2−1 フォルクマン伯爵邸

「ジェニファー。ここが今、私達が住んでいる別荘だよ」


伯爵とジェニファーが出会ってから3日後。2人は汽車を乗り継ぎ、馬車に乗って大きな屋敷に到着した。

周囲は美しい自然に囲まれ、大きな屋敷や城が点在している。


その中の一つがフォルクマン伯爵家が所有する屋敷だったのだ。


真っ白な大きな屋敷は、周囲の山々に美しい草原、そして青い空に良く映えた。


「すごく素敵なお屋敷ですね……! それで、私はこのお屋敷でどんな仕事をすればいいですか?」


目をキラキラさせながら、ジェニファーは伯爵に尋ねた。


「仕事などする必要はないよ。ジェニファーは娘の話し相手になってくれるだけで良いのだから」


仕事の話が出てきたことで、伯爵は驚いた。


「え? でも働かないで置いてもらうなんて」


「ジェニファー。君はまだ子供だ。働くのは大人になってからでいいのだよ? 少なくともこの屋敷にいる間は働く必要はない。人手は十分足りているのだから。その代わりジェニーをよろしく頼むよ」


「はい、伯爵様」


ジェニファーは大きく頷いた。


「それでは、屋敷に入ろうか」


伯爵はジェニファーを連れて屋敷へ向かった――



****



屋敷に入ると、大勢の使用人たちが出迎えた。その中で、スーツ姿の初老の男性が進み出てきた。


「お帰りなさいませ、旦那様」


「ただいま。エバンズ。荷馬車が屋敷の前にある。この子の荷物が積まれているから荷運びをしてくれ」


その言葉にエバンズと呼ばれた男性がジェニファーに視線を移した。


「この方が、ジェニー様のお話相手になられるジェニファー様ですね?」


「はじめまして。ジェニファー・ブルックです。よろしくお願いします」


ジェニファーはお辞儀をすると、エバンズは目を細めた。


「これはこれは……大変、ジェニー様に似ておられる方ですね」


その言葉に、集まっていた使用人たちも頷く。


「皆もそう思うか? 何しろ、ジェニファーの父親は私の弟だからな。皆、この子のことを頼んだぞ。ジェニーと同等に扱うように」


『はい!』


声を揃えて使用人たちは返事をする。


「それで、誰がジェニファーの世話をするか決まっているのか?」


伯爵はエバンズに尋ねた。


「はい、決まっております。アン、来なさい」


その名前にジェニファーの肩が小さく跳ねた。


(アン……? 叔母様と同じ名前だわ)


ここにアンがいるはずはない。分かってはいるものの、ジェニファーは緊張する面持ちでこちらへ近づいてくるメイドを見つめた。


「初めまして。本日より、ジェニファー様の専属メイドとなりますアンと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


挨拶をしてきたのは、茶色の髪を三つ編みにした年若い女性だった。


「はじめまして……」


専属メイドなど、つけてもらったことがないジェニファーは緊張する面持ちで挨拶をする。


「では、ジェニファーを部屋まで案内してくれ。また後で迎えに行くよ」


「はい、伯爵様」


ジェニファーが返事をすると、伯爵は急ぎ足でその場を去って行った。その後姿を見送っていると、アンが声をかけてきた。


「では、ジェニファー様。お部屋までご案内いたします」


「あ、はい」


ジェニファーはアンの案内で、部屋へと向かった――



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