3-18 シド 2
「いいですか? ジェニファー様は少しも悪くありません! むしろ利己的なのはジェニー様の方です!」
「シ、シド……?」
「だってそうですよね? 教会にお使いに行かせたのだって、ジェニー様は自分の名前で行かせたじゃないですか! 最初からそんなことをしていなければフォルクマン伯爵に嫌われることも無かったし、ニコラス様と結婚していたのはジェニファー様だったはずなのですよ!?」
けれどジェニファーは首を振る。
「だけど、喘息発作でジェニーが死にかけたのは私が彼女の側にいなかったからよ。大恩人のフォルクマン伯爵を裏切るようなことをしてしまったのだから嫌われても仕方ないわ……それに私は貧しい没落貴族。侯爵家のニコラスと結婚なんか出来るはず無いもの」
「! ジェニファー様……どうして、あなたはそこまで……」
「でも……心配してくれてありがとう、シド。家族以外の人で、今までこんなに私のことを気に掛けてくれた人は1人もいなかったから。嬉しかったわ」
まるで全てを諦めたかのように悲し気に微笑むジェニファー。
「そんなこと……言って……俺……は……」
怒りとも悲しみとも言えぬ気持ちが込み上げ、シドは顔を伏せた。
「改めて写真のことも色々とありがとう。私なら大丈夫だから、もう行っていいわよ? 色々とシドも忙しいでしょうから」
その言葉は、「一人にして欲しい」とお願いしているよう聞こえる。
「……分かりました。また何かありましたら、お呼び下さい。いつでもすぐに駆け付けますから」
「ええ。ありがとう」
「では失礼いたします」
シドは立ち上がると、重い足取りでジェニファーの部屋を後にした。
「もう駄目だ……これ以上、あんな悲し気なジェニファー様の顔なんか見たくない……!」
廊下を歩きながらシドは呟いていた。
ここ最近、ずっと彼の頭の中を占めていたのはジェニファーのことばかりだった。
悲しい顔を見れば胸は締め付けられ、笑顔を見れば嬉しい気持ちになる。自分で自分の心を持て余していた。
その時。
「あら? シドさんじゃありませんか」
顔を上げると、洗濯物のカゴを手にしたポリーだった。
「あぁ、ポリーか」
前髪をかき上げてため息をつく。
「もしかしてジェニファー様のお部屋に行ってらしたのですか?」
「あ、ああ。そうだ」
シドはポリーの言葉に何故かドキリとした。
「私もこれからジェニファー様のお部屋にリネン交換に行くところなのです。ところで何かジェニファー様とあったのですか?」
「いや、別に。何もない。何故そんなことを聞くんだ?」
「いえ、何だか顔つきが険しかったので……あ、 すみません! 余計なことを口にしてしまって。駄目ですね、私って思ったことをすぐ口に出してしまって」
そこで、ふとシドは思い立った。
「少し聞きたいことがあるんだが……いいか?」
「はい? 何でしょう?」
「俺の知り合いのことなんだが……ある女性が悲しそうにしていると、胸が苦しくなって……笑顔を見れば、嬉しい気持ちになるそうなんだが……どう思う?」
「どう思うって……そんなの決まっているじゃないですか!」
ポリーが興奮気味に声を上げる。
「決まってるって……何がだ?」
「それは愛ですよ!」
「えぇ!? あ、愛?」
「そう、愛です。その男性は相手の女性のことが好きなんです! だからそんな気持ちになるんですよ!」
「そうなのか?」
「ええ、そうです! その知り合いの男性に教えてあげてください。あなたはその女性を愛しているのですよって」
「わ、分かった……話しておくよ」
まさか自分のこととは言えず、頷くシド。
「はい、何か進展があったらまた詳しくお話聞かせて下さいね!」
ポリーは手を振ると、急ぎ足で去って行った。
その後姿を見つめながらシドは思った。
(やっぱり……俺はジェニファー様のことが……)
この日、シドはジェニファーに対する思いを自覚するのだった――
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