0 それは……


 夜明け間近で白む湾の水面を俯瞰で臨み――333メートルの紅白電波塔や様々な超高層ビルが建っている都心からは、多少外れてはいるが23区のうちの1区にあたる一戸建て住宅街の奥……路地を行った突き当りに佇むその外観は割にきちんと管理されている二階建ての一軒家。

 敷地内を仕切るブロック塀の簡易門扉の郵便受けに、『TAKAⅯINE』の表札。横にシャッター付きのスチール製ボックスの車庫。奥行きのある屋敷の外観に、囲む芝生の庭。自然な茂みを背にしているこの二階建て一軒家は、今の住人より一年ほど前に、勝手に住み付いた所謂俺にとってのアジトだ。

 当時、路地から死角となる納戸の窓が換気のためか開いていて、そこから侵入し……床板をうまくヒッペがえして、地面に穴を掘り……屋敷のこれまた奥の緑地の茂みのそのまた奥に……土手下の拓けたところまで横穴を掘り進み……別の出入口を拵えた。都心からズレれば案外都内でも誰も管理していない自然な緑地、所謂青地が存在している。ま、一応、整理されたとしても、もともと鎮守の社があるので、よっぽどの変わり者でなければ疑う余地もないであろう……が。掘削のためのスコップなどの道具は容易にホームセンターで購入できるが、屋敷とは別棟の小屋の中から道具を勝手に拝借して、洗って返した。

 ま、高峰家族が移り住んできて早一年が経つが、未だ俺らのことはバレていないどころか、商売をこの家族を中心に仕掛けさせてもらっていて、一種の小遣い稼ぎにもなっている。ま、俺はフリーな技術者が表向きで。ときより裏稼業もしてはいるが、こういった一般的なほのぼの家庭には手出しはしない。狙うは、キナ臭えぇ金持ちらの隠し未納財産だ。

 軍資金が募ったところで俺は、高峰家族が越してくる前の地下アジトに、開発ラボ等プラントを地下に造って。ロボットアームをネット注文で購入し。ついでに実現可能と思っていたオールアシスタント女子タイプのAI仕様のアンドロイドの見た目がリアリティあるヒトガタ女子までをも拵えてしまっている。今は、人工知能もシンギュラリティ越えして、言動をも今時女子と引けをとってはいない。永遠の二十歳女子で。ま、俺も生粋の野郎なので夜の営みも処理していることは大人的な事情で情事だ。が、ま、あまりエロくなると「ヒくぅー」輩もいるであろうから、男欲生理的処置のことはさらっとして。所謂アンドロイド女子は俺の裏表の活動をアシストするパートナーだ。命名、望月零華。

 ああ、あちらさんが俺らに気づかぬかと、今では盗撮カメラを忍ばせてもらっている。

 と、語っている俺は、景山数希、44歳で。育ち方の具合で孤独主義。俺もまた零華の力を借りて……サイボーグ化して、永遠のこの年齢のままの不死となってしまっている。

 では、前座はこのくらいで、お時間となったようなので、本題の高峰家の、特に次女の奈菜未を中心に語っていこうとしようか。と、今をも高峰家のライブ映像を監視中につき。

 グラグラとする巷の映像が、その地下のコントロールルームのモニターに映る!

「地震じゃないよ、我が君。大気が揺らいだ感じ? ラーニングデータで探っても、過去の歴史上でも……NGだし」と、零華が普通に話す。

「OK零華。もうすぐ夜が明ける。高峰家に今日は電子レンジの修理依頼だ」と、表稼業七つ道具バッグをテーブル上に出す俺、景山数希!


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