精霊の子と呼ばれ恐れられた姫様に、何故か私だけが溺愛され困ってます!(旧タイトル:君が願うのなら)

tataku

第1章

プロローグ

 

 王家には精霊の血が入っている。

 その血を色濃く受け継ぐ子を精霊の子と呼び、人々は恐れる。


 精霊の子、ソフィー。

 彼女はいつもひとり。

 だけど、それでいい。



 ――だって、私は化け物ですから。



 円卓の会議室。


 今日は本当に、慌ただしい。

 オーガが遠くの森で大量発生したと、誰かが騒いでいる。


 ああ、なんて煩わしいのかと、ソフィーは思う。

 たかだか、数十匹のオーガに何を騒いでいるのか。


 ソフィーは我慢できずに、席から立ち上がる。


 その所作に、人は目を奪われる。



 ――精霊の子は、人とは思えぬ美しさ。



 人々は恐れながらも、その美に目を奪われる。


 肩まで伸びた綺麗な銀色の髪と、吸い込まれそうな銀色の瞳。

 そして、驚くぐらい白い肌。


「姫様、どちらへ?」

「私がひとりで向かいます。だからあなた達は、そこで震えて待っていてください」

「しかし――」

「黙りなさい、死にたいのですか?」


 そう言われて、反論できる人間などここにはいない。

 それができる人間は、残念ながら今、ここにはいない。


 ソフィーは窓に近づく。


 兵士は慌ててアーチ状の窓を開く。


 ソフィーの周りに風が起こり、彼女は空を飛んで城から出ていった。


 少し離れに教会があり、近くの広場に20歳以下のシスター達が十数人ほど集まり、睨み合いとなっている。


 その光景を、ソフィーは空高くから見下ろす。


 そこで、シスターのひとりである黒髪の少女が何やら騒いでいる。


 黒い髪は、彼女ひとりだけ。この国を探しても、ただひとり――彼女だけの色。


 ソフィーは流れるその髪をしばらく眺めた後、目的の森に向かった。



 ***



 黒髪の少女マリアは、広場で腕を組んでいる。


 教会関係者の中にも、貴族と平民がいる。


 この国では平民が貴族に盾突くことなどあり得ない。


 しかし、この教会内では常に平民と貴族で争いが起きている。


 本日の争いは――


「マリアさん、あなた達は本当に意地汚いですわね!」


 貴族代表のエリーナは、金髪ツインドリルの頭を揺らし、平民代表である黒髪の少女に指を突き付ける。


「エリーナさん、お肉は皆の必要なエネルギー源です。それを横取りするとは、女神様が許しても、この私がゆるしませんよぉ」


 マリアはドヤ顔で、エリーナに人差し指を突き付けた。黒髪ぱっつんのロングヘアーが風に揺れる。


「貴方は本当に、食べ物のこととなると人が変わりますわねぇ。彼女は、あなた達より少し多く取ったようにしか、私には見えませんでしたが」

「その少しが、争いの種となるんですよぉ、エリーナさん」


 後ろにいる平民のシスター達から賞賛の声が上がり、マリアの顔がにやけた。


「その単純な性格を早く直してくださいまし。煽てられてその気になるのは見ていて恥ずかしいですわよ。私と同じ、数少ない聖女候補なのですから、少しはその自覚を持ちなさい。20歳以下では、私たちふたりだけなのですわよ!」


 マリアの後ろから、彼女の友人が顔を出す。


「エリーナさんは、そんなマリアが好きなくせにさぁ」


 エリーナの顔が真っ赤になる。


「上等ですわ! 今日こそ貴方達を血祭りにして差し上げますわ!」


 エリーナが切れ、貴族チームに活気が溢れる。


 双方の睨み合いが続く中、マリアの頭の中に、聖女の声が鳴り響く。

 

 魔法による念話だ。

 

 マリアは慌てて目を閉じる。耳を押さえ、外界からシャットアウトした。


 ――何となく、嫌な予感がした。

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