第4話 夢から覚めたい

今この人は、変なことを言った。


これは夢ではない?

でもそれはおかしい。

ジークリオンが現実にいるはずがないもの。


「貴女の名前を教えてください。」


ふわあ!

攻略対象者から名前を聞かれてしまった。

まるで『月光の贄姫』のヒロインみたいだ。


『月光の贄姫』は、ヒロインが神殿の大理石の床に描かれた大きな魔方陣の中で目覚めるところから物語が始まる。


そして、攻略対象者の一人……ジークリオン・オブリージュ教皇猊下がヒロインに尋ねるのだ。


ちょうどこんな風に……。


そう言えば、私のことを聖女と言っていたような?


紗良は眉間に皺をよせた。


それはヒロインへの台詞だ。


ジークリオンは間違えているけれど、夢だからその辺りは適当なのかも。

うーん。

早く目を覚ましたいのに、この夢……しつこい。


ジークリオンは私の返事を待っているのか、ジッと見詰めてくる。

この現実離れした美形が跪いて目の高さを紗良に合わせてくる。


近い! 近い! 近すぎる!


ジークリオンは自分の顔が女性に与える破壊力を自覚するべきだ。


紗良の顔は真っ赤になってしまった。

ドクンドクンと打つ心臓の音がうるさい。

夢だというのにジークリオンのクオリティは高過ぎだ。

このままでは紗良の心臓が壊れて死んでしまうかもしれない。

ジークリオンの透明度の高い薄い青みがかった瞳はこんなにも心臓に悪のに、見つめ続けられて、もう紗良は虫の息だった。


ジークリオンは困惑していた。

名前を聞いただけなのに、何故か彼女をうっかり仕留めてしまったような気がしてくるのだ。その証拠に彼女は先ほどから息も絶え絶えになっている。


このままでは拉致があかないと、ジークリオンはもう一度尋ねた。


「私に、貴女の名前を教えてください。」


この拷問のような時間に耐えきれなくなった紗良は、ヒロインじゃないのに! と思いながらもしぶしぶこたえた。


「月山 紗良です。」


漸く彼女の名前を知ることができたジークリオンは安堵した。


召喚された聖女の名前は重要である。

神殿の奥の秘めらた場所に安置されている玉に聖女の真名を刻まなければならないのだ。

それは聖女とこの世界を繋ぐ鎖でもあり、聖女を守護する神玉でもあった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る