人でなしの所業

めいびー

第一話

むかーしむかし、それはそれは昔のこと

とある山に、一人の青年がおりました


その青年は常に漆黒の着物を身に纏い、浮き世離れした風貌ですが、余分なものを削ぎ落としたかのように精悍な顔を持つ青年には酷く似合っていました

そして最も目が引くのは、腰に携えられた刀

廃刀令が発布された世において、刀を持つ者は限られており、物珍しさから視線を集めることも少なくありません


その男の名は、シノスケと言います

シノスケは御役目を果たし、帰路についておりました

その口からは白い息が漏れています


シノスケ:日没前には帰れそうだな

シノスケ:しかしこの寒さ、今夜は雪でも降るか?


鼠色の雲に覆われた空を見上げて独りごちると、見慣れた村が視界に入ります


山中にある家へ帰るには、その村を必ず通らねばなりませんでした

村に入る直前、シノスケは笠を目深に被りました


シノスケ:…


――――――――――――――――――――――――――


ヒソヒソ、ヒソヒソ


村民男:処刑人が帰ってきたぞ

村民女:あの刀がいつ私たちに向くか、わかったもんじゃない

村民男:ずっと血の匂いがするんだ。いくら洗っても落ちないだろうさ


ヒソヒソ、ヒソヒソ


シノスケは罪人の首を斬る処刑人です

忌み嫌われる職な上、鉄のように揺るがぬ表情も拍車をかけており、不気味だ、人でなしだと言われておりました


シノスケ:(いつも通り、いつも通りのことだ)


村民達の視線から逃れるように、シノスケは山中に構える家へ足を早めました


――――――――――――――――――――――――――


その日の夜、シノスケが刀の手入れをしていると、戸を叩く音が聞こえました


シノスケ:誰だ

娘:どうか、数日の間だけ泊めてはくださりませんか


戸を開けると、そこには白髪に紅い瞳を持った、なんとも美しい娘が笠を被って立っているではありませんか


シノスケ:構わない、大したもてなしは出来ないが…

娘:ああ、ありがとうございます

娘:なんてお優しい方なのでしょう


娘はふわりとした柔らかい笑みを浮かべます

しかし、シノスケにはヒビが入って割れる寸前の硝子細工の様な冷たさを感じたのでした

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