第7話 アイゼンヴァルト鉄鉱山2
周辺を探し、複数体のメタソルダーを発見。とりあえず複数いると厄介極まりないので先ほどと同じ手順でリックが残り一体に絞り、その一体との戦いはエルシャに引き継いだ。
「っ」
エルシャはメタソルダーの移動先の一部を凍らせて滑らせ転倒させてから、メタソルダーごと地面に氷漬けにし固定。
氷の槍を形成するとそれを握り魔力を込め、全身にも魔力を巡らせ、力強く槍を振り下ろした。
何度も、何度も。数十発の刺突打撃をへてメタソルダーの表面装甲が砕け、さらに数十発でようやく貫通し、メタソルダーは動かなくなる。
「お疲れ様。どうだ、簡単に倒せそうか?」
「簡単だったように見えたら、あなたの頭を疑うわ」
「いや全く。耐久力が高いって厄介だね」
「時間がかかるし、そもそも魔力的にそんなに相手できない。私でこれなら、閉鎖するのは無理もないわね」
「参考になったよ。さて」
リックはメタソルダーのメイスを一つ抱える。
「何する気?」
「師匠が磁力だの電磁力だのがどうとかって言いながら教えてくれた技があって。雷で焼けない上、硬いような相手にはこれ使えって。言ってることの半分も理解できなかったけど、要するに雷に打撃力を与えることができる魔法、かな」
「言ってることは分からないけど、何をやろうとしてるかは何となく察したわ」
魔力を高め、雷撃をメイスを握る手に付与し、強化された身体能力と、電撃魔法の両方を極めて精密に制御しながら投擲。
メイスは不自然な加速と共に金色の光になりながら、遠くにいたメタソルダー一体の胴体をぶち抜き消失した。
なお、投擲から着弾まではリックにしか見えず、余波といえるものは一切発生しない。
『純粋な電磁力で射出するならともかく、これは投擲と同時に魔法攻撃じゃ。狙った場所以外を破壊するようではまだまだ制御が甘いぞ? 精進せい』
過去、盛大に余波をぶちまけた時はそんな感じで指導された。前半何を言ってるか分からなかったが、余波をぶちまけるうちは未熟な証だそうだ。
「何、したの?」
「メイスを投げた。燃え尽きたけど」
「いや本当に何したのよ」
「師匠曰く、電磁力とやらで普通に投げるより加速させられるんだって。ま、メイスが燃え尽きるからボツで」
やっぱりカウンター気味に蹴り飛ばした方が今のところは一番早いし確実だ。
良い基礎鍛練にもなる。
そんなわけで、打撃二発で瞬殺する手順で鉱山から溢れたであろうメタソルダーを三時間ほど仕留めて回った。鉄鉱山そのものまでは行けなかったものの、周囲の安全確保と、久しぶりの金属入手としては十分だろう。
代表によって集められた兵士と市民はメタソルダーの死体を街へ運び、積み上げた。
夕方にはリックは新たなアイゼンヴァルト伯爵として、久しぶりの金属入手に湧きたつ民の前に立つ。就任演説のようなものだ。
「あんまり良いとこの育ちじゃないんで、貴族らしくないかもしれないが普段通り話させてもらう。アイゼンシュロス公よりアイゼンヴァルト伯爵の爵位を授かったリックだ。今日から諸君らの領主、ということになる。よろしく」
演説するなら無駄に長いのはやめよ、とはこれもイシュタルの言葉。
「この街は重工業の街だと聞いている。公国引いては帝国連合に金属と武器を拠出する重要拠点。それが鉱山に魔物が湧いたせいで仕事が停滞し、苦しめられているとも。ゆえに」
少しだけ区切る。
「領主として鉱山問題に早急に手を打つッ! ここに積み上げた魔物の死体はその証明だ。今回は領主となったお土産。公共投資としてタダだ。重工業の業者は後で市長から受け取って欲しい。そのかわり、原価分は値引きすること。この街の産業が再び活発になることを望む。以上だ」
リックは領民に拍手と共に迎えられた。
「配給終わりました」
「お疲れ様、マンフリット市長、エルシャ。問題なく行き渡ったか?」
「ええ。すごい活気だったわ。もう日が沈むっていうのに。よっぽど苦しんでいたみたいね」
「鉄を打つのはこの街にとってそれほど重要なことなのです。リック様に来て頂き感謝しますぞ」
「まだ早い。勝負はこっからだからな。鉄鉱山含め、周囲の鉱山に湧いた連中を片付けないと。ってなわけでちょっくら行ってくる」
「「え?」」
リック自身、あるいは領主権限が必要でないなら、リックがこの場にいる意味はない。
「休まなくて大丈夫?」
「暴れ足りなかったんだ。後は任せる」
「分かったわ。ご武運を。ちゃんと帰ってきなさいよ」
「当たり前だ」
そんなこんなで、雷撃を照明代わりにしてリックはアイゼンヴァルト鉄鉱山に一人で向かっていた。バックパックがない分身軽。持ち物はナイフだけだ。剣に関しては邪魔になるかもしれないので置いてきた。
道中出くわすメタソルダーは全て瞬殺。まだ溢れてることにどんだけいるのやら、と苦笑しつつ走る。死体とはいえその内訳は全てが何らかの金属だ。腐らない以上は放置して翌日回収でも問題ない。
一度死んだ魔物はどれだけ魔力を吸収しようと蘇ることもないわけで。
「っと、ここか」
坑道掘り、即ち地下に潜るようにして採掘しつつ、木材などで壁と天井を補強しながら進んでいく形の鉱山だ。
内部に入ると、数百のメタソルダーの視線に晒された。
「やべ」
そりゃ溢れてくるわけだ。ぎちぎちに詰まっているんだもの。
リックは即座に外に出て、メタソルダーを釣り出しながらそれらを丁寧に死体に変えていった。
二時間くらい繰り返し、ようやく鉱山内を探検できるかに思えたがリックの進軍はそこで止まってしまう。
「どんだけいるんだよ本当に」
メタソルダーの死体で鉱山の入り口が埋まってしまったので、掘り起こすのに一時間ほど追加で費やすことになった。
強引にやればもっと早くできたかもしれないが、鉱山が崩れたら洒落にならないのでやめておく。
「そんじゃ、改めましてお邪魔します」
中はそれなりに広かったが、広さとしては少し広めの部屋ぐらいのが延々と続いている感じだ。天井は高いし身動きするには困らないが、メタソルダーとやり合うことを考えたら狭い。そんな感じである。
魔法を使って行うのであろう排水用の水路や、車輪つき台車が幾つか放置されている。
メタソルダーは入り口近くには見えない。さっきリックが全部釣り出して外で始末したからだろう。
だが少し奥に進むだけで大軍勢と遭遇することに相成った。
「無理ッ!」
リックは即座に入り口から飛び出し外へ。崩落する危険性のある坑道内であの数と戦う気にはなれない。
外に釣り出し、一時間ほどかけて再び丁寧に始末した。
「こりゃ、大人数で突っ込んだら即挽肉パーティーだな」
ようやく鉱山内で戦えるだろう、と考えて坑道へ。
奥から溢れてきたのか、一体だけのメタソルダーに運よく遭遇。襲い掛かってくるそいつの突撃にカウンターを合わせようとしてふと止まる。
坑道内で盛大に吹っ飛ばしたらどうなるか。最悪、崩落する。
初撃の飛び膝蹴りの威力は下げざるを得ず、お互いに地面を滑りながら後退する程度に留めた。
横合いに向けて振るわれるメイスを、身を屈めて避ける。メイスが鉱山の壁に突き刺さり、ヒビを入れた。
舌打ちするリック。攻撃を避け続けても鉱山が崩落する可能性あり危険。
だがメイスが壁にめり込み動きを止めた相手の隙は見逃しはしない。打撃を連続で中央にぶち込み、メタソルダーを活動不能へと追い込んだ。
鉱山内で加減しながら戦うと、合計十発ほどの打撃が必要になる。あるいはもっと必要になるだろう。
「こりゃ鉱山内でやつと戦いたくないな。いっそ電撃一発で仕留められればいいんだけど、金属じゃ焼けないだろうし―――ん?」
そういえば電撃を直撃させるのは試したか? 試していない。
金属だから無駄かな、と思って試さずにいただけ、つまり思い込みだ。
「試してみるか」
メタソルダーと遭遇した瞬間に雷撃をぶちこんで撤退。効果がなければ挽肉になるだけだ。入口から飛び出して数分待つが、メタソルダーがやってくる気配はない。
リックは再び中に入り、メタソルダーと遭遇した地点へ。
メタソルダーは煙を上げて崩れ落ちていた。
「何で?」
どうやら雷撃は通るらしい。それもかなり。
同じことを手順や魔法の威力を変えて試し、メタソルダーが雷撃の魔法に対しどれだけの耐性を持っているのか確かめる。
ある程度は耐えるし高出力の魔法が必要なのは間違いないが、その辺りは強い魔物の特徴で、雷撃にはむしろ弱い感じだ。
「意味が分からない。意味が分からないけど、雷撃だと一撃でぶち抜ける。意味が分からないし全く説明できないけど」
リックは笑みを浮かべた。
「おらくたばれッ! てめぇらみんな仲良く金属資源になれッ! 無限に湧く金属資源だわっはっはッ! 楽々大儲けで笑いが止まらないぞッ! てめぇらの死体を天高く積み上げてそいつで稼いだ信頼で領内に俺が思う理想の娼館を建ててやるッ! っと、そうするにはこの鉱山だけじゃ足りねえな。そういえば向こうにも向こうにもそのまた向こうにも鉱山があっててめぇらが湧くんだっけ。よしよし」
リックは時間を忘れてメタソルダーを殲滅して回る。
気が付いたら昼を回っていて、そして。
「リック様?」
心配し探しに来たエルシャに見つかり、連れ帰られることとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます