4−18 ジェニファーとポリー
ジェニファーが部屋で縫物をしていると、ポリーが大きな花瓶を抱えて戻って来た。
「ジェニファー様。花瓶を貰ってきました。もうお水も入っていますよ」
「ありがとう、ポリー。それじゃ、早速生けましょう」
「はい、ジェニファー様」
2人で花を活けていると、ポリーが尋ねてきた。
「シドさんの姿が見えませんけど、何処へ行ったのですか?」
「シドなら城の見張りに行ってるわ。交代の時間になったらしいから」
「そうなのですか。中々お忙しい方ですね」
「本当よね。それに私のことも色々気に掛けてくれているから、何だか申し訳なくて」
その言葉にじっとジェニファーの横顔を見つめるポリー。
(ジェニファー様はシドさんの気持ちに気付いていないのだわ。あんなにはっきり好意を示しているのに
「どうかしたの?」
ポリーの視線に気づいたジェニファーが首を傾げる。
「い、いえ。何でもありません。ところで何を縫ってらしたのですか?」
「あれはスタイよ。ジョナサンの為に縫っていたの。スタイは何枚あっても困ることは無いから」
「スタイですか? すごいですね。ジェニファー様自らが縫われるなんて」
「そう? それってすごいことなの?」
子供の頃から、縫物をしてきたジェニファー。スタイを縫うくらいは、どうということはなかった。
それにサーシャがお針子になったのも、元はジェニファーの影響によるものだった。
「はい、すごいことですよ。私はてっきり旦那様にプレゼントするハンカチだとばかり思っていましたから」
「私がニコラスにプレゼントしても、きっと受け取ってくれないと思うわ。迷惑に思われるだけだもの」
「ジェニファー様……」
「あ、ごめんなさい。変なことを言ってしまって」
ジェニファーは最後の花を花瓶に差し終えると、ジョナサンの様子を見に行った。
ベビーベッドの中のジョナサンはスヤスヤと良く眠っている。
(フフフ……本当に可愛いわ。ぐっすり眠っているようだから、大丈夫そうね)
そこでジェニファーはポリーに声をかけた。
「ポリー、少しの間ジョナサンを見ていてもらえるかしら?」
「はい、分かりました。何処かへ行かれるのですか?」
「ええ。ちょっとニコラスの所へ行こうと思って」
「え!? 旦那様の所へですか?」
「少し用事があるの。ちょっと行ってくるわね。ジョナサンをよろしくね」
「はい、行ってらっしゃいませ」
ジェニファーはジョナサンをポリーに頼むと、ニコラスの書斎を目指した――
****
書斎の前にやって来たジェニファーは緊張する面持ちで立っていた。
「ニコラス……いるかしら?」
ニコラスと会うときはいつも緊張する。
けれどいつもどこか不機嫌そうな……時には非難めいた眼差しを向けられながらでは当然のことだった。
深呼吸すると、ジェニファーは扉をノックした。
—―コンコン
すると少しの間の後に扉が開かれ、思わずジェニファーは目を見開く。何と扉を開けたのはニコラスだったのだ。
「え!? ニコラス様」
「何をそんなに驚いている? シドからジェニファーが来るかもしれないと聞かされていたからな。中に入るがいい」
「は、はい……」
ジェニファーは緊張しながら、書斎の中へ入った。
「そこの椅子に掛けるといい」
「はい」
書斎に置かれたソファを勧められて座ると、向かい側の席にニコラスが座った。
「俺に話があったんだろう? 言ってみろ」
「はい……あの……」
(どうしよう……ジェニーのお墓の場所を教えて欲しいと言って、気を悪くしないかしら)
何と切り出せばよいか俯き加減考えているとと、ニコラスが尋ねてきた。
「どうかしたのか? もしかして具合でも悪いのか?」
「……え?」
驚いて顔を上げるジェニファー。
するとそこにはニコラスが心配そうな眼差しでジェニファーを見つめている姿があった――
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