百合が似合う貴女が好きだった
雷華
放課後の教室
まるで夢のような一時だった。
キラキラと輝く未来を夢見て、無邪気に笑う友達と過ごす時間が好きだった。
だけど時間と現実はそう甘くなくて、まだ世界を知らない私達に夢なんて無いと言わんばかりに突き付けられた現実を前にして皆変わっていった。
段々話す頻度も減って、一緒に帰らなくなって、別々で行動するようになって
私たちの関係が友達ではなくてただのクラスメイト、同級生に変わっていく中で貴女は違った。
愛ちゃん
黒く長い髪のおさげが似合ってて、昔と変わらない笑顔で私と何気ないあったらいいな、こういうのがいいなと語る姿がまぶしくて思わず目を細めてしまうほどに輝いていた。
そんな彼女が居たからこそ、現実が醜く感じたのかもしれない。
考えたくもない将来の為に誰も居なくなった放課後の教室机に広げられた日誌にその日あった出来事を書いてる中、付き合わなくても良いのに愛ちゃんは変わらず私の傍にいた。
「ねぇ、愛ちゃんはなんで私と一緒に居てくれるの?」
突然の質問に愛ちゃんは首を傾げ、考える。
「んー?なんでだろ、加奈ちゃんと居ると楽しいからかな!」
その返事に思わず笑ってしまう、彼女らしい答えだと笑っていると愛ちゃんは「なんで笑うのー!」と可愛く怒る。
「ごめんごめん、でも私も愛ちゃんと同じだよ」
一緒に居て楽しいと返せば愛ちゃんは嬉しそうに笑う、小学生のころから変わらないその笑顔、いや変わったのは私の方かも知れない。
小学生のころは出来ていた事がおかしいと言われ、自然と建前という仮面を大人の真似をしながら繕って過ごす中、愛ちゃんは変わらなかった。
あの頃と同じ、無邪気で純粋で、友達思いの大切な友達。
「―愛ちゃんは、百合みたいだね」
「え?急にどうしたの?」
「…ううん、なんでもない、ただそう思っただけだよ」
そう笑うと愛ちゃんも笑う、二人きりの教室が夕日に染まりつつある中愛ちゃんは部活動で賑やかな校庭に視線を向けて、呟いた。
「…私達、大人になっても友達でいれるかな」
「…何当たり前な事言うの、当然でしょ」
その言葉を返し、ふと愛ちゃんの方に視線を向けた。
彼女は驚いたような表情の後、嬉しそうに百点満点の笑顔を見せ
「だよねー!ねっ、大人になったら色んな所見に行こうね!約束だよ!」
と言って小指を差し出し、指切りをしあった。
触れ合う小指の温もり、何も変なことではないのに熱く感じたのは、きっと気のせいではなかった。
「?加奈ちゃんどうしたの?顔赤いけど」
「なんでもないよ、夕日でそう見えるだけじゃないかな」
「えーそうかなぁ」
「そうだよ、ほら日誌も書き終わったから帰ろう」
「うん!帰ろう!」
いつもニコニコ笑う彼女に急かされながら、荷物を纏める。
(…大人になりたくないなぁ)
ずっとこのままが良い、見えない不安定な未来で自分を押し殺して生きる位なら
子供のまま楽しい思い出を抱きしめて死んでしまいたい。
けれど目の前にいる彼女と約束を交わしてしまった以上、約束を破るわけには行かない。
綺麗な思い出でした
貴女と過ごした日々は宝石なんて物なんかより尊くて、素敵な時間でした
貴女と夕日に染まる通学路を歩く時間が大好きでした。
貴女と生きた世界でもう少し息をしようと思いました。
大人になるにつれ子供のころのような純粋な心を落とす度に貴女は拾ってくれました
あぁ、それだけで私は幸福だった
百合が似合う貴女が好きだった 雷華 @raika0826
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