プロローグ いつか見る夢

 ――アキラくんは、ボクにとって文字通り太陽のような存在だった。

 

 面白くて、何よりも優しい大切な人――人殺しのボクにできた初めての友達であり、かけがえのない親友。

 

 今でも色濃く思い出せるのは、12歳の頃アキラくんと二人でお母さんを救うため奮闘した霞葉島での冒険だ。

 

 アキラくんはボクが研究員だけでなく父親を殺してしまった事実を知っても、変わらず友達でいてくれた。

 

 結局お母さんを助けられず絶望で立ち上がれずにいたボクにも、温かい言葉とともに手を差し伸べてくれた。

 

 あの出来事をきっかけに、ボクは孤独に囚われた過去から解放されたんだ。

 

 きっとこの頃から自覚していなかっただけで、ボクにとってアキラくんは、すでに親友を超えた『特別な存在』だったんだと思う。

 

 それがになってしまった瞬間、ボクの純白の憧れは黒い羨望に塗り潰されてしまったんだ。


「カイト……?」

 アキラくんの弱々しい声で、ボクは現実に引き戻される。衝動で押し倒したアキラくんの笑顔が不安でかげっていた。


 アキラくんはあくまで友達で、親友。

 ナナミから両親を奪ったボクに、割り込む資格はないと、何度も何度も自分に言い聞かせてきたのに……。


「ごめんね……」

 

 わずかに残る理性から、口が動く。

 ボクは、一体どんな顔をしていたんだろう。

 アキラくんは抵抗もせず、緊張した面持ちでボクを見つめ返していた。

 

 ……いっそのこと拒絶でも悪態でもついてくれれば、この思いを立ち切れたのに。


 魔が差す。

 

 ボクは何物にも変え難い陽だまりを、宝物の思い出を、今まさに浅ましい欲望で穢そうとしていた。それも、嬉々として。

 ナナミのことだって、平気で裏切ろうとしている。

 

 だって体が、本能が、それを望んでいるんだ。抗えるはずがなかった。

 これがボクの中で眠っていた、憧憬の本質なのだから。


「……今だけでいいから、ボクを見て。アキラくん」

 

 思考が追いつかず動けないアキラくんをいいことに、ボクは彼の左右の手首をそれぞれ片方ずつ押さえ、姑息に逃げ場を殺す。


「可愛いよ、大好き」


 それでもボクを突き放せない健気な姿に、考えるより先に口走っていた。

 ボクは長年体を侵食していた毒を分け与えるように、アキラくんに口づけを落とした――。

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