1−4 意地悪な叔母
夕暮れ時、ようやく薪割りを終えたジェニファーは屋敷の中に入ることを許された。
「全く、薪割りに何時まで時間を掛ければ気が済むのよ! さっさと夕食の準備をしなさい!」
アンはイライラしながら厨房に立つジェニファーを怒鳴りつけた。
「は、はい……でも、叔母様。私の手……豆が潰れて血が出ていますけど。こんな手で料理してもいいのですか?」
ジェニファー両手の平を叔母に見せた。少女の小さな手の平は幾つもの豆が出来て潰れて血がにじみ出ている。
「うっ! な、何なのよ! その手は! 斧の握り方が悪いからそんなことになったんじゃないの!? それとも家事をしたくなくてわざと怪我をしたのかしら?」
「そんなことするはずありません!」
あまりのアンの言い方に、ジェニファーの目に涙が浮かぶ。
そのとき。
――コンコン
屋敷にノックの音が響いた。
「全く、誰かしら? こんな忙しいときに……ジェニファー! 早く応対しなさい!」
アンは来客の応対までジェニファーにさせていた。
貴族生活に憧れていた彼女は使用人がするような仕事は一切する気は無かったのだ。
「はい……」
小さく呟くと、ジェニファーは扉へ向かった。
「どちらさまでしょうか?」
『私よ、ケイトよ』
「え? ケイトおばさん?」
扉越しに聞こえた声に驚き、ジェニファーは扉を開けた。
すると、鍋とバスケットを手にしたケイトが現れた。
「ケイトおばさん……」
「ジェニファー。可哀想に……今日、薪割りをさせられていたでしょう? 食事の準備が出来ないのではないかと思って鍋にシチューを作ってきたの。パンもあるから皆で食べるといいわ」
「ありがとうございます、ケイトおばさん」
ジェニファーが鍋を受け取ろうとしたとき、ケイトは手の平の豆に気づいた。
「どうしたの!? ジェニファー! ひどい怪我をしているじゃない!?」
「あ……これは……」
両手を後ろに隠しても、もう遅かった。
「薪割りのせいで、豆が出来たのね……? その手じゃ何も持てないでしょう。いいわ、私が運んであげる」
ケイトは屋敷の中に入ってきた。
「え? ケイトおばさん?」
ジェニファーは慌てた。何故なら叔母はケイトが屋敷に上がり込んでくるのを良く思っていなかったからだ。
「ジェニファー! 遅いじゃない! 一体何を……あら?」
厨房に戻ってきたジェニファーを怒鳴りつけた叔母は、ケイトの姿を見て眉を顰めた。
「あら? 誰かと思えば、またあんたなの? ここは貴族の家よ? 平民が図々しく上がってこれる場所じゃないのだけど?」
アンはケイトに散々お世話になっているにも関わらず、見下した横柄な口の聞き方をする。
しかし、ケイトも負けていない。
「こんにちは、夫人。ですが、この屋敷の持ち主はジェニファーですよ。彼女の許可は貰っています。居候のあなたにどうこう言われる筋合いはありませんけど?」
「な、なんですって……!? 居候ですって!?」
居候……それは一番言われたくない言葉だった。
プライドの高い彼女は、ブルック家に上がり込んできた自分たちを居候とは認めたくなかったのだ。
「ええ、そうです。居候を居候と呼んで何が悪いのです? さぁ、ジェニファー。この鍋を火にかけて温めるだけで食べられるからね? パンはあなたの好きな白パン焼いて持ってきたわよ?」
ケイトは怒りで震えるアンを無視し、ジェニファーに笑顔で話しかける。
「ちょっと! あんた! 私達にそんな貧相な食事を持ってくるなんて失礼……」
しかし、ケイトは最後まで言わせない。
「別に奥様食べさせるために持ってきたわけではありません。ジェニファーと、この料理を食べたい人たちだけに差し入れたのですから」
そこへ、ダンとサーシャが厨房へ現れた――
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