4−21 ジェニーのお墓参り 2

 ジェニファー達を乗せた辻馬車は、『ボニート』で一番大きな教会目指して走っていた。


「辻馬車がすぐに見つかって良かったですね」


向かい側に座るポリーが笑顔でジェニファーに話しかけてくる。


「そうね。まさか門の外を出てすぐに馬車がつかまるとは思わなかったわ」


そして膝の上に座るジョナサンを見下ろした。

ジョナサンは景色が珍しいのか、食い入るように窓の外を見つめている。


「でも、ジェニファー様。何故辻馬車を利用したのですか? 城にも馬車はありますよね?」


「知ってるわ。でも、私からは借りにくいもの」


ジェニファーの立場は執事長カルロスのお陰で当初より格段に良くなっていた。今では使用人たちは彼女をみれば挨拶し、無視するような者は誰一人としていない。

それでも自分は微妙な立場にあることを自覚している。


書類場は夫婦であれど、それは表向きのこと。結婚式も挙げていなければ、他の貴族たちに妻として紹介されたことすら無い。

本当の役目はシッターとしてジョナサンの世話をすることなのだ。


(私は、使用人と変わらない立場なのに……馬車を使わせて欲しいなんて頼めないわ)


「でも辻馬車ならたしかに気軽に利用できるからいいですよね。お金さえ払えば行きたい場所に連れて行ってくれるのですから」


ジェニファーの気持ちを察してか、明るい声でポリーは語る。


「そうね。あ、教会が見えてきたわ」


窓の外から小高い丘にそびえ立つ美しい教会が見えてきた。


「あの教会で、ジェニー様のお墓のある場所を尋ねるのですね?」


「ええ。お墓はたくさん並んであるから、多分教会で聞かなければ分からないだろうってニコラスに言われたのよ」


「そうですか。……だったら旦那様も付いてきてくだされば良いにの」


不満げに唇を尖らせるポリー。


「ポリー……」


『ただし、墓参りは1人で行ってくれ。俺は……君と一緒には行けない』


ジェニファーは昨夜、ニコラスに言われた言葉を思い出してしまった。


(でも、ポリーがそう思うのは無理ないわ……)


すると、ジェニファーの視線に気付いたポリーが慌てたように謝ってきた。


「あ! ジェニファー様、申し訳ございません! 一介のメイドの身分で、失礼なことを口にしてしまいました!」


「いいのよ、気にしなくて。ニコラスはとても忙しい人だから、一緒に外出は難しいと思うの。私のせいで時間を取らせるわけにはいかないわ。ジョナサン、もうすぐママの眠るお墓に着くわよ?」


ジェニファーは自分の気持ちを誤魔化すために、ジョナサンの頭を撫でた……。



****



 教会に到着し、3人は馬車を降りた。


真っ白な壁の美しい教会は大きな鐘が吊るされている。荘厳な山脈を背にした教会はとても絵になった。

教会の裏手は草原が広がり、無数の墓標が整然と並んでいる。


「本当に立派な教会ですね。さすがは高貴な身分の人達が利用している教会のことだけあります」


ポリーが感心した様子で教会を見上げている。


「そうね。それじゃ中に入りましょうか?」


ジョナサンを腕に抱いたジェニファーは目の前の呼び鈴を引っ張った。

するとかすかに扉の奥からチリンチリンとベルの鳴り響く音が聞こえる。


少しの間3人は無言で待っていると、やがてゆっくり扉が開かれて壮年のシスターが現れた。


「ようこそ、『ブランシュ』教会へ。どのようなご要件でしょうか?」


「あの、こちらのお墓にジェニー・テイラーという名前の女性が埋葬されていると伺って来たのですが、お墓のある場所を教えて頂けないでしょうか?」


ジェニファーは丁寧に尋ねた。


「はい、ありますが……失礼ですが、お名前を教えて頂けませんか?」


「あ、申し訳ございません。ジェニファー・テイラーと申します」


するとそれまで笑顔だったシスターの顔つきが変わる。


「ジェニファー……? もしや……? あ! そう言えばあなたのお顔は……!」


「え……?」


ジェニファーは首を傾げた――

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