第5話 シドニー
「わー、すてき。私、シドニーに来てみたかったの。幸一、今日は付き合ってくれてありがとう。」
「美鈴、そんなに喜んでくれると嬉しいよ。」
今日は幸一と2人でシドニーに来ていた。メタバースで会ってることも気軽に付き合える理由かな。自分の部屋に呼んでも、現実世界の住所とかわからないし、エッチしても、頭で感じてるだけだから子供ができる訳じゃない。
別れれば、私は彼をブロックすることもできる。ブロックしたら、どうなるかって。彼からは、私に連絡できないのはもちろんだけど、彼が私と会ったら、私は知らない人の顔、声とかにしか認識できないし、私のSNSでの投稿とか見えなくなるんだって。すごいよね。
ところで話しを戻すけど、ここはメタバースの世界で、現実世界のシドニーじゃないのよ。
世界各国で、現実世界とは別に、東京、ニューヨーク、バンコクとかのメタバース空間を立ち上げていて、そこで暮らしている人や旅行をする人が、そこで過ごしている。そこを訪れると、その風景を見れるし、そこに参加している人と会えるの。
私は、メタバース空間では東京に暮らしていて、現実世界の埼玉にいるときは、メタバースでは寝てることになっているの。アメリカ人とかが、メタバース東京へ旅行に来ると、そこで暮らしている私と会うかもね。
現実世界の海外旅行っていうのもあるんだけど、飛行機に乗っている時間は長くて窮屈だし、別にメタバースの海外も、現実とほとんど変わらないんだから、ほとんどの人は、海外旅行というとメタバースに行っている。
昔は、メタバースって、ゲーム以外でどこで使われるのって話題もあったみたいだけど、今では、観光で儲けている国は、いずれもメタバースで観光地を立ち上げないと儲からないって話しを聞いたこともある。
今日は、シドニーのセントラル駅からスタート。少し、遠かったけど、3Kmぐらいだったからオペラハウスまで歩いてみたの。欧米のような街並みがとってもすてきだし、海岸に来ると、爽やかな海風が気持ちいい。
12月だからシドニーは夏だけど、東京とは違い、そんなに暑い感じはないわね。
公園では、お母さんが、走り回っている子供の姿を見守っている。教会とか見えて、いかにも、欧米系の国って感じ。砂場では、子供どうしで砂のかけ合いが始まって、親たちが止めようとしていたわ。親子の関係って、どこの国でも同じで、微笑ましいわね。
メタバースの世界では、交通事故とかはないから、子育てということでいうと安心できるのかも。子供としては、経験できる幅が少なくなるからよくないとか言われて、今、どこまで経験できるようにするか研究がされているとか。紗世はIT会社にいるとか言っていたけど、仕事は無くならなくていいわね。
だいぶ歩いて疲れたので、海辺のレストランでランチを取ることにした。
「よく、歩いたね。少しだけどアップダウンとかもあったし、疲れたでしょ。」
「そうね。でも、大聖堂とかもみたし、いい観光だったわ。」
「僕なんかと、シドニーに来てくれたって嬉しいな。」
「何言っているのよ。幸一、とっても優しいし、せっかくシドニー行くんだったら、幸一と来たかったんだから。」
「ありがとう。美鈴といると、本当に楽しいよ。ところで、家に料理を配達してもらって実際は家で食べるモードじゃなくて、メタバース内でやってるレストランに入ってする食事って、味はするんだけど、現実世界では、別に栄養ドリンクを飲まなくちゃならないのは面倒だよね。」
「確かに。そのうち誰かが改善するんじゃない。」
「そうだといいけど。あ、頼んだハンバーガーが来たね。食べよう。」
「メタバースの世界って、日本語喋ってても、どの国でも、通じるからいいわよね。」
「本当に、そうだよね。現実社会で海外に行くと、言葉が通じなくて困ることもあるけど、ここだと、相手も日本語で話してくれて、本当に楽。」
「このハンバーのお肉は、オーストラリア産だよね。思ったより、美味しいじゃない。」
「同感。ただ、物価は高いよね。さっき、ペットボトルの水を買ったけど、500ml 1本で800円だよ。お酒の方が安いかもって感じ。でも、実際に体に入ってくるのは東京の僕の部屋から出る水道水ってところが複雑な気持ちだけど。」
「それも含めて旅行だから、仕方がないわよね。ねえ、幸一ってヘアサロンで働いてるって言ってたけど、嫌なお客さんとかもいるの?」
「ほとんど女性で、嫌っていう人はあまりいないかな。」
「そうよね。幸一、かっこいいから、多くの女性客から好かれているんだろうな。でも、今は私と付き合っているんだから、女性客から誘われても、ついて行っちゃだめよ。」
「大丈夫だよ。美鈴も、モテるでしょ。」
「私も、幸一一筋だから大丈夫。彼がいるって楽しいな。」
男性と一緒に旅行に来るなんて、これが初めて。なんか、自分に自信ないし、誘われても、こんな私でいいのかしらって悩んでいるうちに、ついつい機会を逃して24歳になっちゃった。エッチの経験もないし、こんな女性って、面倒くさいと思われるかしら。
でも、仕方がないでしょ。私より、すごい人なんていっぱいいるし、たとえば、私がアパレルの仕事ができているのも、店長の指導があってのこと。だから、あまり、でしゃばらないで、みんなが進んでいく後をついていくのがいいの。
時々、店長から、あなたは自分の考えがないのなんて言われることもあるけど、変なこと言っちゃって、そんなレベルかとバカにされるのは怖いし、それは自分が考えていたとか、自分の考えを否定するのかとか言われて、周りの人から嫌われたくもない。
だから、そうなんですよねなんて、適当に笑っておいた方が無難なの。別に、他の人を押し分けて自分なんて出したくないもの。
自分で言うのもなんだけど、私は、可愛いから、適当にやっていても、男性のお客さんは、みんなチヤホヤしてくれるし、女性のお客さんには、店長が言っていたアドバイスとかをすれば、そうだよねって言うだけ。
女性のお客さんには何を言っても、私のアドバイスなんて関係なく、買うかどうかを決めてるし、適当に話しを合わせておけばいいもの。むしろ、こちらの方がいいなんて自分の意見を言わない方がうまくいくしね。
そんな感じで、これまで生きてきたんだから、今更、変われないのよ。だから、私が変わるというよりは、こんな私に合う人を探すしかないもの。
でも、なかなか合う人はいないんだよね。男性といると、どうしてこの気持ち分かってくれないのと思うことも多いし、今、話しかけてこないでよって思うこともある。なんか、男性とは、上手くいかない。
そんなこと感じていた時に、今までとは違った幸一と出会えたの。幸一は、いつも、私の気持ちを先読みして、私が行きたい方向にエスコートしてくれる。また、今、話してこないでなんて時は、幸一は、私のこと、ただ黙って微笑んで見守ってくれている。
本当に最高なの。どうして、そんなに私のこと分かってくれるのかしら。
そんな中で、幸一は、助けてくれた時とか、かっこいいと思ったのはあるんだけど、いつも私の話しを聞いてくれるし、気持ちもとっても分かってくれるから、この人だと思ったの。
なんか、違うんだよね。これまでの人と。運命の出会いって、こういうこと言うのかしら。
今も、しっかりと私の手を握ってくれて、時々、私の顔を見て、楽しそうか、不安そうじゃないかとかと確認している。私は、そんな頼もしい幸一の顔をずっと見ていて、風景より見てる時間が多いんじゃないのって感じかな。
幸一と腕組んで、海辺ではキスとかもして、周りの人に、私たちが幸せなのを見せつけてあげる。そんな感じで、私は、幸一との時間があまりに楽しくて、はしゃぎすぎていたみたい。後から考えると、少し恥ずかしい。
でも不安もあるの。こんなにルックスも良くて性格もいいと、他の女性に関心が移って、捨てられちゃうんじゃないかって。でも、なぜか、幸一といると、背伸びしなくても自然体のままでいれるし、ずっと私のこと好きでいてくれそう。そこがいいんだよね。
そして、初めてを乗り越えるために、せっかくだから海外旅行に来てみたの。メタバースの世界なら、子供ができることないし、安心してエッチもできる。これまで、自分に自信がなくて失敗ばかりだったから、幸一とはずっと一緒にいたい。
その後、オペラハウスの前の広大な公園を散策して、夕方になったところでキーというレストランに入った。
「ここから見えるオペラハウスって、夕方の海に光でキラキラしていて本当に美しいわね。」
「シドニーならではの風景だと思う。美鈴とこれてよかった。」
「ねえ、私のこと、どこが好きなの?」
「素直なところかな。なんか、最初見た時に、この人だって思ったんだよ。でも、どうしてかなってずっと考えていたんだけど、とっても自分に素直で、真っ直ぐ生きているなって感じたんだ。」
「そうなんだ。嬉しいな。そうだ、料理とか選ばないと。基本はコースだけなのね。あれ、テイスティングのワインとかある。それって、よくない?」
「いいね。」
「じゃあ、コースとテイスティングでプレミアム・ワインを2名でお願いします。ここのレストラン、有名なシェフらしいし、楽しみね。」
「僕は、美鈴と一緒なら、どこでも楽しいんだけど。」
「また、嬉しいこと言ってくれる。本当に、幸一と一緒でよかった。」
そして、予約していたシャングリラホテルに2人で入り、私は、初めてを卒業した。
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