第19話 再開

 城門前は広く開けた場所となっている。近くに兵舎や訓練場等があり、兵士などが常駐している場所である。


 普段は何もない場所だが、今はたくさんの馬車と兵士が並んでいる。その兵士達に、空から降りて来る二人は注目の的となっていた。


 マリアはソフィーに下され、地面のありがたみに感謝する。

 先程、部屋に取りへ戻ったバスケットはマリアの腕の中で、赤ん坊を持つかのよう大事に抱えられている。

 少しは慣れたのか、小鹿の震えがなくなった。成長を感じると、マリアは少しの感動を覚えた。


「マリア!」


 後ろから声を掛けられ、振り返ると手を振ってこちらに走ってくるアンナの姿が見えた。

 予想外の相手にマリアは驚いていると、アンナが抱き着いてくるため、バスケットは少し横に避難させ、しばらく片腕だけで抱えることにした。


「まさかもう会うとは思わなかったよ」


 そう言ってアンナはすぐにマリアから離れる。


「どうしてここに居るんです?」

「どうしてって、私も先行で要塞都市ヴァレッタまで行くから」

「そんな話は初耳ですけど? 王国から教会に支援要請の話が来たんですか?」

「そうだよ? 教皇様が参加者を募ったから、私が挙手したって話。マリアも行くんでしょ?」

「そうですね、私も行く話になってますけど、危険ですよ?」

「それはマリアだって同じ話だからね」

「それはまぁ、そうなんですけどもー」

 

 マリアは少し、困った顔になる。

 アンナは教会内で、平民の中ではマリアに次ぐ実力者である。貴族の中でも決して能力が低い訳ではないし、ある程度の体術も習得している。

 それでも不安なものは不安だ。

 

「だけど大丈夫だよ。私は前線に出るわけじゃないから。どちらかと言うと、向こうの教会と王国の人の仲介役みたいなのが主な仕事だからさ」

「······では、大丈夫ですかねぇ?」


 マリアは悩み、唸りだす。

 

「失礼だなぁ、これでも私の方が先輩なんだぞ」

「心配することに先輩後輩もないですよー」

「それはまぁ、そうなんだけどさ」

「参加者はアンナだけなんですか?」

「私もおりますよ、マリアさん」


 アンナの後ろから優雅に歩いてくるのは、エリーナとその御付き2人組だ。


「エリーナさん、朝ぶりですねぇ」

「ええ、その事は忘れて下さい。今すぐに」


 圧を感じたため、マリアは頷いておいた。

 エリーナはマリアの首元をしばらく眺め、足を小刻みに揺らし始める。


「マリアさん、首元に何も付いていない様な気がするのですが?」

「え? ああ、あれですね」


 ポケットから星のアクセサリーを出し、エリーナに見せた後、再び元に戻した。


「大事な物だから、ここに仕舞っているんですよ」


 実際は違う理由だが、正直に言う訳にもいかない。マリアとしても、まったくの嘘と言う訳でもない。大事なもので、傷つけたくない気持ちはちゃんとある。


「そ、そうなんですのね」


 足の揺れが止まり、エリーナは満足気な顔になる。

 朝のことは忘れろと言われたんだけどなぁ、とマリアは疑問に思った。


「え? え? 何の話?」


 アンナは2人の方をキョロキョロと見回す。


「何でもないですわ。アンナさん、私達にはまだやることがありますでしょ? さっさと行きますわよ」


 エリーナは何気なく動かした目線に、少し離れてこちらを見ているソフィーの顔が映る。エリーナの体がびくっと、震えた。慌てて背を向け、速足で歩き出す。


「ちょ、ちょっと、エリーナさん? それじゃあマリア、またね」


 アンナは手を振った後、エリーナとお付き2人組を追っかけて行く。


 マリアは4人が見えなくなるまで手を上げて見送った後、ソフィーの姿を探した。

 思ったよりも離れた場所でこちらを眺めている。しかも、先程よりも少し不機嫌そうだ。


「どうしたんですか?」


 マリアは近付き、声を掛けると、ふいっと、顔を背けられる。

 

「分かりません。ただ、無性に腹が立っています」

「え? 何か怖いんですけど?」

「なので、一発殴ってもいいでしょうか?」


 ソフィーは目線だけ、マリアの方に向ける。

 

「駄目に決まってますよ。殺す気ですか?」

「殺さない程度なら、良いと言うことでしょうか?」

「駄目です。頭を撫でるで我慢してください」

「では、結構です」


 視線まで背けられる。


 これはいじけているのだろうか? マリアが悩んでいると、再び声を掛けられる。


「ソフィー様、マリア様、こちらへ来ていただいてかまいませんか?」


 オーランドは相変わらず嘘くさい笑顔を振り撒き、華麗なる手捌きで奥の方へと、誘導してくる。


 ソフィーが歩き出すと、前に居る兵士達の人壁が綺麗に別れ、道が出来る。


 奥に演説台がある。

 ソフィーは迷わず演説台の方に向かっている。

 まさか、とマリアは勝手に期待した。ソフィーは台に上らず端の方に行くと、こちらの方に振り向いた後、またそっぽ向く。

 マリアはがっかりしながら、ソフィーの後ろに回った。


 オーランドは演説台に上がり、喋り出したものの、あっさりと終わらせる。


「意外と簡単に終わらせてしまいましたね」

「今はその時じゃないってことですよ。自己満足の演説など、したくはありませんからね」


 なるほど、とマリアは何となく納得した後、辺りを見回す。


「冒険者の方は呼ばなかったんですか?」

「彼らは彼ら独自で動いてますよ。その方が、実力を発揮できるでしょうから」


 バルカスさんや、イレーネさん達と戦えれば心強いのになぁと、マリアは思った。


 オーランドに馬車まで案内される。

 すごく立派な王室専用の馬車で、とても煌びやかだ。前の荷台とは違い、人を乗せるためだけの馬車である。個室は例え4人でも、広々と乗れそうだ。


「ソフィーはなんの躊躇もなく馬車に乗り込む」


 さすがは王族だと、マリアは感心する。


「どうしたんですか?」

「えっと、いいんですかね?」


 マリアはさすがに躊躇した。


「あなたは、私の護衛だったと思いますが?」

「えっと、はい、そうですね」

「私の傍にいなくて、護衛できるんですか?」


 ソフィー、ふぃっとそっぽ向く。


「確かに、それは無理ですねぇ」


 マリアは口元を綻ばせ、馬車の中に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る