1−5 素直な子供たち


「わぁ〜美味しそうな匂い!」

「ケイトおばさんだ!」


ダンとサーシャは意地悪な母親よりも、優しいケイトが好きだった。そのことが、余計にアンを苛立たせていたのだ。


「こんにちは、ダン、サーシャ。皆にシチューを作ってきたわよ」


ケイトは途端に笑顔になる。


「ありがとう、 ケイトおばさん」

「私、シチュー大好き!」


「こ、こら! ダン! サーシャ!! あなたたち、何言ってるの!? こんな物食べちゃだめよ! 今から食事はジェニファーに用意させるのだから!」


「イヤ! だってお腹ペコペコ! もう待てないもの!」


アンが怒りで顔を真っ赤にさせると、サーシャは激しく首を振る。


「あ! お姉ちゃん! その手、どうしたんだよ!」


そこへダンがジェニファーの手の平に出来た傷に気づいた。


「可哀想に、ジェニファーはあなたたちのお母さんから1人で薪割りをするように命じられて、それで豆が潰れて怪我をしてしまったんだよ」


ケイトが嫌味たっぷりに教えた。


「え? そうだったの?」

「薪割りは大人の仕事だって言ったじゃないか!」


サーシャは首を傾げ、ダンが母親のアンを睨みつける。


「そ、そうよ! ジェニファーは、あんたたちより大人だから薪割りをさせたのよ!」


「ジェニファーはまだ10歳の子供ですよ!」


ケイトが言い返した。


「そうだよ! だったら俺だって薪割り位手伝うさ!」


ダンの言葉にアンは青ざめる。


「何言ってるの!? 駄目よ! 薪割りで怪我でもしたらどうするの?」


「だったら、お姉ちゃんは怪我してもいいっていうの?」


今度はサーシャが母親に問いかけた。


「うっ……!」


(な、何なの? この女といい、ダンにサーシャまで……ジェニファーに丸め込まれたっていうの!?)


アンは悔し紛れにジェニファーを睨みつけた。


「あ……」


(どうしよう、叔母様を怒らせてしまったわ……また叩かれてしまうかも……)


ジェニファーの顔に怯えが走り、そのことに気づいたケイトがアンの前に立ちふさがった。


「さぁ、どうします? 子供たちは皆シチューとパンを欲しがっています。夫人は欲しくないのでしょう? ご安心下さい、無理に夫人に食べてもらおうとは思っていませんから。さ、それじゃジェニファー、私の家に来なさい」


ケイトがジェニファーに声をかけた。


「え? ケイトおばさん?」


「ちょっと! ジェニファーをどうするつもりなの!?」


アンがケイトの肩を掴んだ。


「ジェニファーの手当をするに決まってるじゃありませんか。この家ではとても手当してもらえなさそうですからね」


「くっ……か、勝手にしなさい!!」


怒りで肩を震わせたアンは厨房から出て行った。


「お姉ちゃん。ごめん……薪割りなら今度から俺も手伝うよ」


「私も何か手伝う」


「ダン……サーシャ……ありがとう」


ジェニファーが2人に礼を述べると、ケイトが笑顔になった。


「2人はいい子ね。薪割りは、もっと大きくなってからでいいわよ。薪くらい私達が用意してあげるから。他の仕事を手伝っておあげ」


「「うん!!」」


笑顔で頷くダンとサーシャ。


「それじゃ、さっそくだけど2人でシチューをよそって食べれるかしら?」


「勿論! それくらい出来るさ!」

「私も出来る!」


「じゃ、2人で仲良く食べなさい。手当が終わったら、ジェニファーを返してあげるから」


ケイトは笑顔でダンとサーシャの頭をなでた。


「ごめんね、ダン。サーシャ。ちょっと行ってくるわね」


2人に申し訳なく思い、ジェニファーは謝った。


「うん、大丈夫だよ」

「行ってらっしゃい」


こうしてジェニファーは2人に見送られ、ケイトと彼女の家に向かった――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る