6-8 ジェニーの手紙 4

 あなたから私に会いたいと手紙を貰った時は、本当に驚きました。そんなことがあるはず無いと思ったからです。でも、すぐに気付きました。


ああ、そうだ。きっとニコラスは私ではなく、ジェニファーに会いたいのだと。

とても迷いました。きっと直接会えば、探していたジェニーでは無いと気づかれてしまう。

だって私とジェニファーは姿はそっくりだけども唯一、瞳の色が違う。

私の瞳は平凡な青色だけど、ジェニファーの瞳はまるで宝石のように美しい緑の瞳だから。


それでもあなたに会いたい気持ちを止めることが出来ませんでした。気付けばペンを取り、返事を書いてメイドに託していたのです。


もし仮に問い詰められれば、正直に話して謝ればいいだけのこと。

私の片想いはそこまでだったのだと諦められる。

そう思って、あなたと会うことを決めたのでした。



愛しいニコラス。

護衛騎士と一緒に現れたあなたを初めて見た時のことは今も忘れません。

世の中にこれほど美しい男性がいるのだろうかと、思わず息が詰まりそうになりました。

この人に私は今から問い詰められるのだろうと覚悟を決めた時、あなたは言いましたよね?


『元気だったかい? ジェニー。ずっと君を捜していたんだよ』って。

護衛騎士のシドは私に不審な目を向けていたけど、この瞬間気付きました。


ニコラスは、ジェニファーのことを覚えていないのだと。

だったらこのまま、ジェニファーに成り代わってしまえばいい。

気付けば、勝手に口から言葉が出ていました。


『久しぶり、ニコラス。ずっとあなたに会いたかったわ』と。


この時から、私は取り返しのつかない道を歩むことになったのです。


ごめんなさい、ニコラス。私は、本当に悪い人間です。

私を不審がるシドを遠ざけ、毒殺されかけて記憶が曖昧なあなたを騙すような真似をしてしまいました。

ジェニファーとの思い出を、あたかも自分のことのように語っていたけれども、いつも心の中は罪悪感で一杯でした。


胸が苦しくて毎晩うなされるようになったのは、きっと神様から私に与えられた罰なのでしょうね。

正直に話せば、こんなに苦しむことは無かったのに。だけど私はずるくて卑怯者です。

あなたが愛しているのは私ではなくジェニファーだとしても、それでも私はあなたを手放したくなかったのです。


だって、私は長く生きられないから。


父も知らないけれども、私の心臓はもう限界にきています。

お医者様からは、もって後数年だろうと言われているのです。


どうせ長く生きられないのなら少しくらい嘘をついたっていいだろうと、自分に言い聞かせ、嘘を重ねてきました。


私の付いた嘘が功を無し、あなたから結婚を申し込まれた時は天にも昇る気持ちでした。

それと同時に、もう取り返しがつかないところまで来てしまったとのだと悟りました。


私はジェニファーに成り代わり、あなたと結婚します。

この秘密は死ぬまであなたに明かすことは無いでしょう。だって幻滅されて、嫌われたくないから。


この手紙は私が死んだ後に、ジェニファーからあなたに渡して貰えるように託します。

私が死んだ後に、2人は再会することになるでしょう。


自分が最低な事をしているのは、分かっています。こんな私は神様の身元へ行くことは出来ないでしょうね。


ジェニファー、あなたの居場所を奪ってしまってごめんなさい。

ニコラス、騙して嘘をついてごめんなさい。




手紙はそこで終わっていた——





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