2−10 集められた使用人たち 4

 ちょうど同じ頃、ニコラスは残された使用人たちを見渡すと静かに尋ねた。


「……お前たちは、俺に異論は無いのか?」


『……』


使用人たちは全員無言で佇んでいる。すると……。


「ニコラス様、私から少々よろしいでしょうか?」


初老の男が手を上げた。彼はニコラスに使用人全員が揃っていないことを告げた人物だった。


「ああ、いいだろう」


すると執事は静かに語りだした。


「ここに残った者たちは、全員が執事長、及びメイド長に嫌がらせを受けていた者たちばかりです。過重な労働を課せられたり、わざと重要な連絡事項を知らされなかっり……もしくは、前当主様を存じ上げない新人ばかりでございます」


「……やはり、そうだったのか。噂によると使用人たちの間で、派閥が出来ていると聞かされていたが……それではお前たちは、不当な仕打ちを受けていた者たちなのだな?」


ニコラスの言葉に、使用人たちは周囲を見渡しながら頷いた。


「執事長とメイド長は……テイラー侯爵家の次期当主になられるお方はパトリック様に違いないと話していました。なので……」


「俺が当主になったのが気に入らなかったということだな? それで他の使用人たちを巻き込んで、派閥が出来たのか……くだらない話だ。そういえば、確かお前の名前は……」


「私はライオネルと申します。以前は離れの屋敷の執事長を務めておりました。今は引退し、こちらの屋敷で執事の補佐業務を行っております」


丁寧に頭を下げるライオネル。


「そうか……ではライオネル。突然のことで申し訳ないが、これよりお前がこの屋敷の筆頭執事になってもらえないか?」


「え? この年寄にでございますか?」


「ああ。この屋敷に邪魔な者たちは排除した。今度は立て直すために力を貸してもらえないだろうか? ……ここに残る使用人たちと共に。どうか頼む」


ニコラスは頭を下げ、使用人たちがざわめいた。


「お、おやめ下さいませ! ニコラス様! そのようなことをされずとも、我々はこのお屋敷の為に誠心誠意を持って働く所存でございますから。どうか頭を上げて下さい」


ライオネルは慌てた様子でニコラスに声をかけた。


「そうか……? 皆、ありがとう。感謝する。人員がかなり減ってしまったが、これから新しい使用人を雇用していくつもりだ。ライオネル、協力してくれるな?」


するとライオネルは笑みを浮かべる。


「ええ、おまかせくださいませ。年老いたとはいえ、私は50年テイラー侯爵家でお務めさせていただきました。それなりに顔も広いので、人員集めはお任せください」


「それは頼もしい限りだな……ではライオネル。後は任せたぞ。これから後始末に向かわなければならないからな」


「はい、承知いたしました」


ライオネルは会釈すると、ニコラスは扉へ足を向け……扉の前でジェニファーとシドが向かい合っている姿を見つけた。

ジェニファーはジョナサンを抱いている。


「あれは……ジェニファー! まさか、ここに来ていたのか!?」


ニコラスは足早に2人の元へ向った。



**


 一方、シドとジェニファーは互いに見つめ合っていた。


「ひょっとして……ジェニー様ですか?」


「え……?」


(シドは……一体、どういう意味で尋ねてきているの……?)


シドの思いがけない質問にジェニファーが戸惑った次の瞬間。


「君は一体、こんなところで何をしている!?」


ニコラスが大股で近づいてきた。


「あ! ニコラス様……申し訳ございません。廊下で騒ぎがあったので、様子を見に来てしまったのです。そうしたら……使用人の方々が……」


ジェニファーは申し訳無さ下にうつむく。


「そうか、見ていたのか……」


ため息をつくニコラス。


「あ、あの……もしかして使用人の方々を辞めさせたのは……」


「その話は後にしてくれ。俺はこれから仕事に行かなくてはならないんだ。一ヶ月は不在にしなければならないからな。話は帰ってからにしてくれ」


すると、今まで黙って様子を見ていたシドが驚いた。


「ニコラス様! まさか、この方とジョナサン様を残して一ヶ月も留守にするのですか!? 確かお二人は結婚したばかりなのですよね!?」


「そうだ。ジョナサンを任せられるのは彼女だけだと言う遺言をジェニーが残したからだ。だからジョナサンを預けて仕事に行くのだ」


「ですが……!」


尚も反論しようとするシドを止めるようにジェニファーが口を開いた。


「ジョナサン様のことはお任せ下さい。責任を持ってお世話させていただきますので、ニコラス様はお仕事に行ってきて下さい」


「!」


その言葉に目を見開くシド。


「話が早くて助かる。ところでシド」


「はい、ニコラス様」


「2年ぶりにここへ戻ってもらって何だが、早速護衛として同行してくれ」


シドは一瞬、ちらりとジェニファーに視線を送り……。


「承知いたしました」


深々と、頭を下げた――


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