最強のヴァンパイアに転生した俺ですが、実はそれ以上の最強でした〜死亡、復活、無双は楽しいスローライフを送るための合言葉〜

今際たしあ

第1話 転生!……からの最強!?

 俺の名前は戸田哲平。18歳の現役高校生で成績は普通、運動はぼちぼちといったところ。

 身長も平均で、顔は残念ながらイケメンじゃないらしい。


 まあ、これは前世での話。


 今の俺は、世界一のイケメンで世界最強のヴァンパイア! ……と名高いアルカードに転生したんだ。


 ここはアルカード今の俺が住んでいる城。周りにはアルカードの下僕しもべが集まっている。

 集まっている、といっても1人の魔女しかいないが。


 魔女というより魔法少女だが、可愛い。めっちゃ可愛い。上目遣いに俺の命令を待っているところとか、凄く可愛い。


「アルカード様、何か飲みますか? 記憶を無くされているようですし、戻るまではわたくしモルモがお世話しますよ!」


 銀髪に翡翠の目を持つ魔女、モルモはえっへん、と鼻を鳴らして部屋を出ていった。


 俺は今朝転生したばかりで混乱していた。

 鏡を見れば薄い茶髪に深紅の瞳、マントとか八重歯とかどうみても吸血鬼だし、背も高くなってるし……でも顔はイケメンだから悪い気はしなかったけど。

 そんな時、


「アルカード様!」


 と、モルモが寝室に入ってきた。

 内心焦りながらも記憶喪失だと伝えると、アルカードについてや城のことを丁寧に教えてくれたという訳だ。


 最強のくせに人望……いや吸血鬼望が無いのか、アルカードはモルモ以外の下僕がいないらしい……。


「時が経つのは早いな~」


 俺はぼーっと窓の外を眺めた。ついさっきまで昇っていた太陽も既に隠れている。


 どうやらこの世界は、元いた世界と昼夜の時間が真逆らしい。だから夜が長い。


 まさに吸血鬼に……いや、こっちの言い方だと違うな。

 ヴァンパイアにとっては住みやすい世界だ。


「お、モルモ。おかえ……り?」


 戻ってきたモルモは、部屋を出る前とは明らかに雰囲気が違ったため、おもわず疑問形になってしまった。

 

 さっきまでの愛くるしい丸い目はどこへやら、鋭い目付きで睨んでくる。胸を張って堂々と歩き、めっちゃ睨んでくる。


「……おい。誰だ貴様」


 目付きどころか口調や声色も悪人らしく変化している。……いや、もしかしてアルカードはそういう性癖の持ち主か? マゾヒスト、とかいう……。


 突然の変貌に戸惑っていると、モルモは俺の胸ぐらを掴み、その華奢な腕で持ち上げた。


「答えろ! 貴様は誰だ、何故この俺様の姿をしている!」


「えっえぇ!?」


 変に声が裏返ってしまった。もしかして、こいつはアルカードか? 俺が転生したことによってアルカードはどうなったのか、とは考えたが、まさかモルモの体に入ってしまったなんて。

 俺はなんとか言葉を振り絞った。


「お、俺は戸田哲平だ……! 訳あって前世で――ーーあれ?」


 そういえば、転生したんだという記憶はあるのだが、どうやって死んだか、その日どうしていたかの記憶が全て抜けている。

 

 特別やり残したことがあるわけでもないため、どうだっていいのだが。


「なんだ」


 ドスの効いた低い声。見た目は中学生くらいの可愛らしい女の子なのに、一言でなんて威圧感。

 何を言っても殺されそうだ。とりあえず刺激しないように、細々と小さな声で、できるだけ笑顔で……。


「あっ、えっとぉー……転生、したんです」


「訳のわからんことを!」


 アルカードはさらに眉をつりあげ、片腕だけで俺を投げ飛ばした。


消滅エリム!」


 アルカードがそう叫んだ瞬間、俺の体は四方から重力を受けたかのようにスクラップ状に潰され、やがて一つの小さな十字架を残して消滅した。


◇◇◇


「……てください……起きてください、アルカード様!」


「はっ!」


 目を開けると、またしてもモルモが俺の顔を覗き込んでいた。

 俺は今、殺されたと思ったが。部屋を見渡してみても、さっきと同じ部屋だ。変化しているといったら……うぇ、俺の周りの床が血の海になっていることか。


「何があったんですか? わたくし、夜の記憶がすっぽり抜けてて……気がついたらアルカード様の十字架が落ちていたんです」


 そんなに時が経っていたのか。確かに窓からは陽が昇っている様子がわかる。昼はモルモ、夜はアルカードということでいいのか。わかりにくいな。


 モルモに「俺はアルカードじゃなくて、お前がアルカードなんだぜ」なんて言ったら更に混乱を招きそうだし、そこは黙っておこう。


「まあ……ちょっとな。それより、十字架ってなんだ?」


 十字架自体はわかるが、どうしてそんなものが落ちていたのか。確か記憶によれば、ヴァンパイアは十字架やにんにくが苦手だったはず。


「そんな事までお忘れに……! 十字架はヴァンパイアの心臓です、これを壊されたら本当に死んじゃいます!」


 アルカードは俺が死なない程度に殺したということでいいのだろうか。色々と矛盾している気がするが。


「なるほど……理解した。じゃあ俺は少し出掛けてくるから、しっかり留守番しとけよ」


 そうは言ったものの、ここに帰ってくるつもりはない。モルモと会えないのは凄く、もの凄く残念だが、アルカードが出てきたらまた殺されるし厄介なことになるだろう。


 だからできるだけこの地を離れ、最強の地位とイケメンな顔を利用して二度目の人生楽しくやり直してやる。

 

 人狼種ウェアウルフ人間種ヒューマンもいるらしいし、前世で叶わなかった恋路やケモ耳との生活を考えると今から胸が踊るな。


「あ、いけませんアルカード様!」


「なんだよモルモ、ちょっと出てくるだけだよ……ぉぉぉおお!?」


 城から一歩足を踏み出した瞬間、俺の体は勢いよく燃え上がった。


「ヴァンパイアは日光に弱いんです!」


 スクラップにされたときもそうだったが、復活するといっても痛みや熱さは感じる。今も俺は地獄のような苦しみに囚われている所だ。


 ……ん? 昼に外へ出られないということは、アルカード不可避じゃないか?

 俺は再び十字架を残し、灰と化した。


◇◇◇


「心配させないでくださいよー。いくら生き返るとはいえ、後処理が大変なんですからっ」


 モルモは膨れっ面で俺を見下ろしている。

 ここは……最初の部屋だ。

 それにしても、ただ広いだけの娯楽が何もない部屋で、アルカードは暇じゃなかったのだろうか。


 時計も無く、あとどのくらいで夜になるのかわからないが、やれるだけのことはやってみよう。


 俺は傘代わりにマントを頭から頭巾のように被り、そそくさと玄関へ向かった。


「だーかーら! ダメですってば!」


 外へ飛び出した途端、背後からモルモにマントを引っ張られた。肌が直接日光に当たらなければいい、というのは正しかったが、このまま引かれ続けたら……!


「あっ! ご、ごめんなさい!」


「ああああ体が燃え――――!……ない?」


 マントを取られ、日光に直接晒された訳だが、何故だか体が発火しない。モルモも俺を見て驚いているようだ。


「な、ど、どうしてですか……?」


 そんなの、俺が聞きたい。転生したばかりなのに二度も死に、復活しているだけでも十分訳がわからない。いずれにせよチャンスだ、今のうちにこの城から逃げ出そう。


「あっちょ、待ってくださいー!」


「なんで追ってくるんだよ!」


「だって、記憶喪失のアルカード様がお一人で外に出るなんて、危ないじゃないですか!」


 ごもっともな意見だ。確かにこのまま宛もなく走ったとて街や村がある保証はないし、ケモ耳どころか人間にすら会えないかも知れない。


 まあ……骨も残さず殺されるくらいなら、餓死して復活を繰り返す方がマシだ。いつかは何かに会える。


 そうこうしていると、あっという間に日は落ちた。

 モルモを随分と引き離し、俺は周囲を木々に囲まれた森で夜営を始めた。


 アルカードは俺が転生する前にどんな移動手段を使っていたのか知らないが、体力はなかなかに無いようだ。それ以上にモルモの体力が少なくて助かった。


「腹へったな~……」


 俺は手頃な太い木に背中を預け、音をたてる腹をさすった。

 そういえば、転生してから何も口にしてないな。とりあえず飢餓を紛らわすために寝るか……。


 うっすら目を閉じ、視線を落とすと目の前にちらっと白いニーソックスを履いた足が見えた。


「おい。やっと見つけたぞ」


「――――!?」


 俺は言葉にならない悲鳴を上げ、驚いて急に顔を上げた反動で後頭部を木に強打した。


 なぜモルモ、いやアルカードがここに!? いや、舗装された一本道を走って森に入っただけだから当然か。


「俺様が納得できる理由を言うまでお前を殺し続ける。安心しろ、十字架は潰さないでおいてやる」


 その気遣いが今は一番いらない! 何度も苦痛を与えられるくらいなら、死んだ方がマシだ。もしかしたらまた別世界に転生できるかもしれないし、痛みは我慢するから十字架ごと俺を消し飛ばしてくれ!


 だが一応弁明しておこう。やっぱり、モルモのような美少女が他にもいるであろう世界での生をみすみす捨てることはできない。


「さ、さっきも言った通り俺は転生したんです! あまり覚えてないけど、死んだと思ったらいつの間にかこの姿に……」


「戯言を申すな。消滅エリム!」


 またあの技だ。俺はぎゅっと目を瞑った。

 アルカードが叫んだ瞬間、再び俺の体はスクラップに――――


「なって、ない?」


 数秒の沈黙のあと目を開けると、モルモアルカードは驚いたように口を半開きにして俺を見ていた。

 外は暗いままだし、体も何ともない。もしかして、不発か?


「まさか、貴様……いや、そんなはずはない! 消滅エリム!」


 何度もモルモアルカード消滅エリムを唱えるが、何も起こらない。少しチリチリとマントの焦げる音が聞こえてくる程度だ。

 昨日は酷い目に合わされたしな、なんか勘違いしていそうだしちょっとからかってやろうか。


「ふふふ、何度唱えても無駄だぜ。そろそろ俺が何者かわかってきたんじゃ〜あないか?」

「馬鹿な! ありえない! 消滅エリム! 消滅エリムぅぅぅ!」


 そんなことを繰り返していると、モルモアルカードの息が乱れてきた。そろそろ逃げれるかもしれない。


「ハァ……ハァ……おい貴様! 貴様はやはり……ついのヴァンパイアか……?」

 

 終のヴァンパイアぁ? 今度は誰と勘違いされているんだ? 疲労でついに本物のアルカードの頭もおかしくなったか。


「なんだよそれ?」


「我らヴァンパイアの中でも、最凶と謳われるヴァンパイア……始祖との戦いに敗れて完全消滅したと思っていたが、まさか魂だけで生き残っているとは……!」


 なんだか俺、最強の予感。

 ……最強の予感、とは言ったものの俺はヴライドなんかじゃない。戸田哲平だ。

 まあ、このまま勘違いさせておくのもアリか。粘着され続けるのも面倒だし。


「あ、ああそうだ、そうだとも。いかにも俺は終のヴァンパイアだが、ちょっと今は記憶を無くしててな……」


「そうか、ならば尚更生かしてはおけん」


「なんでだよっ!?」

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