6-3 限界

 戻ってきたジェニファー達を見て、ニコラスとシドは驚いた。


ジェニファーとポリーは傘も差さずに小雨の中、帰ってきたからだ。ただ、ジョナサンだけは濡れないようにショールにくるまれ、ジェニフーの胸の中に抱きかかえられて眠っている。


その姿に、ニコラスがカッとなる。


「一体何故、傘もささずに帰ってきたんだ! ジョナサンが風邪を引いたらどうするつもりだ!」


身体の弱かったジェニーが生んだ子供。同じ体質を引いていないか、ニコラスは不安でならなかったのだ。


帰ってくるなり大きな声で叱りつけられ、ジェニファーは萎縮しながら答えた。


「申し訳ございません。途中まで馬車で帰ってきたのですが、途中で脱輪してしまって降りざるを得なかったのです。辻馬車も捕まらなかったので、歩いて帰ってきました」


「何だって? 脱輪? ジョナサンに怪我はなかったのか?」


「はい、大丈夫だとは思いますが……」


「思うとは何だ? ジョナサンを渡してくれ」


ニコラスは憮然とした態度で手を差し出した。ニコラスがあまりにも不機嫌そうなので、ポリーもシドも口を挟むこと出来ずにいた。


「分かりました……」


眠っているジョナサンを手渡すと、ニコラスは無言でそのまま城の中へ入っていった。


(ニコラス……私、また彼を怒らせてしまったのね……)


悲しい気持ちでニコラスの後ろ姿を見ていると、シドが声をかけてきた。


「ジェニファー様、大丈夫ですか? こんなに雨に濡れて……ポリーも平気か?」


「私は大丈夫です。エプロンを被っていましたから。だけど、ジェニファー様が心配です」


「私も大丈夫よ」


ジェニファーの身体は雨で湿り気を帯びており、シドは心配でならなっかった。


「何が大丈夫ですか? こんなに濡れていますよ? それに顔色だって悪いです。すぐに部屋に戻りましょう。このままでは風邪を引いてしまいます」


「そ、そうね……」


実際のところ、ジェニファーの体調は最悪だった。馬車の脱輪事故で身体を強打し、痛む身体でジョナサンを抱いて小雨の中歩いて帰ってきたのだ。

気力を振り絞って帰ってきたジェニファーはもう、限界だった。


グラリとジェニファーの身体が傾く。


「ジェニファー様……どうしましたか? ジェニファー様!」


「キャアッ! ジェニファー様!!」


シドは倒れそうになったジェニファーの身体をとっさに支え、驚いた。

ジェニファーの身体が火のように熱いのだ。それに額には脂汗が浮かんでいる。


「大変だ……すごい熱だ」


「そ、そんな……ジェニファー様……」


「ジェニファー様、失礼します!」


シドは意識のないジェニファーを抱き上げると、ポリーに声をかけた。


「ポリー! すぐに他の使用人たちにジェニファー様の様子を伝えて来い! ついでに医者も頼む!」


「は、はい! 分かりました! 知らせてきます!」


ポリーは慌てた様子で、駆け出していった。


「ジェニファー様、しっかりして下さい……」


具合の悪いジェニファーを叱責したニコラスに苛立ちを覚えながら、シドは急ぎ足で部屋を目指すのだった――

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