宇宙世紀の差別主義者

月ノみんと@成長革命2巻発売

第1話


 2095年の社会において、あらゆる差別は許されていない。

 どんな犯罪者に対する差別でも認められていない。

 2095年という時代は、それほど社会の倫理観が進んだ社会だった。

 あらゆる人種差別は、長い年月と苦労の末、世界から消滅した。

 かつては肌の色や目の色の違いで差別し憎みあっていた人たちも、今ではあらゆる違いを認めあっている。

 少なくとも、表向き、社会正義としてはそうなっている。

 基本的人権はあらゆるものに認められている。

 いまでは動物愛護団体の活動のおかげで、チンパンジーにでさえ人権が認められるようになったくらいだ。

 だがしかし、2095年の12月、突如空中にUFOが飛来した。

 それまで人類は宇宙人と出会ったことはなく、これが初めての邂逅となる。

 UFOから降りてきた宇宙人は、害のない善良な宇宙人であった。

 しかし、彼らはあまりにも人間と違った見た目をしていた。

 それは肌の色や目の色といった違いにとどまらず、根本的に生物の仕組みが違っていた。

 腕の数や脚の数が違う、どころかそもそも腕とか脚の概念もなくて、どこが腕だかどこが脚だか、そもそもどこが上で下なのかさえ、わからない始末だった。

 宇宙人たちの見た目は、人々を不快にさせ、怖がらせるものだった。

 宇宙人たちも、そのことは重々理解していた。

 彼らにとっても人間はまた奇妙な存在に映っていた。

 だが、この宇宙人たちもまた、人間と同じく成熟した社会を気づいている。

 彼らもまた、あらゆる差別をゆるさない。

 なので宇宙人たちは人間たちに対して、極めて友好的に接触してきたのである。

 人間たちもまた、自分たちと同じように、あらゆる差別をゆるさない存在だと信じているからである。

 お互いに成熟した社会であれば、このような違いを乗り越えられると考えたのだ。

 しかし、人間側の反応は違った。

 人間の理屈でいうと、宇宙人たちに人権はない。

 宇宙人たちを守る法律もない。

 最初は人間たちは宇宙人たちを受け入れた。

 宇宙人たちをテレビに出したり、さまざまな交流をはかった。

 しかし、人間たちはしだいに宇宙人たちを差別し始めたのだ。

 人間たちは、表向きは差別はいけないとしながらも、心のどこかでは、なにかを差別したいと思っていた。

 差別しないと口ではいっていても、心の中にある差別心は消し去ることはできない。

 差別はゆるされないと硬く禁じられているからこそ、人々は差別というものを強く意識する。

 地球全体で、差別はいけないという倫理を作っておきながら、どこかで差別する対象を欲っしていたのだ。

 それほど人類は、差別に飢えていた。

 人類は長らく差別を禁じていて、差別に飢えていたのである。

 当然だが、宇宙人たちに人権はなく、彼らに関する法律はない。

 であれば、宇宙人たちの権利を守る義理は人間たちにはないのである。

 人間たちの差別はどんどんひどくなっていき、宇宙人を迫害しはじめた。

 極めつけとなったのは、ある宇宙人が起こした事件である。

 差別されることに怒りを感じた宇宙人の一人が、子供を攫い、殺したのだ。

 その事件をかわきりに、宇宙人に対する迫害はさらにエスカレートする。

 差別が禁止されている社会に、新たに一つ属性を追加し、それを差別してもいいとなったとき、人々はここぞとばかりに残虐性をあらわにした。

 差別を止めるものはいなかった。

 みんな、どこかでガス抜きが必要だった。

 差別をゆるさない社会はルールでギチギチに固められ、みな窮屈さを感じていた。

 そこに醜い宇宙人という格好の的が現れたのだ。

 人間たちは正義感のもと戦った。

 誰も自分が間違っているとは思わなかった。

 子供を殺した宇宙人たちが悪なのだと。

 宇宙人たちは激しく抗議した。

「地球人は進んだ文明をもっていて、熟成した社会だと思っていた。我々を差別しないと判断したからこそ、接触したのに! こんなんじゃ、まだ人間とコンタクトをとるのははやかったと言わざるをえない。なぜこんなにも我々を差別するのだ? 君たちは差別をゆるさないんじゃないのか!?」

「私たちは地球のあらゆる生命体を差別しない。だが君たちは地球の生命体じゃない。君たちに人権はない」

 宇宙人たちは悲しのあまり、自害した。

 UFOは地球人たちによっておさえられ、宇宙人たちは帰れなくなっていた。

 そして迫害の日々。

 宇宙人たちはあまりの辛さに、自分たちの間違いを悔やんで自害した。

 人間たちは自分たちに都合のいいストーリーをでっちあげた。

 地球が悪い宇宙人に侵略されそうになり、それを人類は戦いによって地球を救ったのだと。

 でっちあげられたストーリーは最初は誰もが知る欺瞞だったが、時が経つにつれ、次第にそれは本物の歴史となった。

 当時を知る人々がいなくなれば、作り話はただの歴史となる。

 そして、時は3456年。

 人類はついに、宇宙連合と接触した。

 宇宙連合というのは、多くの先進的な宇宙文明の共同体だ。

 宇宙連合には数多くの宇宙人たちが参加している。

 人類は宇宙連合の代表者たちと会議をすることになった。

 宇宙人たちはどれもこれも奇妙な見た目をしていた。

 とてもじゃないが、人類と似た宇宙人はいなかった。

 人類はその中で、むしろ自分たちだけ疎外感を感じるような見た目だった。

 宇宙人たちは人類を宇宙連合の仲間に加えることにした。

 この時代の人間たちは、さらに進んだ人権意識をもっていたので、決して宇宙人たちを差別することはなかった。

 しかし、あるとき事件が起きた。

 人類の一人が宇宙連合のお偉いさんの子供を殺したのである。

 すると、宇宙人たちの態度はいっぺんした。

 人類は宇宙連合から差別され、迫害されるようになったのだ。

 人類は激しく抗議した。

「人類に対する不当な差別は宇宙連合の法律にも違反している! これは人権を無視している! いますぐ我々を差別するのをやめるべきだ! 君たち宇宙連合は進んだ文明じゃないのか!?」

「だって君たち人類は我々とあまりにも違うじゃないか! それに、君たちは我々の外の宇宙からやってきた! そもそも君たちは我々と同じ生命体じゃないんだ!」

 そして人類は迫害されて、その数を大きく減らすこととなった。

 宇宙連合の歴史では、人類は宇宙連合を脅かした侵略者ということになっている。

 差別というのは、悪人がするのではない、善良な一市民が、善良な心で、正義感から義憤に駆られて行うものなのだ。

 宇宙全体の長い歴史の中で、差別というものがなくなったことは、過去一度もない。

 少なくとも、私の知る限りでは。

 


 宇宙歴史ハンター カイゼルベルグ


 

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