第1話 理不尽な姉のいる日常②
朝からひどい目にあった、と痛むお腹を擦りながらリビングに入ると何やら視線を感じる。
視線の主は、身支度を終えた姉。
だらしなく付いていた涎の跡などはもちろん消えており、パーツ自体は整った顔からは険しい表情ながらも凛々しいという印象を受ける。
そんな姉がテーブル越しに俺を見ていた。
その両手には一本ずつに分かれた日本人の心、箸が握りこまれており、
「ご、は、ん!」
「いや、子どもか! もう用意してあるだろ。ご飯は炊飯ジャーにあるし、みそ汁も鍋にあるだろ」
それに納豆も卵も、海苔のつくだ煮も、おまけにキムチだって冷蔵庫に入ってる。ご飯のお供に困ることはない。
「は、や、く! は、や、く!」
しかし、姉に俺の言葉は通じない。どんどん、と机を叩いて催促する。信じられるか? こんなんでも今年二十一なんだぜ。大学三年生なんだぜ? おまけにこの家の代理ではあるが主であるんだぜ?
「……はいはい。で、ご飯は何で食うの?」
「卵かけごはん! 卵白は雪みたいにするやつ。動画みたいに」
「知るか! 自分でやれ」
二人分の白米と味噌汁を器に盛り、机に着く。
姉には卵、俺のご飯のお供は納豆だ。
「「いただきます」」
揃って朝食を食べる。
特にそこに
しかし可能な限り一緒に食卓を囲む。
これは両親がいた頃からの名残である。
別に両親が亡くなったというわけじゃない。父の仕事で揃って海外を飛び回っているのだ。
姉はその血を色濃く次いで自由人気質があるが、俺としては地元の役所について、ずっと同じ町で暮らしていきたいなんて漠然とであるがそう考えている。
今までは俺たちが子どもだったこともあり母がこの家に残っていたが、母も海外への憧れは強いらしく、俺の高校進学を機にそろそろ家族で海外移住をという話になっていた。
だが、それに反対した俺。
結果としては、俺に合わせて姉も残ってくれたのだった。
ゆえに、姉がこの家の主であり、さらに言えば俺の保護者的存在でもあるのだ。
「卵かけご飯と味噌汁。主菜がないじゃない」
「今度は亭主関白かよ」
……本当にこんなので、不本意なんだけど。
朝食の準備とて、俺が食費の節約を兼ねて弁当を作っているのと一緒に作っているだけで、俺の当番というわけじゃないのだ。
と、時刻は七時四十五分。
そろそろ着替えて家を出なくては。
「ご馳走様でした」
味噌汁を飲み干すと、食器はシンクへ。洗い物は帰ってにしよう。
部屋に制服に着替えると、リュックを背負う。
襟元に光るのは、俺の通う
「いってきます。姉ちゃんも遅刻するなよ」
「おーう、いってらー」
リビングに戻り、姉に言うとひらひらと手を振る。
大学生はもう少し朝に余裕があるらしい。
「おーい、遊馬! 忘れ物!」
と家を出たところで呼び止められる。
その手には俺の弁当。
だが、そんなことよりも姉ちゃんの格好は寝起き同様の薄着。
そんな格好で外に出れば、出勤前サラリーマンらの視線を集めていた。
「ちょっ! 姉ちゃん! 服っ!」
急ぎ弁当箱を受け取ると俺は姉ちゃんを家の中に押しやった。
「おい、何か言うことあるだろ」
「ありがとう! けどそれよりもそんな格好で外出るなよ。せめて一枚羽織れって!」
「ああ? 私の体がそんな醜いかこの野郎!」
「そうじゃねえって! ああ、もうめんどくせえな!」
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