3−1 出発

――翌日


 昼食を一緒に食べた後、2人の少女はジェニーの部屋で話をしていた。


「これが教会に持って行って欲しいお菓子よ」


ジェニーは紙袋に入った花模様が描かれた美しい缶を取り出し、蓋を開けた。


「まぁ、とても美味しそうなクッキーね」


缶の中には、丸いジャムクッキーが並べられていた。


「ええ、お父様が買ってきてくれたの。私は以前に食べたことがあるから、教会の子どもたちと一緒にジェニファーも食べてね?」


ニコニコしながらジェニーは缶の蓋を閉めると紙袋に戻した。


「私まで貰っていいのかしら?」


「もちろんよ。だってジェニファーだけ食べないのは変でしょう?」


「分かったわ。それでどう? この格好」


今日のジェニファーはいつもよりも、良い服を着ていた。何しろジェニーの身代わりとなって教会に行くのだから、それなりの身なりで出掛けなければならない。


「素敵よ、よく似合っているわ。教会の人たちは一度しか会っていないから、誰もあなたを見ても、別人だとは思わないはずよ」


「本当? なら自信が湧いてきたわ」


もしバレたらどうしようと不安に思っていただけに、ジェニーの言葉は心強かった。


「ジェニファー、もう教会の場所は覚えたかしら?」


「ええ、大丈夫よ。だって、このお屋敷は丘の上にあるから教会の屋根が見えるもの。それに実は今朝一度教会に下見に行ってるのよ」


朝が早いジェニファーは他の使用人たちが起き出す前に、こっそり屋敷を抜け出して教会まで行ってきたのだった。


「え!? そうだったの!?」


これにはジェニーも驚いた。


「だいたい片道歩いて20分位で行けたわ」


「すごい……歩いて20分で行けるなんて。私は無理ね。歩いて行ける自信もないわ」


その様子は少し寂しげだった。


「大丈夫よ。丈夫になれば、きっとジェニーも歩いて色々な場所へ行けるようになるはずだから」


「そうね……頑張って丈夫にならないとね」


その時。


ボーン

ボーン

ボーン


午後1時を告げる鐘の音が部屋に響き渡った。


「それじゃ、そろそろ行ってくるわね」


ボンネットを被り、ポシェットを肩から下げたジェニファーは紙袋を手にした。


「あ、ちょっと待ってジェニファー」


部屋を出ようとすると、ジェニーが呼び止める。


「どうしたの?」


「あのね、お願いがあるの。絶対に屋敷の人たちには教会へ行くことは言わないでくれる?」


「もちろんよ。だってもし言ったら、教会へ行ったのはジェニーじゃないことがバレてしまうものね?」


「ええ、そうなの」


「もし誰かに聞かれたら散歩に行ってくると話しておくわ。それじゃ行ってくるわね」


ジェニファーは元気よく手を振ると、ジェニーの部屋を後にした。




****



 屋敷の外に出ると、ジェニファーは空を見上げた。


「今日も素晴らしい青空ね。空気もおいしいし、遠くに見える山も緑の草原も何もかも素敵。……ダンとサーシャにも見せてあげたいわ……2人とも、元気にしているかしら」


ジェニファーがここへ連れてこられて、早いもので半月が経過していた。

何度も2人に手紙を書こうと思ったが、叔母にとり上げられてしまうのではないかと思うと書けずにいたのだ。


「さて、それじゃ行きましょう」


気を取り直したジェニファーは、教会へ向かって元気よく歩きだすのだった――




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