6-13 目覚めた後 2
顔を覆って泣いているポリーを前に、ニコラスは激しく後悔していた。
けれど、それは当然のことだった。記憶の片隅に残っていた初恋の少女。
誤解があったとはいえ、偏見の目でジェニファーをみつめて今迄散々傷つけてきたのだから。
(俺は……何て酷いことを彼女にしていたんだ……。自分の目で見ていれば、ジェニファーが伯爵の話していたような人物では無いことが分かっていたのに。ジェニーが毎晩うなされて泣いていたのは、彼女に対しての罪悪感からだったのに……)
「……本当に悪いことをしたと思っている……ジョナサンだって、あんなにジェニファーに懐いていたのに……」
ジョナサンはまるで人の心が読めるのではないかと思うくらい、心の機微に気付く赤子だった。
中々人に慣れることがなく、子供を苦手とするメイド達には抱きあげられるだけで激しく泣いていた。今迄それで手を焼いて何人ものメイド達がジョナサンの世話係として交代されたのだった。
それなのにジェニファーには素直に懐き、「ママ」と呼ぶほどまでになっている。
(それだけで、彼女が優しい人物だと気づくべきだったのに……)
ポリーは今も顔を覆ってシクシク泣き続けている。
「落ち着け、ポリー」
シドはポリーの肩に手を置き、次にニコラスに視線を移した。
「ニコラス様。俺もポリーの言う通りだと思っています。これ以上、ジェニファー様を傷つけるのは反対です」
「シド……」
(まさか、お前……?)
シドは滅多なことでは、他人に感心を寄せることが無かった。それなのに今、真剣な目でジェニファーのことを訴えてくることに戸惑いを感じずにはいられなかった。
「……分かった。2人の言う通り、もう二度とジェニファーを傷つけないと誓うよ」
ニコラスは心の中で、ある決心をした――
****
ジェニファーはベッドの上で女医の診察を受けていた。
その隣で、泣きつかれたジョナサンがスヤスヤと眠っている。
「……打ち身による骨折などはなさそうですね。頭部には、特に大きな外傷はなさそうです。でも身体を強く打っているので、暫くは安静にして下さい。何かあればいつでも往診に伺いますので」
「……先生、どうも……ありがとう……ございます」
弱々しくも、笑顔でジェニファーは礼を述べた。
「いえ、当然のことですから。でも……当分育児は難しいと思いますので、どなたか別の人にお願いした方がよろしいでしょう」
チラリと女医は眠っているジョナサンを見る。
「そうですね……でも、同じ部屋で過ごすくらいは…‥いいですよね? ジョナサンの傍に……いたいのです」
「ええ。それは勿論です。ですが、育児は必ず他の方にお願いしてくださいね?」
「はい、分かりました……」
ジェニファーはコクリと小さく頷いた――
****
取り乱して泣いていたポリーも落ち着きを取り戻し、3人が廊下で話をしていると扉が開かれて女医が出てきた。
「先生! ジェニファーは大丈夫なのですか!?」
ニコラスが真っ先に声をかけた。
「はい、もう大丈夫だと思います。ただ、暫くの間は安静にさせてあげ下さい」
するとポリーが手を上げた。
「はい! 私が責任をもってジェニファー様のお傍に仕えさせていただきます!」
「良かった……ジェニファー様……」
シドは安堵のため息をつき、その様子をニコラスが見つめていると女医が声をかけてきた。
「テイラー侯爵様」
「はい」
「患者様が、お話したいことがあるそうです」
「俺に話が?」
「そうです。ですが、体調のこともあるので手短にお願いしますね。私はこれで失礼いたします」
女医は頭を下げると、去って行った。
「……ジェニファーの所へ行ってくる」
ニコラスは2人に声をかけると、扉を開けた——
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