第8話 分けるか分けないか


「ひなたー、コンビニ行こう〜」


 柚葉とまったりひなたの家でそれぞれスマホをぽちぽちと

 いじりながら過ごしていると、突然言い出した。


「なに、急に。寒いから行きたくなーい」


 ひなたはふわふわビーズクッションにパフっと乗った。

 スマホゲームのぐるぐる回転させる攻撃の勇者が敵のモンスターに当たって

 負けていた。


「あーー、負けちゃった」


「ねー、ゲームしてるなら行こうよって。お腹すいた」


「えー、寒いし、風強いからなぁ。どうやって行くの?」


「いやいや、外出て歩いて5分もかからないところ何で行くって歩きしかないでしょ」


「おんぶしてーー」


「なんでよー、もう。早く、気分転換に買いに行こう」


 柚葉の背中に乗っかろうとしたがソファにかけていたジャケットを羽織った。

 

 ひなたはぶちぶち文句を言いながらモコモコダウンジャケットを羽織る。


 玄関の鍵を閉めた。


「ひなた、お父さんとお母さんはお仕事なの?」


「んー、今日は2人でデートだって」


「仲良いね」


「俺らもね〜」


ひなたは柚葉の横を歩いて、ポケットに手を入れながら、軽く体当たりした。

本当は母親は1人で買い物行った。シングルマザーであることを隠したかった。

まだ柚葉に本当のことは言えない。ごく一般の家族であることを装った。


「はいはい」


 ひなたは軽くあしらわれる。


 コンビニについてすぐ、ドアの付近でピロンピロンと音が鳴る。


「何買うの?」


「スイーツ食べたいなって思って。」


「そーなんだ。この辺の?」


 ひなたはスイーツコーナーを指さした。


「うん。そうだね。あー、いっぱいあって迷うな〜。どれにしようかな。

 あ、チョコ美味しそう」


 チョコで出来たロールケーキを手に取った。


「柚葉、そっち? 俺、こっちにする」


「ん?ひなたはクリームにするのね。」


「だって、定番っしょ。俺、好きなんだ。生クリーム」


「ふーん」


 柚葉はいいなあと言わんばかりの顔をする。


「柚葉も買いな?」


「えー、私はこれ買うし。いいよ」


「あ、そう」



 コンビニで食べたいものを買えたひなたと柚葉、特に問題ないように思えた。


 2人は家について、テーブルにビニールから出したロールケーキをならべた。


「スプーンもらった?」


「うん。入ってた」


「ちょった待って、今カフェオレ入れてくるから。」


「あ、うん。ありがとう」


「スティックのだから、すぐ準備できるよ」


「あ、私、それ好き。甘くて美味しいよね!」


「そうそう」


 ひなたは電気ポットのお湯をカフェオレの粉が入った

 2つ袋をそれぞれマグカップに注いだ。


「はい、どうぞ」


 可愛い宇宙が描かれたマグカップを柚葉は受け取った。


「うん。いただきます」


「食べよ、ロールケーキ」


 ひなたはテーブルに座って、鼻歌を歌いながらスプーンを袋から出した。

 一口頬張った。


「やっぱ、うまい」


「私も食べよう。チョコレート。んー美味しい」


そう食べ終わってから柚葉は、じーとひなたの顔を見つめる。


「ん?どうかした?」


「それ、それも食べてみたいな」


「えー、俺の分減っちゃうじゃん」


「私のもあげるから。ほら」


「だってさ、柚葉は食べたくてそれ選んだんでしょ?」


「そうだけど、一口だけ味見したいじゃん」


「むー、なんか損した気分しない? 俺」


「しないしない!」


 ひなたは何だか腑に落ちない。モヤモヤして、トイレ行くふりして廊下に出た。

 ため息もひとつこぼした。


 ぱんだ先生、青と白のコンビニ店員のような服着て、壁に寄りかかって腕組んでいた。


 口元にはタバコの代わりのピロピロ笛。


(分けたくないって?)


「わあ?!いたの、ぱんだ?」


(ぱんだじゃない、パンダ先生。)


「あーはいはい。だってさ、俺が好きでロールケーキ

 買ったんだよ。なんで柚葉に分けなくちゃいけないわけ。

 俺、別にチョコ味は食べたくないんだけど」


(お前、ケチやなー。モテないぞ、そんな固執した考え)


「別に、正論じゃん。あれが食べたかったらもう一つ買えばよかったんだよ」


(本気でそう思う?)


「うん」


(お子ちゃまやな、ひなたくん)


「そりゃね、まだ成人じゃありませんから。高校生です」

 

 ぱんだ先生、ひなたの肩に手を置く。


(今後も柚葉と付き合いと思うのか)


「うん、もちろん。好きだから」


(だったら、シェアするって行動も交際する儀式みたいなもんだ。

 それがなんだ、誰とも付き合ってない時はシェアする相手もいないんだぞ。

 食べられるのが嫌ならひなたこそ、もう一つ多めに買えば良かっただろ)


「あー、それもそっか。 俺、面倒になってさ。お金も減るし」


(柚葉と一緒にいる時間考えたらお金より大事なことは我慢するってことじゃなく、

 その時、楽しく過ごせるかってことよ。もしお金が高いと思うならそれ込みで

 過ごす彼女との時間を買ったと思いな)


 話すたびに、ピロピロ笛がピーピー鳴る。


「わかった。柚葉と食べものを独占するより楽しく過ごす方選ぶよ」


(贅沢な悩みだ。あーんって食べ合いっこする時間を捨てるなんて、彼女もいないやつは鬼のように怒るぞ)


「あーー、はい。気をつけます〜」


 ひなたは急いで部屋の中に戻り、座って待っていた柚葉と一緒にロールケーキのシェアをした。


 別にいらないと思っていたが、一緒に食べるのは相乗効果でさらに美味しく感じた。

 


 部屋のドアを開けて、ぱんだ先生にお礼を言っておこうと廊下を見たらピロピロ笛だけ落として消えてしまった。


 コロコロと転がった。






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