異世界に拉致された私はラスボス魔王さまから食べられそうです

紫水晶猫

第1話 プロローグ

今日発売の『月光の贄姫』のファンブック、ぎりぎり買えてよかった!


紗良は胸に本屋の袋を抱きしめた。


『月光の贄姫』は、今、大ブレイクしている乙女ゲームだ。

友達から勧められて始めたのだが、すぐに夢中になってしまった。

出てくる攻略対象者の一人にハートを根こそぎ奪われてしまったのだ。


フェルリアン・ノルディ第一王子さま!


金色の髪に深い海色の瞳。繊細なつくりの整った綺麗な顔立ち。それがもう麗しくて麗しくて!あ―、尊い!


ほかの攻略対象者には目も暮れず、彼のルートだけを何十周もした。


本屋さんからの足取りも軽く、夕暮れの街を家へと急ぐ。


今日は土曜日だから一晩中フェルリアンさまと一緒にいられる!ゲームの中であっても彼の眼差しは紗良にだけに注がれる。毎回、ぷるぷると体を震わせて悶絶死するくらい幸せだった。


フェルリアンさまのことを考えて上の空になっていたせいか、紗良の足元の地面が歪に波紋を描くように波打ち始めたことに全く気がつかなかった。


そして、急に夕暮れとはいえ闇が深くなったのにも。


波打つ地面から二本の手がニョキっとでてきた。


紗良が気づく間もなく、それは両足首に絡みつき引っぱられる。


「え! 何? 」


気づいた時には既に手遅れで、紗良は地面の中へ瞬く間に引き込まれてしまった。



ボコッと地面がうねる。



そこにはもう紗良の姿は無かった。

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