あなたにお礼を伝えたく
深月風花
第1話
列車に揺られていた。静かな窓の外は雨が降っているのだろう。窓に落ちる雨粒は夜の光に照らされて、斜め下へと伸びていく。
一体どれくらい眠ってしまっていたのだろう。外は既に日が落ちて長いようだ。カタンカタンと揺れるリズムが心地よく、私はふたたび眠りを貪ろうとする。何故かとても疲れていた。どうして、そんなに疲れているのだか。
思い返してみても、首を捻るばかり。
私はいつも通り銀行に出勤し、窓口での業務と融資相談に来たお客様にお茶を入れた。それから、二時頃にお茶を配り、最後の勘定締めもつつがなく終わった。午後五時頃帰路へ。
それから、いつも通りに駅に着き、いつも通りに改札をくぐった。いつも通り……。いや、雨が降ってきていた。あ、傘がないわと思いながら、列車に飛び乗った。
少しずつ夢から覚めていく頭が夢から覚めない体を億劫に思い、羞恥を私に思い出させた。
そして、そっと周りを見回す。
乗客は私だけだった。人に居眠りを見られなかった安心感から、ほっと息をつく。嫁入り前の娘が、と親にはよく言われるのだ。
嫁入り前の娘が夜に歩き回るだなんて。
私はその言葉にいつも不服を感じていた。
「すみません。勝手させて頂いています」と口で言いつつ、歩き回っているのではなくて、仕事をしているのだと言いたくなる。遅くにといっても八時までには帰られるように仕事も切り上げるようにしている。
窓の外はいつもよりも夜が深い気がする。
今は一体どこの駅なのだろう。乗り過ごしていないと良いのだけれど……。
車掌も来ないまま、私はただ列車に揺られ続けた。
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