第14話 シルバン草原で、冒険者を助けよう

王都に着いた次の日の早朝、早速4人でシルバン草原に向かうことになった。


ここ1~2年はシアもノアも強くなり、セオやルーカスが付いていれば護衛なしで出かける許可が、両親から出ている。

この四人とクロエとモモちゃんがいれば、中級魔獣の縄張りくらいは余裕である。



王都近くは貴族も平民も魔術師も冒険者も、ありとあらゆる人がいるので、貴族令嬢なんて珍しくはないのだが、魔獣の縄張りではやはり目立つとのことで、魔法でブラウンの髪と瞳に変える。

光の屈折と目の錯覚を利用した魔法で、水魔法の一種だ。


更に動きやすいように、フワフワの髪の毛をキュッと纏めて高いところで結び、伯爵領でも使っていた冒険者用の服装に着替える。


動きやすいパンツスタイルに、胸当てと肩当てだけはミスリル素材。

それに背後の守りにもなり、防寒防水に優れるフードのあるマント。


残念ながら、オシャレよりも実用性重視。普段は可愛い恰好大好きだけど、可愛い冒険者服というものがほとんどないので仕方がない。

自分で作っても良いのだけれど、立場的にあまり目立ちたくない。



準備を整えて玄関ホールへ行く。

皆似たような格好をして準備万全だった。



「これ、先日採れた魔石を加工したものです。気休め程度ですが、シア様を守ってくれると思いますので、どうぞ。」

「わあ・・・・。」


以前セオが見つけた大きな水の魔石が、綺麗にカッティングされ、革ひもが付けられている。

職人に頼んで加工したのだろう。


元々の石の形を生かしたドロップ型。

中心は傷一つなく透き通って、周囲は繊細に細かくカットされてキラキラと光を反射している。


受け取ろうと手を差し出すが、セオはそのまま私の後ろに回り込んでしまう。

どうやら結んだ髪の毛に取り付けてくれているようだ。


「出来ました。お似合いですよ。」

「・・・・・ありがとうセオ。」

「どういたしまして。」



目立つのは困るけれども、やっぱり可愛いアイテム1つあると気分が明るくなる。

セオの気持ちが嬉しかった。





「・・・・セオさんが強すぎる。」

「あれに勝つのは大変だぞ、ルーカス。」








*****









「ルーカス、お願い!」

「任せて。」


草原に入って警戒しながら歩くことしばらく、早速獣型の魔獣、毒狼が5~6頭走り寄ってきた。



―――まだ魔獣の縄張りの外れの方なのに現れるのが少し早いわね。まあ防御シールドは草原に入る少し前から私がバッチリ張っているけど!




毒狼は連携を取っているらしく、シアたちを取り囲むようにしてジリジリと近づいてきていた。




ルーカスがシールドの外へ出ると、モモちゃんが足元に寄り添う。

モモちゃんもシールドが得意なので、いざという時助けてくれるだろう。




―――でも・・・・正直必要ないでしょうけど。

  


チュドォォォォーーン




ルーカスがスッと手を向けたかと思いきや、もの凄い威力の火柱が走り、毒狼など一瞬で消し炭となってしまう。



いつ見てもすごい攻撃力だ。

そこまでしなくても・・・と思わず毒狼に同情してしまう。




―――ルーカスは出会った時、既に魔力量が飛び抜けてあったのよね。私たち3人は、元々魔力量が低いのを、ミッションをこなしてコツコツ増やしていったのだけど。





毒狼は毛皮もゴワゴワで毒の処理も必要なので、例え黒こげにしなくても素材にはできない。

だからルーカスも丸焼きにしたんだろう。




間引きした魔獣は、耳などを切って証拠として持っていけば、その分討伐料金はもらえる。

ルーカスは焦げて程よく火の通った耳を手際よく切れ味の良いナイフで切り取り、しっかり回収している。


お給金は十分に払っているが、学費を出来るだけ自分で払いたいからと、よく休みに一人でも魔獣を狩りにいっているらしい。



「・・・魔獣の数が草原の広さに対して増えすぎですね。今日は出来る範囲で間引いていきましょう。」


索敵をしているセオが言う。


伯爵領の魔獣の森は、シアたちがミッションで倒しすぎたせいか、常にスカスカ。良い感じに風通しが良かった。


魔獣がいなくなりすぎても素材が採れなくなるし、それ目当ての冒険者も減る。

不思議とその地域の魔力も薄れて活気が無くなってしまう。


バランスが大切なので苦労した。




でも王都近くの草原の魔獣が増えすぎというのはいただけない。

あまりに増えすぎると縄張りから溢れ出て、居住区に被害が出かねないからだ。

勿論王都の周りはグルリと丈夫な壁で囲われているのだけど。



「じゃあどんどん魔獣を倒していって、もし困っている冒険者さんがいたら助けましょう。」

「そうしよう。」



そういえば、シアと一緒にミッションをこなすと、その一緒にミッションをやった人もレベルアップしていくのだが、シアがいないところでミッションをやっても何も変わらないことが分かっていた。


何度も試してみたけれど、それはセオでもノアでもルーカスでも同じ結果だった。


そのことが決定的になった時、セオに真剣な顔で「絶対にこのことは内緒にしましょう」と言われてしまった。


シアと一緒にいる時だけ、本来なら上がらないはずの魔力量が上がる。

そんな事が知られたら、悪用しようという人も当然出てくるし、伯爵家よりも上位の貴族や王家が黙っていないだろうとの事だ。






ドオオオォォーーーン!




その時、小さな音が聞こえた。

遠くで鳴っている大きな音が小さく聞こえる。

そんな音だった。



聞き慣れているこの音は、何かの攻撃魔法だろう。


ドオォォォン!ドオォォォン!ドオォォォン!


続けざまに連発しているようだ。


ただの冒険者の魔獣狩り・・・かもしれないが、ミッションの事が気になる。




「これって攻撃魔法だよね。」

「そうだな。連発しているという事は魔獣が複数いるか、一撃では倒せていないという事だ。行こう。」



ノアの提案に反対する者はいなかった。




音のする方向に向かって行くにつれて、どんどん魔獣が増えていく。


―――嫌な予感がする。


「ノア!ルーカス!先行って。モモちゃん連れて行って良いから。」



シアは皆に比べて足が遅かった。


この様子だと恐らく魔獣に囲まれているだろう冒険者さんが心配だ。少しでも早く行った方が良いだろう。


「私とクロエがシア様に付いていますので大丈夫です。」


セオがそう言ってくれて、ノアとルーカスがスピードを上げた。

前の二人が目の前の魔獣だけを蹴散らして進んでいくので、そこら辺に魔獣が残っている。

信頼されている証だ。



「シア様、私たちは落ち着いて、ゆっくりと倒しながら追いかけましょう。」

「うん!」



人数は減ってしまったけれど不安はない。



―――セオと私が一緒にいて、中級魔獣程度に後れを取る訳がないからね!






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