6-14 目覚めた後 3

「……ッ!」


扉を開けてベッドの上で横たわるジェニファーを見た時、ニコラスは心臓が止まりそうになるほど驚いた。

何故ならその姿は、病に伏せっていたジェニーに瓜二つだったからだ。


(ジェニー……ッ!)


自分の中で訳の分からない感情が込み上げてくる。ニコラスは込み上げる感情を無理やりに押し込めると、ジェニファーのベッドに近付き、声をかけた。


「ジェニファー。俺を呼んだそうだな?」


「……はい、ニコラス様……お越しいただき…‥ありがとうございます……。横になったままで……失礼をどうか……お許しください……」


弱々しく、謝罪の言葉を述べるジェニファー。

その言葉を聞いただけで、ニコラスの胸が熱くなる。


(死にかけたばかりだというのに、こんなことを気にするなんて……! いや、そんな気持ちにさせたのは他でも無い……俺自身なのだ)


そこでなるべくニコラスは優しい声をかけた。


「そんなことは一切気にしないでいい。それより俺に何か用があったのだろう?」


「はい……謝罪とお願いがあります……。まずは先に謝罪……させて下さい」


「謝罪? 一体何の謝罪だ?」


「それは……ニコラス様にご迷惑をかけてしまったこと……です。私が……ジョナサン様を……連れ出さなければ、危ない目に……遭うことがありませんでした……もし、風邪を引かせてしまっていたら……私はシッター失格……です……」


—―シッター失格。

その言葉はニコラスの心を深く抉った。本当はジェニファーを妻に迎えたはずだったのに、自分の負の感情を抑えきれずにシッター扱いをしてしまったのは確かだ。

今更ながら、自分の取った行動を激しく後悔していた。


「ジョナサンは怪我だってしていないし、風邪もひいていない。それは全て君が身を挺してジョナサンを庇ってくれたおかげだ。むしろ感謝している。逆に謝罪するべきは俺の方だ。そのせいで……命の危機に陥ってしまったのだから。……本当に、申し訳なかった」


「そのことですが……お礼を言わせて下さい……」


「お礼? 一体何に対してのだ?」


「私のような者の為に……お医者様を呼んで下さった……ことです」


医者に診てもらうということが、どれだけお金がかかることかジェニファーは良く知っていた。

ジェニファーの叔父——アンの夫は、病気でこの世を去ってしまった。

死因は風邪をこじらせてしまったことだった。貧しさのあまり、医者にかかることも薬を買うことも出来なかった。その為、叔父はあっさり亡くなってしまったのだった。

医者にかかるということは、それだけ大変なことだったのだ。


もうこれ以上ジェニファーの口から自分を卑下するような言葉を聞きたく無かった。


「……ジェニファー。もう、それ以上自分を貶めるような言い方はやめてくれないか? 頼む」


ニコラスの顔が苦し気に歪む。


「ニコラス様……?」


ジェニファーは不思議でならなかった。先ほどから自分が何か言葉を発するたびに、ニコラスは苦しそうに見えるからだ。


「それに、ニコラス様なんて言わなくていい。ニコラスと呼んでくれ。……昔のように」


「え……?」


ジェニファーは目を見開いて、ニコラスを見つめた――






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望まれない結婚〜相手は前妻を忘れられない初恋の人でした 結城芙由奈 @fu-minn

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