1−9 苛立つアン

――その日の夕食の席でのこと


「何ですって!? ジェニファーに結婚の申込みが来たですって!?」


ジェニファーから手紙の話を聞かされたアンが興奮気味に声を荒げた。


「ジェニファー、結婚しちゃうの!?」

「ここを出ていっちゃうの?」


双子のトビーとマークが目を丸くする。


「何だよ、お前たち。ひょっとしてジェニファーがいなくなるのが寂しいのか?」


14歳になり、すっかり大人びたニックが二人に尋ねる。


「う、うん……」

「だって……」


サーシャが双子を窘めた。


「トビー。マーク。ここは、皆でおめでとうってジェニファーに伝えるのが筋なのよ? 今までこの家で頑張ってくれたジェニファーの幸せを祈ってあげなくちゃ」


「サーシャ姉ちゃんの言うとおりだ。今の俺達があるのは、ジェニファー姉ちゃんのおかげなんだからな」


その言葉に、ジェニファーが目をうるませる。


「サーシャ、ニック……ありがとう」


するとアンがヒステリックな声を上げた。


「何よ! また皆で寄って集って、ジェニファー、ジェニファーって! それは私に対する嫌味なの!? 」


キッとアンがジェニファーを睨みつけて質問をぶつけてきた。


「ジェニファー。相手はどんな男性なの? 金持ち? 貴族なのかしら?」


「多分、貴族です。お金も……あるとは思いますけど……」


「ふ〜ん、お金持ちなのね。だったら我が家に資金援助をしてもらえるのかしら?」


「! それ……は……」


(結婚の申込みだけで、十分幸せなのに……資金援助の話をニコラスになんて出来ないわ……)


「何よ? それくらい、相手に尋ねること出来ないの?」


「母さん! いい加減にしてよ! ジェニファーまで兄さんと同じように売るつもりなの!?」


ついに我慢できずに、サーシャは叫んだ。


「売るですって? 人聞きの悪いこと言わないで頂戴!」


「サーシャ姉ちゃんの言う通りだ! 母さんはザック兄ちゃんを売ったじゃないか! その金すら、あっという間に使い切ったくせに!」


「ニック! あんたまで何を言い出すの!」


一方、まだ小さいトビーとマークは何のことか分からずに首を傾げている。


「ね、ねぇ。落ち着いてサーシャ、ニック。それに叔母様も」


オロオロしながらジェニファーは3人を止めようとする。


「本当にこの家の者たちは皆気に入らないわ! 全員でジェニファーの肩を持つのだから……!」


ガタンと乱暴にアンが席を立った。


「叔母様? どうしたのですか?」


「食欲が落ちたのよ! 今日はもういらないわ! それよりもジェニファー!」


アンがジェニファーを指差す。


「何でしょうか……叔母様」


「我が家は貧しくて持参金は用意できないからね! それに嫁ぐなら資金援助を願い出なさい! あんたが出ていったら、 家事をする人手が足りなくなるのよ。家政婦を雇うお金と生活費の援助を出してくれない相手なら結婚などさせないからね!」


アンはそれだけ告げると、食堂を出ていってしまった。


――バンッ!


乱暴にドアを閉めてアンがいなくなり、サーシャとニックが声をかけてきた。


「ジェニファー。自分の幸せだけを考えればいいわよ。資金援助の話、することはないからね? 持参金の話だって先方に相談すればいいじゃない」


「そうだよ。母さんの言葉なんか気にする必要ないからな」


「サーシャ……ニック……ありがとう」


ジェニファーは弱々しく微笑んだ。


そして、この夜。

ジェニファーはニコラスに手紙の返事をしたためた。


自分がまだ未婚であることと、結婚の申し出を受け入れることを―――


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