untitled
@rabbit090
第1話
僕は、移住して第一号。
というか、生贄なのだ。
それは、必要だったから、僕のような使えない人間を、とりあえず人間であるという特性を利用して、生存可能かどうかを調べる、人体実験なのだった。
「着いた…。」
あれが小屋か、僕は感慨に似たような感覚を持ち、少しだけ涙を流した。
だって考えてくれよ、すげえ遠くから、ほとんど眠らされた状態でここまでやって来たんだぜ?そりゃあ、そうなるよ。
家族だっていたんだ。というか、家族がいたから、減ってしまった人類の中で、最低限生活を営めて、でも犠牲にしてもかまわないという選定基準で選ばれたらしい。
まったく、いい加減にしろよ。でも、家族は生きられる。それを、約束した。
そして、早速設営を始める。
それには全然、困ることがない。だって僕は、
「あんた、気味悪いよ。」
そう、僕は一人ではなかった。
「僕のせいじゃない。」
「そうかよ。」
この愛想の悪い男と、年は中年程で、背は高いが、ちょっと変わっている。
「体、改造されまくってんだから。学者によると、僕はキメラであるのはもちろん、遺伝子をだいぶ、いじられてるんだって。だから、よくこんなアンバランスで生きていられるよなって、思ってるんだ。」
「自虐だろ?」
「ああ。」
僕は、真っ先に体をいじくりまわされた。本当は走ることも、得意じゃないはずなのに、遺伝子を活性化させたり、とにかく都合のいいように操作されたんだ。
だから、とても、何かが苦しく、そして、おかしい。
「早えな。さすがお前だ。」
てか、この男はなぜ、ここに来る人物として選ばれたのだろうか。
そもそも、僕もこの男も、あの世界では人間などとは思われていなかった。
僕には妻と子が一人いたけれど、みんなあの、囲まれた場所で暮らしていた。
とにかく地球上の資源が少なくなって、学問の発展より、技術の進展より、世界の終わりの方がはるかに早く近づいてしまったから、僕らのようなとくに能力も持たないとされる人間は、あそこにいれられるのだ。
一応、社会を壊したくはないのだろう、と思う。だからこそ足手まといである僕らを、生かしたのだ。
でも、でも。
「それより、任務って何だっけ?」
「覚えてないのかよ。」
「聞かされてないから。キメラ様の方が、よくご存じなのでは?」
「………。」
僕は、こういう皮肉屋とはあまり付き合ったことがない、でもたかが二人だ。そして、ほぼ運命共同体。
なら、
「作るんだ。施設を。実験施設を。分かるだろ?もうあそこは終わりに近いんだ。だから、最大限安全の確度をあげて、彼らを移住させるんだ。」
「は、そんなのやってられるか。」
「…やってられるか、じゃねえんだよ!」
僕は、似合わず声を荒げた。だって、彼らにとって僕らは、人間ではない。一応、人間の形をしているが、同じものだとは捉えられていない。
「悔しくねえのか?」
悔しい。悔しいに決まってる。
「悔しいよ。」
「だろ?」
「は?」
なら、なら?
「なら、逃げようぜ。俺は大丈夫。信じてついて来い。あいつらも、俺たちも同じ人間なんだ、遺伝子なんてほとんど一緒なんだから、しかもお前は今、スーパーマン状態だろ?そういうクレイジーさを、奴らは持ち合わせていない。」
「つまり、やめるって言うのか?でも僕は、家族がいて。」
「大丈夫。賭けるんだ、確立を上げて行こう。俺たちは、大丈夫。」
こいつは何だ、と思っていた。
でも今や、偉人なのだ。
「久しぶり。」
「おお。」
「空気はうまいか?」
「ああ。」
僕らは、生き延びた。
そして、未来を手に入れた。
untitled @rabbit090
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