第31話 米国でもEXVか……。なんか繋がってきたかも?
翌日、十文字は瞳を連れて大森研究室を訪ねた。
ソフトロイドのメイリーが出迎える。
メイリーは、昨年、伊崎海洋開発から割安で貸与されたものだ。
大森の監視兼保護が目的である。
失踪したメイリー・チャンが、いつ接触してくるかも解らない。
「最新型のソフトロイドですね」
『アカホヤの灯』の名刺で挨拶を交わしながら、十文字は大森に笑顔を向ける。
「解りますか? 最新型って解ってもらえるのは嬉しいなあ。重宝していますよ」
「実は、うちの近所にも最新型を置いているハニーロイドカフェがあるもので」
「横浜のですか?」
「はい。その横浜の姉妹店が札幌にも出来るんですよ。3日後にオープンなんで、この後11時に取材する予定なんです。ご一緒にどうですか?」
「え、いいんですか? 面白そうですね」
それから30分程、十文字は、大森から神経細胞の電子接続についての簡単なレクチャーを受ける。
「それで、事業化の状況はいかがですか?」
「関心を示してくれる企業や団体も少なくないのですが、正直、芳しくないですね。神経細胞には上りと下りがあるんですが、僕のやり方は、上りと下りで接続方法が異なるので、接続スペースがかさ張ってしまうんです。それを少しでも緻密にしようとすると、さらにスペースを取るっていう課題があって。見た目もごつくなってしまうので、受けはいまひとつというところでしょうか」
「なるほど、神経細胞との電子接続には、他の方法もあるみたいですね。この前、取材させて頂いたのですが、私立横浜大学の高田研究室はご存じですか?」
「ちょっと聞いたことはないですね」
「高田研究室は主に臓器培養を研究しているのですが、そこの出身の
「ほほう」
身を乗り出して関心を示す大森に、ひとつ頷いて十文字は続ける。
「その熱田さんが、今年の初めに、脳神経外科医のご主人と共著で、『視神経と電子的映像認識』という論文を発表されているのですが、そこでは、さらに精緻化されたブレインコネクトモジュールの技術が使われています。1ミクロン単位で上りも下りも同様に接続出来るんです。大森さんの接続スペースの課題を一挙に解決出来るかもしれません」
「そうなんですか。その論文はちょっと気が付かなかったですね……。脳神経外科方面は見てなかったなあ」
「実は、その熱田実さんが、半年ほど前、交通事故で両足を失っているのですが、大森さんの義足設計技術とコラボしたら、すごい義足が出来るかもしれないと思うんです。是非、一度熱田さんに会って頂けないかと思いますが、ご都合付きますでしょうか」
「そうですね。僕もその技術には興味があります。ちょっとスケジュールを調整してみましょう」
「よろしくお願いします」
話の流れがいったん切れたところで、瞳が壁の写真に反応して声を上げる。
「あの、あちらの写真は、どなたですか?」
「ああ、僕の古巣の教授と研究仲間です。米テキサス州立大学ドナルド・ハーパー研究室ってところなんですが」
十文字は、メイリー型ウェットロイドについてのレクチャーを思い起こし、表情を曇らせる。
――この女性が、生身の人間の脳をAI
に置き換えたという人物か?
きつめの印象だが、そこまで恐ろし
いことをするようには見えない。
物思いに沈む十文字を見て、瞳が話を掘り下げに掛かる。
「――それで、どういう研究をしている研究室なんですか?」
「僕みたいに義手や義足、義眼などを研究する人もいますが、マヒした手足をAIでサポートして動かすような、生体をコントロールする研究もやってました。今は、その研究は止まっている筈です」
そう言って、寂しげに視線を落とす大森。
「優秀な人材が抜けると5年10年の単位で研究が滞る。そういう世界なんです。今は、手足の神経信号を使って自動車を動かす研究をやっていると思います。大きなスポンサーも付いたらしくて」
「大きなスポンサーですか?」
今度は、十文字が話を広げに掛かる。
「ええ、電気自動車の
「EXV社は日本でも徐々に広まってますよね? 札幌にも支社があったかと思いますが」
「そうですね。うちの両親も使ってます。EV車は、大雪で閉じ込められると怖いのですが、北海道では燃料電池が付いたモデルが売られているんです。いざという時は重油で発電機を回す仕様です。保証やサービスも充実していて、電気・ガス・水道・医療・保険だけじゃなく、食材配達やケータリングもやっているんです。請求が全部一括なんで、便利で使いやすいというのもあります」
「そうなんですか。EXV社は囲い込みが凄いですね」
驚いた表情で、ひと際深く頷く十文字。
「あ、十文字さん、そろそろいい時間ですよ」
と、瞳が声を掛ける。
「大森さん、今日はありがとうございました。そろそろ行きましょう」
「いやあ、楽しみですね」
―米国でもEXVか……。
なんか繋がってきたかも?
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