備力があればこそ。

 ここのセンターを任せられる選手が、白富東にはいるではないか。

 ただ打撃にも期待しているチームなら、一巡目にハズレ枠で指名してしまうかもしれない。

 他のポジションの打力を考えれば、ここまで贅沢を言うのは難しいだろう。


 本来の守備力だけの評価なら、ゴールデングラブ賞を取っていてもおかしくない。

 だが外野手というのは、どうしても打撃力まで見られてしまうのだ。

 こういったレックスの事情から、鉄也は必要な選手を考えている。

 本当ならばすぐにいなくなりそうな昇馬ではなく、少なくともポスティング年齢までは日本にいそうな、真田を一位で取ってほしい。

 しかし鉄也はおおよそ、三位以下の指名選手を、あちこちから見つけてくるのが仕事である。

 昇馬など、どこのスカウトでも一位指名候補にするに決まっている。

 関東エリアを青砥をお供に回りながら、群馬や栃木といったあたりから、隠れた逸材を発掘するのが、今年の鉄也の仕事であった。

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