トゥープレイ&プレイ



シスター・ユキムラはあまりにも無力だった。


地球外生命体を前にしてユキムラには為す術がなかった。いやもうホントにこれどうしていいか分からないです……。


だから、祈った。こんな無力な自分にも出来ること……それは祈ることだった。これでも一応シスターなので祈るのは得意だった。


悪魔に憑かれてるのか、地球外生命体に拉致されて改造されてしまったのか、そもそもコレそのものが地球外生命体なのか、全くもって微塵にも分かりはしなかったが、とりあえず祈った(思考放棄)。


エイリアンがカクカク腰を振り乱して乱れ狂うベットの横で、静かに、静かーに、祈った。指を組んで目を閉じて「なんとかなれ!」と念じながら祈った。


ユキムラが祈りを捧げ始めてから暫くして変化が起きる。


まず絶え間なく聞こえていたエイリアンの奇声が止んだ。次にエイリアンが動きを止めたようで部屋に静寂が訪れる。


エイリアンが遂に傍らで祈るシスターの存在に気がついたのだ。


エイリアン……否、江東初唯は我に返った。


ハッスルしていた自分。全裸の自分。汗とか汁に塗れた自分。その横で静かに祈りを捧げている見知らぬシスター。びくってなった。


どうしてこうなった。


本来の初唯の予定は真弘の部屋でスタンバイして当人が帰ってくるのを待ち、自分のあられもない姿を見せれば真弘は理性を失いそのままホールインチンでオッパじまる予定だったのに……どうしてこうなった。予定とチガウ。


初唯はイソイソとシーツにくるまって肌を隠した。自分の柔肌を見ていいのは旦那である真弘だけで、他の人に見せるつもりは無い。まあ、もう既に手遅れで、真弘以外の数人に全裸どころか暴れてるとこを見られてるのだが、それを初唯は知らない。むしろ知らない方がいいまである。


真弘に対しての行動は過激ではあるが、そもそも初唯は致命的なコミュ障である。


初対面のシスターと同じ部屋で2人きりになっている現状……マジでどうしたらいいか分からなくて途方に暮れた。



「祈りましょう」



ユキムラは静かにそう呟いた。



「おぴゅっ……」



初唯からは変な声でた。



「い、祈りましょう……」


「…………」



ユキムラは再び呟く。初唯は言葉を発する事を諦めた。なんか言おうとしても初対面の相手に自分はまともに会話をすることが出来ないと悟ったからである。


というわけで初唯も祈ることにした。何に対して祈るのかもよく分からないが、とりあえず祈ることにした。とりあえずアレだ。真弘にあたり祈りを捧げようと思う。初唯の全ては真弘に帰結する。つまり初唯にとっての神とは真弘であり、信仰対象も真弘なので真弘に祈りを捧げるのは当然だ。それで真弘のことを考えていたらまたちょっとムラムラしてきた。



「…………」


「…………はぁ…………はぁ…………」



2人で祈った。


ユキムラは静かに祈っていたが初唯は祈りながらちょっとハァハァしていた。



「何か……悩みなど、ありますか?」



祈りながらユキムラは静かに初唯に問いかけた。



「ひゅっ……!」



問われた初唯。言葉を発しようと息を吸ったら失敗して変な音が出た。いたたまれなさと恥ずかしさで初唯の顔は真っ赤で目はアワアワと回っている。急に話しかけるからー。



「落ち着いて、大きく息を吸って」


「シュコー」


「ゆっくり吐いて」


「コシュー」



ユキムラに言われた通りにしてみる初唯だが、どう頑張っても暗黒卿みたいな呼吸になってしまう。



「……祈りましょう」


「ブォォン……」



困ったら。コレ。祈る。


しばらく祈って心を落ち着かせる。



「私はシスターのユキムラと申します。貴方様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


「ぴっ……!う、うううう、うひ、ひっ、ひひひ、ううう、う、ういで、う、い……で、でででで、ひゅっ……!」


「…………。う……うい様……?で、しょうか?」


「しゅっ……!」



コクコクと頭を縦に振り正解の意を示す初唯。流石はシスターか。どもりすぎて奇声に聞こえた初唯の言葉の中から、なんとか名前を見つけ出したようである。



「それでは、うい様……祈りましょう」


「ぴょ……」



2人で祈った。とりあえず祈っとけば何とかなる。自己紹介を済ませたが、そこからどうしていいかわからなくなったユキムラは祈ることを選択した。何かを問いかけてもまともな返答が期待出来ないと判断した。それに先程までの行為を問うのは気が引けた。というか見なかったことにしたかった。となるとやはり祈るしかない。


祈ることでなんか精神が研ぎ澄まされていくような気がした。研ぎ澄まされた二人の精神はやがてなんか同調していったような気がした。こうして2人はなんか通じあったような気がした。


言葉などいらない。人と人が通じ合うために必要なのは祈りである。なんかそんな感じがした。


2人の根っこの部分での気質は似通っている部分があった。成長の過程であっちにいったりこっちにいったりしたが、実は2人は似ていた。


そんな2人だからこそ通じ合えたのかもしれない。多分なんかそんな感じのような気がする。


そして、通じあった2人にもう言葉は不要である。


2人は祈りを終えて同時に立ち上がる。



「行きましょう」


「みゅ」



2人はとりあえず真弘に会いたかった。あとちょっとお腹が空いてた。ならば行くしかあるまい。



こうして封印は解かれる。













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