一章 再会、四月
入学式の片付けを終えてすぐ、
一年の教室に向かう前に、生徒昇降口に寄った。昇降口には、一年生の名前が張り出されているのだ。
ここ私立
昇降口の上に貼られた膨大な量の名前に目を通していく。一学年九クラス。総勢二百七十名もの新入生の中から目的の人物を探し出すのは、普通ならば至難の業だ。
――いた。
一分もしないうちに、宗茂雪子の名前を発見する。一年一組だ。
九クラスのうち、一~三組は普通科で、四~六組が特進クラス、七~九組がスポーツクラスだ。これは全学年に共通している。
三年生の時の宗茂雪子は、三年二組――普通科だった。だから、名前があるとしたら普通科クラスだと予想していた。
その時、チャイムが鳴った。遠くでざわめきが聞こえる。入学説明会が終わったのだ。
――まずい!
人混みに紛れられると探し出すのは困難だ。
昇降口から渡り廊下を抜けて、教室棟へと入る。新入生や付き添いの保護者でごった返した廊下を進み、一年一組の教室へと辿り着く。
「っ!」
生徒達の中から探し出すまでもなかった。人目を引く長い黒髪が、目の前で揺れる。
「
教室から出てきた雪子の肩を掴んで、声を張り上げる。周りにいた生徒達が不審な目を向けてきたが、今はまったく気にならなかった。
「あの、私に何か?」
雪子は、怪訝な顔で啓明を見上げている。
正面からじっと見つめて、確信した。どこからどう見ても宗茂雪子本人だ。
「宗茂雪子さん、ですよね」
「はい。……あの、なんで敬語なんですか? 貴方の方が先輩ですよね?」
啓明のスリッパを見て、雪子が小首を傾げる。今年の一年のスリッパとスカーフの色は赤だ。スカーフの色は今年度から新しくなっているが、スリッパの色は変わらない。そう、一ヶ月前の雪子が身に着けていたものと同じ、赤のままだ。
「なんでここにいるんですか?」
「? あの、言ってる意味がよく……」
「一ヶ月前に卒業したはずの貴女が、どうして一年生になってるのかって訊いてるんです!」
「!」
雪子の顔色が変わった。
「お前……」
じりじりと後退りをしながら、右手を振る。中庭で見たのとまったく同じ動きだ。
「またそれですか。一体何なんですか? あの時もやってましたよね」
「お前、何故覚えている⁉」
突如、雪子が大声を張り上げた。生徒達の視線が一斉に雪子へと集まるが、当の本人はまったく意に介さず、啓明を睨みつけている。
啓明自身、困惑を隠しきれずにいた。雪子が何者なのかは不明だが、こんな風に人目をはばからず怒鳴りつけてくるとは思わなかった。
周囲に人が集まってくる。このままここで騒いでいると、先生を呼ばれかねない。
どうするべきかと思案していると、唐突に腕を掴まれた。
「ちょっと来い!」
雪子に引っ張られ、縺れる足で歩き出す。
「えっ」
「いいから、言う事を聞け!」
雪子の迫力に気圧されて、今度こそ口を噤む。
――一体何が起きてるんだ⁉
腕を振りほどく事もできないまま、啓明は雪子の後をついていく事しかできなかった。
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