関係者たち
「被害者は、
若手のホープの田中刑事が言った。
「そうか。死因は?」
三枝警部補が聞いた。しかめ面が張りついたような中年男だ。
「打撲による臓器不全や内出血のようです。バットのようなもので何度か殴られているかと思います」
「ふむ」
「被害者は、ユーチューブ動画で各方面に喧嘩を売っているようですので、動機面で犯人捜しは難しいかもしれません」
「第一発見者は、掃除のおばちゃんだったな」
三枝はパイプ椅子をぎしぎしと軋ませた。ニコチンが足りないので、落ち着きがない。
「はい。公園の公衆トイレで倒れているところを発見したようです」
「目撃者は?」
「いまのところ、殺害現場を目撃した人はいません」
「妻にアリバイは?」
「ありました。女性の友人とディナーをしていました」
「そうか」
三枝は立ち上がった。
「どこへ?」
「煙草だよ。ここは禁煙だろ」
三枝は会議室を出て、喫煙所に向かった。
*
敦広の妻である
彼はユーチューブでしっかり稼いではいたが、たびたびの炎上する言動や、普段のパワハラにうんざりしていた。誰かが殺してくれないかと、ひそかに期待していた。
「ってか、旦那が死んだばかりなのに、大丈夫なの?」
ベッドの中で、美恵の恋人の雄太が言った。
「平気よ。私にはアリバイがあるし、疑われる理由もない」
その時、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
インターホンに向かって、美恵が聞く。
「どちら様ですか?」
「警察です。もう一度、お話を伺ってもよろしいでしょうか?」
美恵は息を飲んだ。
*
彼はユーチューバーで、敦広とはライバル関係にあった。穏健派なので、炎上で動画再生回数を稼ぐ敦広のことを嫌っていた。
コツコツと動画を投稿し、真面目に登録者や再生数を伸ばしていた加賀谷にとって、敦広は悪以外の何物でもない。居なくなればいいと願っていた。
そんな敦広が死んだ。痛快だった。
公園を半周したあたりで、急に催し、彼は公園のトイレに駆け込む。清掃中の看板が出ていた。
「すみません。トイレを使っていいですか?」
作業中の清掃員の女性に声をかけた。
彼女は一瞬不機嫌そうな顔をしたが、すぐに、
「ええ。どうぞ」
と笑顔で応じた。
(あれ、意外と若いし、可愛いな)
トイレ清掃のイメージと服装のせいで、中年女性と思ったが、年齢は20代後半くらいの女性だ。
股間のファスナーを開け、彼女に見られないように苦心しながら加賀谷は用を足した。
*
三枝と田中が中山敦広のマンションを訪問すると、妻の美恵は狼狽していた。
(これは何かあるな)
三枝の直感が働く。
(そういえば、微かに煙草の臭いが……)
彼は勿体ぶりながら尋ねる。
「敦広さんは、喫煙者でしたか?」
「いいえ。煙草を毛嫌いしていました」
美恵が答えた。
(ということは、これは美恵のものか、それとも彼女に男がいて、そいつが吸っていたのか?)
*
「三枝さん。ご名答です。美恵には男がいました」
調査の結果を嬉々として田中が報告した。
「この男が犯人かもしれませんね」
田中は盗撮した写真を三枝に渡す。
「名前は――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます