魔王様は世界を救うそうです

Blue

第1話 魔王様は神様と出会う

「ここはどこだ?」

俺は気がつくと、永遠に続く地平線ちへいせんのようなところに立っていた。

しかし、さっきまで...勇者と戦って...そうか、負けたのか。

「仕方がないな、いさぎよく負けを認めないといけない...」

俺が一歩踏み歩くと、下から水の音がした。

下を見ると透き通る水が長く、地平線ちへいせんの向こうまで薄く広がっていた。また、空を見上げると、広大こうだいな青い空とともに、雲が流れてくる。

それはそれはとても美しく、一生ここにいてもいいと思えるような...そんな場所だった。

「あなた...いや、シオンといったほうが良いでしょうか、勇者の手によって倒されました」

突如、大人のような優しい声とともに、想定していた事実を聞くことができた。

そう、俺の生前の名前はシオンだった。まあ...もう、死んでるがな。

そして、気配が全くしなかった。水による足音も全くしなかった。足音がしない...つまりはだいたいそういう奴はかなりの強者だ。もしくは浮遊しながら来たタイプか...

どんなやつが来るのか...わくわくして、心が踊るな。

「あんたが神か」

俺が、すっと後ろを振り向く...可愛いいピンク色のショートカットで、透き通るような黄色い目。きれいな肌、服は...薄い青色の膝くらいしかないワンピースだった。丈が短いからか、脚が見えて、ちょっとドキドキする。身長は俺のほうが遥かに高いから、上目遣いをして見てくる...。何とは言わないけど攻撃力が高かった。俺はすぐさま思考を戻す。

神ってもっと神々しくないのか?もし、今、俺が考えていることを一言で表すとなれば...

「ロリ...」

「ちょっとぉ!最近、私が気にしていることを言ってぇ!」

おそらく神と考えられるこの人物は、さっきの大人らしい女性の声から打って変わって急激に幼い声になった。正直、驚いた。

「私はこれでも16世紀は生きてるのに!」

「だいたい1600歳か...」

正直に言えば、とある魔族の友達に3000年ほど生きているやつがいたため、俺はあまりびっくりしなかった。まあ、魔族の平均寿命は800歳で寿命は長いからな。

「私みたいなお姉さんにはロリという単語は失礼だからね」

「もはやお姉さん通り越してBBAババア何じゃね?」

「ちょっと!この魔王、すごく失礼なんだけど」

自称お姉さんは、頬を膨らまして拗ねてしまった。まあ、そこまで怒ってはないだろう。

「私が優しくてよかったね。私はステラ。一応だけど神様の中でも幹部あたりの役なんだからね」

「へえ、でも使えない新人みたいな雰囲気が漂ってるけど...」

「こんな生意気なやつ...ロリとは何回か言われたことあるけど、こいつみたいなやつは生まれて初めてだわ...」

「そうか、みんな優しかったんだな...」

「いや、全然そうじゃないわ...なんならセクハラしてくるやつもいた。そいつらは全員、地獄に堕としたわ」

一瞬まじの顔になった。怖っ。

まあ、確かに体が小さめで、容姿は可愛らしいからわからなくもない。ちゃんと胸も平均的にあるから...まあ、そんな話はどうでもいいか。それよりも...

「あいつは、デニトはちゃんと地獄に落ちてくれましたか?」

デニトというのは、勇者のことだ。いや、勇者からはかけ離れているがな。

デニトは、人間とは到底思えないような異常な量の魔力の大きさと、圧倒的な剣術の才能を持って生まれてきた。いや、生まれてきてしまったといったほうが良いだろう...いわゆる自分の才能によって堕ちた勇者だ。

「...ちゃんと倒せてましたよ」

ステラは俺にほほえみ、頭を撫でてきた。よく頑張ったよ、とか...そうやって褒めてくれた。

「そう、なら良かった...」

俺は、心の底からあの世界を守ることができてよかったと思った。すると自然に自身の顔に笑みが浮かんだ。

「それでですね」

「...」

俺は、この後こいつの言うことに見当がついていた。

おそらく、記憶・能力をリセットして別の個体で転生...神の言うことはだいたいそうだと言われている。

「あ〜。半分正解ですね」

「やっぱりな....半分?」

半分とは、もしかして地獄を堪能してから行けと言っているのか?

仕方ないな...あの騒動のときに少なからずとも人間を殺してしまった。

彼らの報いを得ることは必要だろうしな。

「いや、そうじゃなくてですね...」

ステラは自身の胸元に両手を置き、先程と同じように、少し微笑みながら...告げる。

「前世でのあなたの活躍がたくさんの神々に認められたので、記憶や能力の引き継ぎの権利を許可します」

「記憶と能力を引き継げる?つまりは...」

「そうです。今、あなたが考えているとおりで、前世とあまり変わりのない生活ができます。それでも私の権限で操作をするので上限はありますがね」

「いや、でもあいつらに会えないなら...そんな記憶は必要はないな」

自身のことを好いていた友、眷属たちが一人も...全くと言ってもいない...そんな世界、俺は必要はないと思う。

「はあ、誰がそんなこと言ったんですか。知り合いのことを大事に思っているのは良いですが、そんな顔されていると逆にこっちが苦しくなりますよ...」

ステラは苦笑い...そんなに俺の顔がやばかったのか...なんか悲しっ。

「つまり、どういう...」

「私からのプレゼントだと思ってください。他の神様たちには秘密ですからね!」

ステラのこれから言う事に、俺は...聴覚、視覚を集中させる。そして、

「...シオン、あなたは相打ちで死んでしまった222年後に転生します」

「222年後...それは何かしらの意図があるのか」

「はい、1つ目はその世代は戦闘の水準がとても落ちていることです」

「水準?どれくらい落ちてしまっているんだ?」

一般的な魔族が使えていた上級魔法が使えないくらいだろうか...

「もう...中級魔法が使える魔族は半数を下回りました」

「は、半数?!!」

中級魔法なんて、魔法が好きな子供魔族たちが城にいたずらしてポンポン放ってたぞ...

いや、何ならたくさんの魔力使って上級魔法で家とかを半壊させた事件もあったような。

「そうなんです...平和になったことで魔法を使うことが減りましたし、色々な料理とかも電気エネルギーというものが発明されたことで火属性魔法も必要なくなりましたから」

そ、そうなのか...時代ってすごいなあ。

「でも、そんなこと言ってる暇はないんです。その辺の世代から魔物が活性化し始めますから」

「活性化...それが起こるとその時代の人達の力だけでは乗り切れられないんですか」

「残念ですがそうなんです。私も原因はわかりませんが、何者かが起こしているのではないかと思います。なので、上級魔法などを使える人達を、魔物に対抗できる人達を増やしてほしいんです」

俺が死んでから222年後の人達は大変だな...平和な世界を過ごしていたと思ったら、急に魔物の力が強くなっちゃって。

まあ、大体の眷属たちは長生きだから会えるだろうし、別にそれでいいかな。

「わかりました。その要件を受けました」

「そうですか...良かった。あなたが生を受ける種族は混血の人間です。人間の血が7割で、魔族の血が3割くらいです。」

「へえ、人間か」

前世では仲良くなることができなかった人間。この時代になれば、人間と魔族が共存しているのか。

では、まず何をするべきだろうか...何に生まれるかもわからないからな...ちょっとわくわくする。

「あなたのお母さんは美人さんですよ〜。セクハラ行為はめっですよ」

「しねえって、あと俺は美人な人よりも可愛い人のほうがタイプだからな」

....心の声が漏れた。やべっ。

「......もしかして私、今こいつに告白された?すいませ〜ん、こいつきもいで〜す!」

「はあっ?おまえみたいなロリババアには興味ないしっ」

「うわ、何か凄くグサッと来たわっ...」

ステラはちょっと胸を抑えながら下を向く。

まあ、確かに可愛いと思ってしまう俺がいる。ちくしょうめ。

「...あとです。あなたには1つスキルを追加で授けようと思うわ」

「スキル?」

「これね」

ステラの綺麗な手のひらから小さい桃色の光の玉が出てくる。その光はそのまま俺のもとに来て、やがて俺の心臓となるところに入っていく。

「そのスキルは心通しんつうって言ってね...まあ簡単に言えば私に会えたり話せたりできるわ」

「なんで俺なんかにこんなスキルを...」

俺はステラに聞く。するとステラは重々しく口を開き...

「それには重大な理由があるの」

「それは....」

俺はステラの今日一番の思い口を見た。そして、不安を和らげるためなのか、俺はつばを飲んでしまった。その言葉をステラが言い放つとき、俺はもう一度つばを飲む。

「...話し相手がいなくて、暇だったの」

「....はあ?」

俺は、絶対にこいつが神でいいわけがないと思った。こんなやつにお世話されてたとか...ヤダわ〜。...でも、友達くらいのイメージだったら良さそうだな。

「ごめん、嫌だった?スキルを付けた直前なら外せるから...」

ステラは俺に嫌がられていると思ったのだろうか、急に不安そうな顔に変わる。

俺の反応が大きくて、ステラに心配させちゃったかな...

「...いや、別に外さなくていいよ。俺も楽しかったし...」

「良かった...嫌われたと思ったよぉ...神の中でも私は、女子の神たちから嫌われてるから」

ステラはホッとしたように大きく息を吐く。

まあ、確かに容姿がほぼ全て優秀だからね。嫉妬されるだろうな...色々な人...じゃなくて神だったな。

「神とか魔族とか関係なく、改めて友達になろう。ステラ」

俺はこのとき、ありったけの笑顔だったと思う。なんでだろうな...初めての神の友達だったからかな、色々なことをしてくれたからかな、もしかしたら体を目当てだったのかもしれない。

けど、この子といると毎日が楽しくなると俺はそう思った。だから笑ってほしい。

「ステラは笑顔のほうが似合ってるよ」

..........やべ、なんかだいぶキザなセリフ言っちゃったわ。キモイだろ、そんなセリフ。

俺は心の底から恥ずかしさが込み上げてきた。

「......」

頼む、なんか言ってくれ。

「ほんと、キモいな〜シオンは」

「うぐっ」

ステラが普通に若い女子にみえるせいか、凄くクリーンヒットした。

俺は精神的ダメージを深く負ってしまい、その場で崩れ落ちた。

「はあ...」

「......まあ、でもね」

俺はゆっくりとステラの方へ向く。

「ちょっとだけ嬉しかった」

ステラはほんのりだが、頬を赤らめて笑う。そんなステラは俺から見ても可愛くて...白色で...うん、なぜ白色?

「うっ」

「えっ、何...?」

「いや、まじで何でもない...気にしないで」

「ふ、ふうん?」

まずい、下着が見えてしまった...

見たときにちゃんとラインが見えていたせいか、記憶から全く離れなかった。

こんなことで興奮状態になってどうする、魔王シオン。お前はサキュバスとかの誘惑にも打ち勝ってきた男だぞ。

「うぅ...」

「ふふふっ、いいこと言ってた思ったら...急に頭抑えたりして、忙しいなぁ」

ステラは口元に手をおいて、おかしそうに笑う。

まあ、バレてないなら...まだいいかな。

「じゃあ、そろそろ転生の時間だよ」

「そうか、じゃあ一度お別れだな」

「お別れ...いつ聞いても嫌な単語だね」

ステラは少し寂しそうに言う。でも、微笑みは崩さず。

お別れ...まあ、確かに嬉しい単語ではないよな。でもさ

「また会えるって意味を付け足したお別れなら、悪いことじゃないんじゃないか?」

「...うん、そうだね。」

ステラの寂しそうな笑みが、少し減ったような...そんな気がした。

「その円盤に入れば行けるよ。最初は赤ちゃんで生まれるから現実の世界では喋れないからね」

「それでも、喋りたくなったら...心通ってやつあるだろ?」

「...うん。いつでも喋りに来ていいよ」

俺はステラの言う解読ができない言語でたくさん記載されている円盤の上へ乗る。すると、円盤は光輝き始める。

「行ってくるね」

「うん」

そして、俺の視界は光の輝きで見えなくなった。


*


シオンがいなくなったこの地平線は、静寂に包まれた。その中、ステラが呟く。

「行ってらっしゃい」

そんな誰にも聞こえなかった言葉は、地平線でのそよ風によってかき消された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る