オニネコ

鬱宗光

序章 猫耳ショタは心を救う

仕事で精神を病み会社を辞めた。


奨学金や車のローンを終わらせ、半年くらい働かなくても暮らせる程度の貯金もある。


次のステップを踏むには充分な蓄えであった。



しかし、ステップを踏む前に、私は適応障害と言う精神病を三度も再発させて分かった事がある。


それは、例え時間があっても根本的な解決にならないと言う事だ。



休みがあっても、心のモヤを完全に晴らす事はできない。例え、面白い事があっても所詮は麻酔みたいなものであり、ふと我に返れば元のモヤモヤした自分に戻ってしまう。



つまり、普段の生活ではダメだと言う事だ。


そのため、今まで自分に無かった何かを取り入れ、在り来たりな日常に新たな変化をもたらさなければならないと悟ったのでした。




私は退職後。


運良く空きが出たペット可のアパートへ引っ越した。


しかも実家も近いので心のゆとりも確保できた。



新居へ引っ越しをしてから二週間後。



私は早速、長年の夢でもあった猫を求めて、実家の母と妹と共にペットショップへと向かった。



そして、秒で決まった。


生後五ヶ月、オスのラガマフィンだ。


ブルータビーで長毛、人懐っこくて甘えん坊な性格。


普段猫に好かれない私でも、不思議と懐いてくれるとうとい子猫であった。



子猫の名前は、ヨリ。


私の妹より可愛い"弟"である。



ヨリのお迎え当日。


大半の猫は、警戒して外に出たがらないと聞くが、好奇心旺盛なヨリに至っては、直ぐに外へ出ては辺りを物色していました。



そのため、ヨリがゲージに入っている時は、ゴロゴロ、ミャーミャー、キュルキュルと甘えた声でこちらをじっと見つめながら、構ってアピールを繰り返していました。


特に、夜の構ってアピールは凄まじく、ゲージをよじ登ったり、トイレの砂を荒らしたり、ケリケリへの八つ当たりなど、音を出してのアピールをして来るので眠ろうにも眠れません。



何て可愛い弟なのだろうか。



結局私は、弟の構ってアピールに負けて、ヨリが満足するまで遊んでいます。



妹には、甘やかし過ぎるは良くないと言われますが、この誘惑には勝てません。例え、我慢したとしても限界を迎えるのは早いです。



そんないとしのヨリ君ですが、一度だけ噛まれた事があります。


それは、大好きな猫じゃらしで遊んで居る時の事。ヨリ君が猫じゃらしの先っぽを引っこ抜き慌てた私が取り上げようとした際に、驚いたのか、それとも"おもちゃ"と間違えたのか、そのまま左手に強く噛みついてしまったのです。



生後五ヶ月のヨリきゅんでも、顎の力は強く、小さい犬歯でも鋭利なもので、普通に血が出ました。



まだ、ヨリきゅんが子猫だったため大事には至りませんでしたが、お兄ちゃんを噛んでしまった事に気づいたヨリきゅんは、凄く落ち込んだ様子で、涙目になりながら、お気に入りの毛布をポムポムしながら顔を擦り付けて、弱々しくミャーミャーと言ってました。


こんな健気な行動に、思わず私は泣きそうになりました。


気分屋な猫でも、ヨリきゅんはまだ生後五ヶ月、そんな子が、人の痛みが分かってくれる優しくて凄い子なのだと感動しました。


私は"大丈夫、大丈夫だよ"っと語り掛け落ち着かせようとしますが、ゲージ内をウロウロしたり、水を飲む時にむせてしまう程、ヨリきゅんは動揺していました。




とまあ、そんな過去もありました。



そして今現在では…。



ヨリ「兄さん♪兄さん♪今日も僕は良い子に普通の猫を演じました♪ナデナデを所望します♪」


うちの可愛い弟のヨリは、突如前触れもなく、普通の猫の姿から自分の意思で猫耳ショタになれる、何とも夢の様な能力を会得していたのであった。



今日は、実の息子よりも末っ子のヨリを目当てに母と妹が来ており、二人が満足気に帰った後、ヨリは猫の姿から猫耳ショタへと姿を変えた。



全裸にも関わらず、子供の様に尻尾を振っては、ナデナデを要求するヨルに、私は慣れた手つきでヨリを撫でながら、密かに買っていた子供用の服を取り出した。


兄「偉いぞヨリ~♪それより、先に服を着ようか~♪」


ヨリ「服を着たら直ぐに遊んでくれる?」


兄「あぁ~、もちろんだ。今日は何をしたいんだ?」


ヨリ「うん!今日は兄さんのお膝の上に座ってゲームがしたい~♪」


兄「はいはい、それじゃあ、直ぐに用意するから、早く服を着なさい。」


ヨリ「うん!」



ヨリは嬉しそうに、兄さんから下着と服を受け取ると、早々に服を着始めた。



あぁ、なんて尊い光景なんだ……。


非現実的な光景。


ブルータビー色の短髪に、ピコピコと動く猫耳。


そして、ふわふわな尻尾…。


ヨリはオスだけど、顔が美形なため、一見女の子にも見えてしまう、男の娘系のルックスを持っていた。



ちなみに、今のヨリを知る者は、兄である私だけである。一応、家族にも話してはいるが、鼻で笑われ、妹からは中二病はそろそろ卒業しろと言われる始末である。


そもそも、ヨリのこの姿は、私と二人っきりの時にしか見せてくれないのだ。しかし、良く考えて見れば、猫耳ショタと言う非現実的な生き物が存在したとなれば、十中八九、変な研究者や変な組織に連れて行かれるだろう。


そのため、このまま隠し続けていた方が、都合が良い訳である。




兄「あ、そうだヨリ?ゲームは何やるんだ?スーパー土管男?それとも、シン・ケモ耳無双?人生落後者ゲーム?」


ヨリ「うーん、人生落後者ゲームが良い!前回、兄さんに負けてるからね。」


兄「えー?負けと言っても、あの時はヨリの方が余裕で勝ってただろ?まあ、ゴール手前の決算マスの所で、調子に乗って成功率二十パーセントしかないルーレットを回して破産して負けたのは面白かったけど、実質ヨリの勝ちみたいなものだろ?」


ヨリ「あ、あの時は、兄さんが見るも無惨なボロボロの結果だったから、ちょっと手加減をしようと思ったんだけど、まさか、所持金を全部取られるとは思わなかったから…。」


兄「結局、CPに負けるは、貧乏レベルの資金差で俺が三位に滑り込んで、ヨリが"ゲッピ"(最下位)だったわけだ。」


ヨリ「えへへ、兄さんと同じくらいなら、それはそれで面白いけどね♪」


兄「ヨリはポジティブだな。絶対的首位から最後の決算でゲッピだからな。最後自分のキャラに、うんこ落とされたのにあんなに笑いこけてな。」


ヨリ「それはゲームの仕様だからいいんだよ♪僕は勝敗よりも、兄さんと楽しく遊べればそれでいいんだから~♪」


兄「っ!?よ、ヨリ…、お前って子は本当にいい子だな~。」


ヨリ「えへへ~♪ゴロゴロ♪」


ヨリの純粋過ぎる優しい心のお陰で、適応障害で荒んでいた私の心は、今では健やかな気分である。


私は、ヨリを抱き寄せて頭を撫でまくった。


するとヨリは、"もっと撫でて"と言わんばかりに頭を擦り寄せ、甘えん坊モード全開で答えるのであった。





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