両親不在をいい事にクラスメイト女子を自宅に連れ込んだら他にもなんか来た

助部紫葉

マグロ&バーサーカー



ガチャり、と玄関が開く音が聞こえた。



その音を聞いてぞわりと全身の毛が総立ちし、ダラダラと嫌な汗が噴き出してきた。


今日、両親は結婚記念日ということで父母2人で出かけて明日まで帰ってこない。結婚ウン十年目だというのに未だにバカップルみたいにラブラブの両親である。そんな両親を見て幼なじみの美希が「将来、私達もこんな風になりたい」なんて言ってたことを思い出す。


両親は帰ってこない。となればこうしてチャイムも無しに鍵付きの二階建て一軒家である我が家に勝手に侵入できるのは母から合鍵を渡されている幼なじみの美希しかいないことは容易に想像がついた。


となれば今しがた玄関を開けて入ってきたのは幼なじみの美希であろう。



「おじゃまします」



声が聞こえた。これは美希の声。予想通りだ。


大方、両親不在を知り、晩飯の用意とか世話を焼きに来たのだろう。有難み身に染み渡る来訪であろうね。


予想出来るが故に、不味い。超不味い。大変不味い。


そろそろ今の俺の現状を説明した方がいいだろうか。いや、現在の状況を鑑みるにそんな余裕は一切無いのだが、ここは一旦落ち着く為にも現状を確認しよう。


俺氏。今日は両親がいないことをいいことにクラスメイトの女子を自宅に連れ込み、そのクラスメイト女子と先程まで一緒に全裸で身体をぶつけ合わせる組体操をしていた。とても気持ちよい汗かいた。


で、今、その事後ってわけ。


まだ俺も、一緒に全裸組体操してたクラスメイト女子も、2人揃ってベットの上で全裸なわけ。ちなみにクラスメイト女子の名前は灯多理ちゃんと言う。


ベットの上で年頃の男女が全裸組体操事後イチャイチャしていた。それが現状。そこに幼なじみの美希来訪。つまるところは絶体絶命の危機。


今のこの現場を幼なじみ(女子)に見られてみろ。この明らかに切磋琢磨していた事後の生臭い匂いを嗅がれてみろ。秒で組体操してたのがバレるわ。間違いなく血の雨が降るぞ。勿論、俺の。


美希は料理上手だ。包丁さばきも職人のごとき手慣れっぷり。魚の三枚おろしもお手の物。マグロの解体だって出来る(多分)。となればマグロ(灯多理ちゃん)を美味しく味わっていた俺をサイコロステーキ丈に切り分けるのも容易かろう。


くっ、もういっそ俺はマグロを美味しく召し上がってただけなのだと言い切って押し切って誤魔化してやろうか。なんも嘘偽りは無い。嘘ついてない。だってホントだもん。灯多理ちゃんマグロだったもん。


そんな言い訳が通じるわけはなく。なんだったら灯多理ちゃんからもヘイトを買いそうな文言。こんな言うたら夜道で背後からブッスリ刺されても文句言えない案件。三枚おろしにする際はまず腹をかっさばいて内臓を取り出す。とりあえず、アレか。内臓取り出すなら後ろからより前から刺した方がいいよとアドバイスしたい。そもそも人は刺したらダメだとアドバイスしたい。俺はマグロじゃない。マグロなのは灯多理ちゃんだから。


言うてマグロはマグロで美味しいは美味しいのだ。結局、下の舌がトロットロッになるぐらいには美味しかったわけなのだし。相性はかなりよかった模様。


落ち着け。マグロの味を思い出してる場合では無い。こらこら元気になるんじゃない我が分身。ステイステイ。


今は美希だ。美希の対処を考えなければならない。我が家に来訪した美希のとる行動とは如何に?とりあえず俺の様子を伺いに真っ直ぐ2階にある俺の部屋までやってくると予想できる。外れろ俺の予想!



とん……とん……とん……。



階段を上る足音!俺の予想見事的中!外れろ言うたやんけボケが!的中させてんじゃねぇ!


どうする?どうする?どうする?


とりあえず服着て、それで灯多理ちゃんが遊びに来てましたー!ってする?いやダメだ。服着たくらいじゃ諸々の痕跡は消せないし、臭い凄いし、そもそも服を着ている時間は無い。


嫌だ。まだ死にたくは無い。美希ちゃん普段クールな癖に結構バイオレンスだったりするの、マジで。呼び覚ませ生存本能。閃け俺の脳細胞。この危機的状況を打ち破れ。デッドオアアライブ。


ズビシャンッ……!


雷撃が走る(比喩)。


俺は思いついた。絶望の縁、極限まで研ぎ澄まされた思考が打開策を閃く。普段は気持ちよくなることしか考えていない腐った脳みそが示した一筋の光。そうか、やってくれたか腐乱死体が如き我が脳髄。思いついたか解決策を。そうだ。これならば。


思いついた現状を打破する策を俺は直ぐさま行動に移した。


まずはすっぽんぽんの灯多理ちゃんに「ごめんね。ちょっと静かにしてて」と優しく声をかけて担ぎあげる。そのまま困惑気味の灯多理ちゃんをクローゼットの中にインして隠した。よし、次。


灯多理ちゃんの脱ぎ散らかされている服をまとめてベットに隠す。俺の服はそのままでいい。はい、次。


椅子に座って机の上に置いてあったパソコンに向かう。マウスを動かすと待機画面だった画面が切り替わる。素早いマウス操作で画像フォルダを開く。幼い時に海に遊びに行って撮った写真。笑顔の俺と無表情の美希。どちらも水着姿である。そこにあった水着のロリ美希の画像を拡大し画面いっぱいに表示する。


トントントンと足音はすぐ近くまで迫っていた。あと数秒もすれば俺の部屋のドアをノックも無しに勝手に開けて美希が入ってくるだろう。だが大丈夫。間に合う!



これで最後だッ!立ち上がれマイサンッ!



ガチャリと音がして部屋の扉が開かれた。



「真弘、夕飯ーー……」


「うぉおおっ!美希ッ!美希ィッ!イグッ!イグぅうううっ……!」



しこしこ。



俺の部屋の扉を開けて幼なじみの美希が目にした光景。


それは、幼なじみがパソコンを前に全裸で椅子に腰掛け、自分のロリ水着画像を見ながら一生懸命に右手をシコシコ動かしている姿であった。



「…………」


「…………」



その時、時が止まった。



俺は動きを止めてシレッと美希を見る。


美希はドアノブに手をかけたまま俺を見て固まっていた。



チン黙。



「イカくさっ」



美希の一言。



バタンッ!



美希はぶっ壊す勢いでドアを閉めた。



「真弘」



ドア越しに美希の声。俺は慌てた感を出して「ひゃいっ!」と返事をした。



「話がある。臭い体洗って、リビングに来て」


「わ、わかりましたー……」



底冷えする冷ややかな声を扉越しに浴びせられた。


遠ざかる足音。美希は俺の部屋から離れて階段を降りていく。



た、たっ、耐えたッぁーーーー!!!



絶体絶命の危機。まさに危機一髪。それをなんとかギリギリの所で、耐えた……!



「ふぅ……」


現状を乗り越えて一息ついて冷静になる。


果たして本当に耐えたのか?この状況?いろいろ終わってない?


いや最悪の事態は避けた、はず。


まだ未来に繋がった、はず。


目撃された現場が、クラスメイト女子を連れ込んで2人で全裸組体操真っ最中よりかはロリ水着姿の幼なじみをオカズに1人でハッスルしてましたの方が多分マシなはず。


マシなはず。


なんでロリ水着姿の画像をチョイスしたかって?


たまたまだよ。


決して俺はロリコンでは無いのだよ。


そろりとクローゼットに向かい、開ける。



「あ、あの……真弘さん」



クローゼットを開けると全裸のクラスメイト女子。灯多理ちゃんは涙目で俺を見上げる。


ふむ……。捕食される前の小動物みたいに怯えた表情で俺の事を見ないで欲しい。加虐心が刺激されて興奮してしまう。



「わ、私なにか真弘さんの気に触ることでも、したのでしょうか……?」


「あ、いや別にそういうわけじゃなくて」


「そ、そそれなら、なんで……」



灯多理ちゃんはどうやら現状をよく把握してないようだ。何故、自分が急にクローゼットに押し込まれたのかの理由がわかっていないようである。


一難去ったが、まだ危機的状況は続いている。美希に灯多理ちゃんが居ることをバレる訳には行かない。



「詳しく説明してる時間は無いから端的に説明する。幼なじみの美希が来た。灯多理ちゃんの存在がバレると不味い。俺が美希の気を引くから、その間に灯多理ちゃんにはこの家から脱出して欲しい」


「えっ……」



俺がそう言うと灯多理ちゃんはまるでこの世の終わりと言わんばかりの絶望的な表情を浮かべた。



「そんな……真弘さん……。明日休みだから今日は、ずっと一緒に入れるって……」



本日、金曜日。明日は土曜で学校休み。今日は灯多理ちゃんとオールナイトで朝までシッポリが本来の予定だったりした。俺もその気まんまんヤル気まんまんだった。


しかし、口惜しい話であるが美希の来訪でそれは断念せざるを得ないだろう。



いやまて……ホントにそうだろうか?



いうて美希は夕飯を作りに来てくれただけだろう。その流れで夕飯は一緒に食べることになるだろう。そして夕飯を食べ終われば美希はおそらく帰宅するだろう。


するとどうだ?美希が帰ればこの家には俺と灯多理ちゃんの2人きり。


それに俺の部屋は現在、イカ臭い結界に包まれている。となれば今日この部屋に美希が立ち寄ることはおそらく無いんじゃないだろうか?


もしや、この部屋にこのまま灯多理ちゃんが居ても美希にはバレないのではないだろうか?


いやバレんやろ。


行けるな、コレは。



「灯多理ちゃん、やっぱり作戦変更。おそらく美希は夕飯食べたら帰るから、それまでこの部屋で隠れててくれる?」


「あっ……。そ、それってつまり……」


「うん。美希が帰ったら……続きしよ?」


「は、はい……!」



パッーと花咲くように表情を明るくさせる灯多理ちゃん。この子やっぱり超可愛いな。




ーーーー




サラッとシャワーを浴びてリビングに行くと、無表情の美希がソファに腰かけていた。


俺は直ぐさま美希の目の前で正座する。



「あれは違うんです」


「……なにが?」



冷ややかな声。相変わらずの無表情。とりあえず怖い。



「だから、その……」


「…………」


「えっと……」


「…………」



沈黙の圧。



必死に言い訳を考える。あの場ではアレが最善だと思っていたが、いざアレの言い訳をするとなると、上手い言い訳がまったく思いつかない。


水着姿のロリ美希をオカズにしてた言い訳……。


そんなんあるかい。俺だって流石にアレはどうかと思うわ。



「……溜まってるの?」


「ま、まぁ……それは……」



長い沈黙の末に美希は口を開く。


溜まっていたと言えば溜まっていた。でもそれは灯多理ちゃんで発散してしまっていて、今はわりとスッキリしてしまっていたりする。そんなこと絶対に言わんけど。



「それなら、する」


「…………はっ?」



提案。


突然の提案。


俺は鳩が豆鉄砲くらったような顔になった。



「明日、休み」


「あっ、いやっ」


「今日、泊まる」


「えっと、それは……」


「なに?」


「こ、心の準備とかが……」


「なんで?」


「なんでって、それはだから」


「いまさら?」


「それは、そうなんだけど」


「したいんでしょ?」


「それも、そうだけど」



愚痴愚痴と言い淀む俺。煮え切らない態度に痺れを切らした美希は伝家の宝刀を抜いた。



「私でどうてい捨てた癖に」


「うぐっ……」



それを言われると、もはや何も言い返せない。



「泊まる」


「お、おう……」





やっべぇ。













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