第8話 沙由里
飲み会になると、いつも、聡と沙由里、莉子の3人組とその他の4人というように分かれていったの。沙由里と莉子が、ガンガン聡にアタックしていて、こんな狭い世界で、そんなに本性、丸出しにしなくてもいいのに。
当人どうしだとわからないのかしら。男性なんて、どこにでもいるのにね。なんか、こういう会になると、付き合う人を探す目的みたいな人も多くて困るわ。もう少し、心穏やかに飲みたい人もいるのに。
美鈴のこと言ってるんじゃないわよ。沙由里と莉子のこと。なんか、見苦しいっていうか、汚れたもの見てる感じがして気持ち悪くなっちゃう。女をあんなに出さなくてもいいのに。また、沙由里と莉子の間に走る緊張を見てると、ハラハラしちゃう。
聡とはというと、なんか女性2人から猛アタックを受けて、まんざらでもなさそう。商社マンということが女性2人には響いたのかしら。くだらない。
沙由里と莉子は、お互いに微笑んで仲良さげな表情だけど、誰からみても、対抗心丸出し。もっと、聡が、2人をなだめるとか、どっちか一方を選ぶとかしないと、雰囲気が悪くなって困るのに、男性にはわからないのかしら。
後で聞いたんだけど、聡は、その会の1週間後に沙由里とイギリスに旅行に行ったらしいのよ。
「ロンドンは、いかにもヨーロッパっていう建物ばかりで、きれいよね。海外旅行らしくて、来てよかったわ。」
「僕も同感。まず、どこに行こうか。見どころがいっぱいあるからね。今日は、バッキンガム宮殿とウィンザー城に行こうと思ってるけど、どう?」
「聡が決めたなら、そうしよう。楽しみ。」
バッキンガム宮殿は権威を感じる宮殿で、衛兵の交代式もあり、ロンドンらしいなって感じたわね。衛兵も、立派でかっこいいと思ったけど、聡はそれ以上って感じで、私の自慢。
聡は、背は高い方で、筋肉もしっかりあって、その割に、顔は温和で優しそう。そのうち、リアル派なのかは聞くけど、多分、現実世界でも、このままだと思う。だって、商社ってメタバースと現実世界の職場で行き来することが多いって聞いているから、アバターと本人が違うと困るでしょ。
その後、電車に乗ってウィンザー城に向かったの。ここも、いかにも中世のお城って感じでおしゃれだと思う。お城からは、街並みとかも見下ろせて、ヨーロッパの女王様になったって感じ。
お城の中も入れて、インテリアは、おしゃれだけど、落ち着ける空間よね。もしかしたら、私は、女王の生まれ変わりかもなんて考えちゃった。
ウィンザー城へは電車で向かって、観光としては贅沢な時間の使い方だけど、聡と一緒なら、電車の中も楽しいし、問題はないわね。
ところで、メタバースロンドンでは、人種差別とかには厳しくて、アジア人だからって不愉快に思うようなことは一つもなかった。スキップしていると、可愛らしいお嬢さんって、周りはみんな微笑んでくれる。ロンドンなら現実世界でも大丈夫だと思うけど。
ロンドンって、初めて来たけど、とってもおしゃれだと思ったわ。また、お料理は美味しくないとは聞いてたけど、そんなこともなかった。やっぱり、世界の一流の都市だと料理も一流だと思う。聡と一緒だから美味しく感じてるのかもしれないけど。
かなり昔の話になるけど、幼稚園の頃とか、美しいドレスや、お姫様の絵柄のバックを買ってもらったりして、お姫様になれると思っていた。今から思うと、何も知らないっていうことが、かわいい女の子の条件なのかもしれない。
それから、年を取るにつれて、誰もがお姫様になれるわけじゃないことも知った。そして、何も取り柄がない私が、社会人になって初めて付き合ったのは、何も仕事をせずに、私の給料をあてにして生きる、いわゆるヒモ男。
見た目はかっこいいのよ。スラリとして、私と外を歩くと、誰もが振り向くぐらいイケメン。自慢できる彼。女性の扱いも上手くて、褒めてくれると、その日の苦労とか全部忘れちゃうって感じ。
多分、多くの女性を手なずけてきたんだと思う。そして、選んで、選んで最後に辿り着いたのが私なのよ。だから、より自慢できるじゃない。
いつも、私には優しい言葉をかけてくれるんだけど、仕事は、いくら言っても全くしないの。競馬で、一発当てるなんて言って私にお金をせびるだけで、バイトもしない。ホストでも何でもいいから働いてよって、泣いて言ったら、暴力を振るわれちゃった。
こんなイケメンと付き合えるなら、たまの暴力ぐらいの欠点があっても、仕方がないかな。人には長所もあれば、短所もあるし。私には大した取り柄はないし、高望みはできないものね。
でも、青いあざをつけて職場に行ったら、みんな、そんな人とは別れた方がいいって。そうはいっても、優しい声をかけてくれるから、それから3ヶ月ぐらいは付き合っていた。
一旦暴力を行うようになった、その男性は、その後、暴力を頻繁にふるうようになって、結局、その彼とは別れたの。そして、それから、自分の寂しさを埋めるために、不特定の男性と寝る日々を過ごすようになった。
もちろん、みんなと同じ、普通の恋愛をしたかったのよ。でも、どうしてなんだろう。長続きする彼はいなかった。そのうち、彼がいない時間がどんどん増えていき、寂しくて、寂しくて耐えられなくなったの。
でも、男性とエッチをすれば、いつも、かわいいねって褒めてくれるし、寂しい時間を過ごすこともないことに気づいた。
朝まで一緒に過ごして、ずっと、この人、私のことを思ってくれてると思い込むのが日常となっていた。ある彼が今夜は用事があって会えないっていうと、別の彼と一緒にって感じで。
私だって分かってるのよ。この人は、私のことが好きじゃなくて、私の体が目当てなんだって。だって、私も、この人に恋してるわけでもないもの。
だからエッチが終わると、私は、ずっと体を寄り添っていたいのに、彼は、疲れているからってすぐに寝ちゃう。そんな感じだもの。
ホテルに向かうまでは、私のこと最大限にチヤホヤして、ベットの上で、次はいつにするって聞くと、しばらくは仕事があって無理だから、予定が空いたら連絡するよと冷たく返事があることも多い。そんなに私のことを好きなら、最優先にしてよって思うわよね。
でも、私も、そんなに愛してるってわけでもないし、もしかしたら、この人、家族とかいるかもしれないなって思っても、それ以上、踏み込むのはやめてる。私には、体を差し出して、自分の寂しさを埋めることができればいいし。
その中で、見つけたのが聡。聡は、私の体も目当てなんだとは思うけど、私のことを大切にしてくれる。そんな人は、これまでいなかった。
彼は、私のドール服を見て、縫い方とかすごいねって褒めてくれた。そう、男性って、ドール服を可愛いと口では言うけど、関心ないものね。そして、今、どんな流行なのとかも聞いてくれて、私は、ずっと話し続けた。
この人だったら、こんな何もできない私のことでも、興味を持って接してくれる。私をお姫様にだってしてくれる。もちろん、ドール服のことだけじゃなくて、私が休日とか何しているのとか、大学の時にどんな部活していたのとか聞いてくれる。そんな人、これまでいなかった。
そして、チャットでも、すぐに返事くれる。これって、私のことに興味があるんだと思う。それも、エッチしたら、急に冷たくなるんじゃなくて、ずっと、ずっと。
また、聡は、商社でもエリートで、どんどん注目されているプロジェクトをリードしているんだって。すごいよね。やっぱり、男性って、仕事できてなんぼだものね。
会社の人は、聡のこと、まだ若いけど、みんな一目おいているのかしら。みんな、北村 聡って言ったら、あの優秀な人ねって、誰もが思うのかもしれない。私って、何も自慢するものないから、そんな人の彼女になって自慢したい。
私のことだけじゃないのよ。そんな人は、仕事で嫌なこともあって、心がすさんでいくだろうから、私が華やかな世界に戻して、心を支えて、聡の夢を一緒に実現するの。聡だったら、大きな夢を実現できると思う。
やっぱり女性ができることには限界があるのよ。でも男性は違う。限界を打破する力があるもの。だから、私は、聡を応援し、支えて、自分ではできない目標に向かって進む。
そういえば、この旅行では、ドール服じゃなくて、Vネックのバストがよく見えるワンピを着てきたの。私のチャームポイントは大きなバスト。これをアピールしないと。さっきから見てるけど、聡の目は私のバストに釘付け。やっぱり、男性には効果てきめんね。
会社では、採用という少し硬い仕事してるから、こんな服は着れないけど、やっぱり、ここでしょうという場面では、このワンピは使える。聡も、今日は一段と可愛いねって言ってくれたもの。
どうして、男性って、女性のバストが好きなのかしら。男性は、隠しているつもりかもしれないけど、見てるって100%わかるよね。私、背が高い男性が上から覗くのは好きじゃないけど、聡だったら、どうぞって感じなか。
顔は、基本はそのままだけど、唇の横にほくろがあるのがコンプレックスで、メタバースでは、それだけを消してる。結構大きいほくろだけど、もし、現実世界で見ても、嫌いにならないわよね。嫌いにならないくらい、好きにさせちゃうから。
あとは、バッチリ、メークしてるし、かなり綺麗な方だと思う。莉子は地味って感じで、男性は、そんな女性はつまらないって思うのよ。私みたく、華やかな感じじゃないと、男性の気持ちも上がらないじゃない。
莉子は、生活感漂ってるし、そんな庶民的な雰囲気って、聡は望んでないって。だから、私を、ロンドン旅行に誘ってくれたんだから。聡も、日々、仕事で忙しい中で、私と、ひとときでも華やかな時間で気晴らしをしたいの。
私だってモテるのよ。どの飲み会に行っても、その場だけなのは分かってるけど、可愛い、可愛いって多くの男性が群がってくる。その中で、聡を選んだんだから、何も取り柄のない莉子は諦めるべきなの。何、勘違いしているのかしら。
ところで、聡はロンドンにも仕事で来たことがあって、ここにあるものをよく知ってるの。今夜は、ジオールドチェジャーチーズというロンドンでも有名なローストビーフのお店なんだって。ローストビーフって、あまり美味しいと思ったことなかったけど、びっくりするぐらい美味しかった。
やっぱり、現地で有名なものは美味しいのね。そして、それを知ってる聡は大きく見えた。私の選んだ人は間違いなかったわね。
食事も終わり、ホテルに戻る道で、ロンドン橋がライトアップされていたの。きれいねって私が言ったら、聡は、急に私の顎に手を当てて、私の目を上に向けたから、聡の目を見つめた。
その時、聡の顔がスローモーションのように動いていくのが見えた。そして、気づいたら、私たち、口を重ねていた。最初は驚いて、ロンドン橋のライトアップが眩しかったけど、私もゆっくり目を閉じて、聡との甘い世界に浸ったの。
こんな技もできる聡は、さすがね。だって、一言も喋らずに、私の心を掴んだんだもの。でも、それって、私のことが本当に好きだからなんだと思う。
聡は、私の背中に腕を回して、ホテルに連れて行ってくれた。そして、部屋では、ジンで再度、乾杯した。ロンドンっていったらスコッチじゃないのって言ったら、ジンが有名なんだって。スコッチだったらスコットランドだろうと言って笑っていた。本当なのかしら。
強いお酒を飲ませて、私を酔わそうとしているのかも。そんなことしなくても、この体はあなたのものなのに。でも、少し酔ったかな。疲れたこともあって、ベットに向かうと、後ろから聡がゆっくりと抱いてくれた。
そして振り返ると、聡は私の唇を奪ったの。そして、ブラも外し、ベットに寝かしつけて、パンツも後ろから自然に脱がしてくれた。お上手ね。メタバースって不思議。バーチャルなのに、気持ちよさは現実世界と全く変わらない。
聡と私って、ベットの上でも相性がいいと思う。これって、これからずっと一緒に暮らすんだったら大切よね。私は、聡に決めた。絶対、この人と結婚するんだから。
聡は今、私の横でぐっすり寝ている。終わった後、横で寝てる男性の顔を見てるのが大好き。この子供みたいで、安心した顔つきが、可愛いいのよね。
莉子に勝ったわ。これで、聡は私のもの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます