第13話 5年後

早いもので、この乙女ゲームの世界に転生してから、5年が経とうとしていた。

12歳。来月にはシアも王都の学園に入学する年だ。


「もうすぐ王都のお屋敷に着きますよ。」


一緒に馬車に乗っているセオが知らせてくれる。

道が綺麗に舗装されたものに代わり、大分時間が経っている。


そろそろ王都中心の貴族街にある、イーストランド伯爵邸に着くころだと、シアも気が付いていた。


待ちきれずにのぞき窓から外を見ると、ちょうど屋敷の門を通り抜けるところだった。



馬車が停まる。


外の使用人がドアを開けるために近づくのも待ちきれず、シアは自分からドアを開け放った。



「シア!セオも。待っていたよ。」

「ノア!ルーカス!」



1年早く学園に通っていた、ノアとルーカスが出迎えてくれる。



慌てて後ろから差し出してくるセオの手を借りて馬車を飛び降りると、早速ノアに抱き着いた。


逞しくなった腕が危なげなく抱きとめてくれる。


「ノア久しぶり!これからまた一緒に住めるね。」



ノアが王都の屋敷に住みだしてから、シアも一緒に住みたいと言ったのだけど、娘に甘い両親でも、それは許してくれなかった。


まあまだ子供なので仕方がない。


両親が領地にいる時は領地に、社交界シーズンで王都にいる時は王都にと、一緒に移動していた。



離れていたのはほんの数か月なのに、ノアもルーカスも大分成長して、背なんかほぼ大人と変わらないくらい伸びている。



街でルーカスを助けてから5年。シアとノア、ルーカスとセオの四人でミッションをこなす日々を過ごした。


ルーカスはみるみる強くなって、攻撃力ではあっという間に、4人の中で一番強くなってしまった。


―――防御は私が一番だけどね!



ルーカスに会うまでは攻撃面を担ってくれていたノアは、風で物を浮かせたりのコントロールの方に集中できるようになった。


単独で空を飛べる日も近いかもしれない。

ノアは攻撃もできるけれども、そっちの方が元から得意でやりたかったらしい。


本当に、ルーカスがいてくれて助かった。



両親も子ども達がどんどん強くなっている事は分かるらしくて、少しずつ行動範囲を広げる事を許してくれた。

この四人で、領地でミッションに励んだ5年間で、皆あらゆる面で成長していた。







王都やその周辺には、冒険者や修行中の魔術師にちょうど良いレベルの魔獣のいる森や草原がいくつかあるらしい。

これからまた四人でミッションに挑む日々を送れると、楽しみでシアの胸は高鳴った。






「それにしてもノア、ちょっと見ない間に雰囲気変わった?なんだか頼もしくなった。絶対学園でモテるでしょ。」


久しぶりに会ったノアは、貴公子ぶりに磨きがかかっていた。

元から金髪サラサラの可愛らしい顔に加えて、しなやかな筋肉もついて魔力量も上がって自信がついたのか、もうキラッキラである。



乙女ゲームの攻略対象なんて目じゃない。



シアは内心、『私が育てました』と思っている。



「こっちのセリフだよシア。こんなに素敵なレディーになっているなんて驚きだ。学園に入ったら男どもが寄ってくるだろうから、出来るだけ私と一緒にいるんだよ。」

「もう。ノアまでそんな事言って。お父様たちの過保護がうつってしまったの?」



小さい頃は仲が悪かったのが信じられないくらい、今ではノアは好きなお兄ちゃんだ。

シアが既に、その辺の魔獣が束になっても敵わないほどに強くなっていると知っていても、昔と変わらず大切に守ってくれる。


「ルーカスも!格好良くなったね。」


ノアと同じ年のルーカスは、四人でミッションをしているうちにどんどん強くなったので、平民の従者でありながら特例で学園に一緒に通っている。


学費はイーストランド伯爵家持ち。


優秀な人材の囲い込みというやつだ。




「あ・・・は・・・はい。あり、ありが、ありがとうございます。」


ルーカスは、シアと久しぶりに会う時はいつも、最初は真っ赤になって緊張している。



もう貴族なんて見慣れて、珍しくもなんともないだろうに。

まあしばらく一緒に行動していればすぐに普通に戻るのだけど。



「ぁ・・ぁ・・・シア様も・・きれ・・・(メッチャ小さい声)」



「ねえノア!王都近くの魔獣の縄張りに行ったことある?早く一緒に行きたいな。」

「・・・・・・・・・・そうだね。まあまずはゆっくり休んで。セオも、シアのお守りをありがとう。お疲れ様。」

「お心遣いありがとうございます。」




荷物は使用人たちが整理してくれるので、シアがやる事と言ったら旅装を解いてお風呂に入るくらいだった。


ミッションを繰り返すうちに体力お化けになっているので、旅の疲れは特にない。


ゆっくりとお湯に浸かって出たら、自分の魔法で一瞬で髪の毛の水分を飛ばす。

慣れている侍女は、それに驚きもせず、お気に入りの香油を丁寧に髪に塗り込んでくれる。


モモちゃんもお風呂に入れて気持ち良さそうだ。

・・・・精霊なので実はお風呂に入る必要はないのだけれど。



ブルブル震えて水分を飛ばそうとするモモちゃんも、魔法で乾かしてあげる。



ポッカポカでフワッフワのフェネック。


 モモちゃんのフワフワになった体に顔をうずめて、シアは幸せを吸い込んだ。





楽なドレスに着替えると、ノアがお茶に誘ってくれた。

ちなみに今は社交シーズン真っただ中で、お父様とお母様はどうしても断れない筋からのお誘いがあり、どこかのカントリーハウスに滞在中だ。


―――数日がかりの社交・・・大変ね。

そのお陰でどうせ一人で領地にいても仕方ないからと、シアが早めに王都に来ることが出来たのだけど。





ガラス張りの温室のティーテーブルに皆が集まる。

温室に咲く花を眺めるのも好きだし、ガラスから差し込む計算された光も素敵でお気に入りの場所だ。

秘密の話をするにも向いている。




!ミッション

☆☆☆☆☆  シルバン草原で冒険者を助けよう

☆       



「ノア、ルーカス、シルバン草原って、知っている?王都近くみたいなんだけど。」

「ああ、主に中級の魔獣が出る草原だよ。一度ルーカスと行った事がある。」




魔獣が発生する場所は大体決まっていて、決まった縄張りから出てくることは稀である。

森なら森、草原なら草原で暮らしていて、冒険者などが自分から足を踏み入れなければ日常で襲われる事は少ない。

ではなぜわざわざ足を踏み入れる人がいるかというと、貴重な魔石や薬草などは、その縄張り内にあることが多いのだ。

魔力に満ちているから魔獣が集まるのか、魔獣が集まるから魔力に満ちるのか・・・。



また、ごく稀にある魔獣の集団暴走(スタンピード)に備えての訓練などを行う為、自ら縄張りに入っていく者は後を絶たない。

魔獣が増えすぎても外に溢れ出てしまうので、魔獣を倒せば国などが買い取ってくれる。


王都の周辺に魔獣の縄張りが多いのは、逆に資源が豊富で魔力に満ち溢れている場所だからという事でもあるのだ。だから国有数の冒険者や騎士団が王都に集中している。



「そこで『冒険者を助ける』っていうミッションがきてるんだ。それが気になってて。」


こう言ってはなんだけど、魔獣の縄張りで危険な目に遭っている冒険者なんて日々数えきれないくらいいるだろう。

それなのにわざわざミッションがくるとは、その冒険者とやらに、何か因縁めいたものを感じる。


「・・・・草原で死ぬ冒険者なんて、いくらでもいるだろうしな。」

「ルーカスの時みたいに、何か出会う縁みたいなものがあるのかも。」



ルーカスとの出会いは完全に縁だと思っている。今やシアたちのチームになくてはならないエースだ。


ちなみに得意なのは火の魔法。


―――あの時ミッションで出会えて本当に良かった。


今度の冒険者とやらも、きっと何か意味があるに違いないと、シアは考えていた。



「ねえ、じゃあ早速これからちょっと行ってみない?」

「・・・・せめて明日だよ、シア。」



―――ちぇっ、ダメか。こういう意味でもノア、逞しくなっちゃったなぁ。








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