第6話 女子会
美鈴から誘われて、女性2人だけで飲むことになったの。今回は、気さくにということで、部屋着で、こたつに座り、冷凍のポテトフライとサワーを囲んで飲むことにした。もちろんメタバースの私の部屋で。
美鈴の部屋着は、フードに猫の耳みたいのがついていて、全体がもこもこしていてかわいいわね。私は、Tシャツに、ロングスカートとフリースって格好だけど、やっぱり美鈴はアパレル関係。選ぶ服のセンスがいい。
「結構、いいメンバーが集まったよね。紗世も、この会、続けるよね。」
「続けるつもり。ただ、あの3人組は、浮いてるし、いつかいなくなりそうね。ところで、美鈴は、幸一と結構、仲良く話していたけど、気になっているって感じ?」
「結構、気に入っている。紗世は、どう思う?」
「いいんじゃない。優しそうだし。少し、女性慣れしてるのかなって感じもしたけど、全く、女性とは初めてなんて人も困るしね。」
「女性のことは良く理解しているみたいだけど、女性を弄ぶって感じはしないし、私は、いいと思うな。もし、紗世がその気がなければ、私、付き合ってみようかなと思うけど、大丈夫?」
「頑張って。私は、友達の彼とか横取りとかしないし。」
「ありがとう。それ聞いて安心した。実はね、もう付き合っているの。この前、シドニーに旅行して、一晩、一緒に過ごしたの。」
「え、もうエッチもしちゃったの?」
「そう。とっても優しく包み込んでくれて、私、幸せだった。」
「それは、おめでとう。結構、体は華奢な感じしたけど、どうだった。」
「そんなことないのよ。結構、筋肉とかあって、無駄がない体って感じ。そして、私、実は初めてだったんだけど、一つに繋がった時、この人とずっといたいと思ったんだよね。メタバースだから子供もできないし、安心じゃない。でも、いずれは現実世界で会って、結婚したいななんて考えている。なんか、気づくと幸一のことばかり考えちゃっていて。」
「そうなんだ。幸せなのね。じゃあ、7人の飲み会でお祝いしようよ。」
「みんなに言いたい気持ちはあるんだけど、それはまだ待って。もう少し、7人の飲み会では黙っていようと思うんだ。」
「どうして。」
「私は、本気だけど、幸一が、本当に私だけを好きになってくれるか不安もあるし。いいわよね。」
「いいけど。」
美鈴って、奥手かと思っていたけど、結構、手は早いのね。違うか、これまで経験がなかったって言ってたから、幸一のことが本当に気に入ったのね。そうそう、人のことを悪く言っちゃいけないわ。
でも、幸一、本当に美鈴のこと好きなのかしら。遊んでるって感じじゃないけど、なんか見た目だけじゃわからない何かがありそうな感じだものね。こんなに楽しそうにしてる美鈴を悲しめたりしたら、ただじゃ済ませないから。
でも、恋してる美鈴って、本当に愛らしい。私もそうだったのかな。私も、先輩の気持ちなんて考える余裕もなく、ただ、ひたすら攻めていたものね。迷惑だったかもしれないけど、あの頃が一番楽しかったな。
やっぱり、恋は女性をいきいきとさせるものなのね。体の中から活力が出て、体もいつの間にか踊り出しちゃう。肌もすべすべとなるし、髪の毛もツヤツヤするもの。逆に、恋をしないと、どんどんおばさんになっちゃう。今の私がそう。
私みたく、半年とかで振られた美鈴は見たくない。あんな悲しい思いをさせたくないもの。幸一とは、ずっと幸せに過ごしてもらいたい。
ところで、美鈴って、ごく普通なんだけど、私にとっては少し変わっている。私は、これまで女友達っていなかった。
男性って、子供のようで真っ直ぐだし、政治家とか、嫌なやつはいるけど、大半の人は、相手を貶めようなんて考えていない。女性は、陰で何やってるか分からないし、表情と考えていることが多くの場合で違う。
学生の時とか、私が学年トップの成績だった時、私の前では、笑顔で、すごい、すごいって褒めてくれたのに、見えないところで、他の女性たちと、あれしか特技ないものね、女を捨ててるよねなんて笑っていた。本当に、汚い生き物。
そして、男性の前では、あんなに甲斐甲斐しく振る舞っているのに、女性だけになると、何もしないでスマホ見てるだけとか、あなたのような庶民とは違うのって言わんばかりに、つけているアクセサリーを見せつけてきたりする。
また、飲み会とかに行くと、バストとか、ミニスカートから出るももとかを男性に見せて、誘ってる姿とか見ると、吐きそうになる。モデルの女性のフォルムとかは美しいとは思うけど、一般の人はそんなことないんだから、自覚した方がいいわよ。
その点では、男性は、邪念なく、気持ちは真っ直ぐだし、私のこととか暖かく守ってくれる。だから、私は、男性の方が付き合いやすいし、女友達はいらない。
そうは言っても、男性でも、相手には気を遣うから、一緒にいると疲れちゃう。だから、1人の方が楽だし、いつも、1人でいた。
こんな私だけど、美鈴とは、どうしてか、いつでも自然体で、一緒にいられる。多分、美鈴には邪念がないんだと思う。私のこと陰で悪口言っているなんて想像がつかないもの。
だから、初めてできた女友達なんだと思う。これから、お互いに結婚して、子供ができて年が経っても、この関係は続けていきたい。だって、何を話しても、素直に聞いてくれて、相談にのってくれるって嬉しいし、私も美鈴が喜ぶことをしたい。
「美鈴って、なんか趣味とかあるの?」
「う〜ん。特にないんだよね。あえていえば、食べることかな。」
「わかる。美味しいもの食べてる時って幸せになれるし。」
「そういえば、SNSでグルメ会とかあって、今回の7人の会のように、知らない人が集まって、いろいろなレストランを巡るなんてことはしてる。今の7人の会と違うのは、毎回、メンバーが変わることかな。大体、主催者が予約で1年かかるお店を6人で予約したので、参加したい人は連絡くださいなんていう募集をするの。そして、先着順で決まって、レストランで会うって感じかな。」
「そんな会があるんだ。よかったら、今度、一緒にいかせてもらえると嬉しいな。」
「分かった。値段は、その会ごとに違って、3,000円の時もあれば、3万円ぐらいの時もあるの。」
「3万円はちょっと無理。高くて、1万円ぐらいまでかな。」
「私たちの年代だと、そんな感じよね。ジャンルとか、好みはある? 焼肉とか、フレンチとか、お寿司とか、中華とか。」
「なんでもいいけど、あえてというなら、珍しい日本酒がある店とか。」
「それ、いいよね。そういえば、立ち飲みになっちゃうんだけど、お料理が何品かでて、あとは50種類ぐらいある日本酒をお店の冷蔵庫から勝手についで飲むっていう飲み放題のお店があったような。あ、これこれ、どう? 日本全国の日本酒で、珍しいものも多いってよ。有名どころでいうと、風の森とかもあるって。このお店、会員限定で、お店には看板もなくて、道路からは普通の家にしか見えないんだって。変わってるね。日にちは合う? 今度の土曜日だけど。」
「いける。ありがとう。楽しみ。何か、持っていくものあるの?」
「お金ぐらいかな。8,000円だって。紗世は美人だから、この会、男女で30人ぐらいだけど、特に男性は喜ぶんじゃないかな。」
「楽しみ。でも、美鈴の友達ってことで、ずっと、横にいてね。」
「大丈夫。でも、紗世が男性に呼ばれていっちゃうんじゃないかと思ってるけど。」
「そんなことないと思うな。私、奥手だし。」
「また〜。奥手にはみないぞ〜。」
2人で、笑いが絶えない時間が続いた。
でも、私の全てを美鈴に話してるわけじゃない。私だって、人に言えないこともある。それは、美鈴に嫌われたくないということじゃなく、私自身が自分を認められないことがあって、それは死ぬまで誰にも言わないつもり。
それでも、美鈴には、多くのことを自然体で話し、相談してる私のことは自分でもびっくり。美鈴は、どんな学生時代とかを過ごしてきたんだろう。
「それはそれとして、紗世は健斗と仲良さげだけど、どうなの?」
「美鈴ほどじゃないかな。まあ、悪い人じゃないし、付き合ってもいいかとも思うけど、健斗のことばかり考えちゃうなんて感じでもないし。」
「そうなんだ。結構、お似合いだと思ったけど。」
「なんていうかな。子供にも優しそうだし、とってもいい人なんだけど、なんか隠していることがあるような気がして、こっちも心から許せるまでにはいかないんだよね。もう少し一緒にいると変わるのかな?」
「なんか隠してる? 結婚しているとか?」
「そんなことはないと思うけど。どちらかというと、自分のことが好きで、あまり人を愛せないとか。よく分からない。私は、みんなには言ってなかったけど、つい最近まで別の男性と付き合っていて、別れたばかりなの。だから、まだ他の男性が好きになれないのかも。」
「そうなんだ。どんな男性だったの?」
「会社の先輩で、もしかしたら迷惑だったかもしれないけど、私の方で勝手に憧れて、私から付き合ってって告白したの。先輩は、優しくいいよと言ってくれて、幸せの半年を過ごしたんだけど、元カノとよりを戻したいって、振られちゃったのよ。」
「そうなんだ。でも、それって、ひどくない?」
「そんなことないわ。悪いのは、先輩の心に入り込んできた元カノなのよ。だって、一回、別れたんでしょ。何かあって別れたんだったら、もう諦めなさいって感じ。でも、忘れることにして、もっといい出会いがないかって考えることにしたの。」
「強いね。でも、絶対、もっといい出会いがあるって。明るい未来に向けて一緒に頑張ろうよ。」
「そうね。」
私は、別れた直後の切ない気持を思い出して、目から雫が少しだけ流れていた。美鈴は、気付いたと思うけど、みないふりして、優しく笑顔で微笑んでくれた。優しい子ね。幸一との関係を応援してあげないと。
女子会は終わり、こたつの中だけが暖かい、寒々しい部屋の中に私はぽつんと佇んでいた。なんか、人と話すと、その後は、人と会う前より寂しく感じる。男性と付き合えということなのかな。それとも、冬って、寂しく思わせる季節なの。
ベットに横になると、知らない間に、また涙が出ていた。出窓に置いてある、中世ヨーロッパ風のスタンドライトの光が滲んで見えた。私に、そんな過去を忘れて、もっと素敵な人がいるから、すぐに現れるからと話しかけているよう。
私は、入ったばかりで、まだ冷たい布団の中で、寂しさに押しつぶされそうになり、ずっと眠れない夜を過ごした。
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