関係者たち

「被害者は、中山敦広なかやまあつひろ。三十八歳で、四歳年下の妻がいます。職業はユーチューバーだそうです」

 若手のホープの田中刑事が言った。

「そうか。死因は?」

 三枝警部補が聞いた。しかめ面が張りついたような中年男だ。

「打撲による臓器不全や内出血のようです。バットのようなもので何度か殴られているかと思います」

「ふむ」

「被害者は、ユーチューブ動画で各方面に喧嘩を売っているようですので、動機面で犯人捜しは難しいかもしれません」

「第一発見者は、掃除のおばちゃんだったな」

 三枝はパイプ椅子をぎしぎしと軋ませた。ニコチンが足りないので、落ち着きがない。

「はい。公園の公衆トイレで倒れているところを発見したようです」

「目撃者は?」

「いまのところ、殺害現場を目撃した人はいません」

「妻にアリバイは?」

「ありました。女性の友人とディナーをしていました」

「そうか」

 三枝は立ち上がった。

「どこへ?」

「煙草だよ。ここは禁煙だろ」

 三枝は会議室を出て、喫煙所に向かった。


 *


 敦広の妻である中山美恵なかやまみえは満面の笑顔だ。

 彼はユーチューブでしっかり稼いではいたが、たびたびの炎上する言動や、普段のパワハラにうんざりしていた。誰かが殺してくれないかと、ひそかに期待していた。

「ってか、旦那が死んだばかりなのに、大丈夫なの?」

 ベッドの中で、美恵の恋人の雄太が言った。

「平気よ。私にはアリバイがあるし、疑われる理由もない」

 その時、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。

 インターホンに向かって、美恵が聞く。

「どちら様ですか?」

「警察です。もう一度、お話を伺ってもよろしいでしょうか?」

 美恵は息を飲んだ。


 *


 加賀谷満かがやみつるは清々しい気分で公園を散歩している。

 彼はユーチューバーで、敦広とはライバル関係にあった。穏健派なので、炎上で動画再生回数を稼ぐ敦広のことを嫌っていた。

 コツコツと動画を投稿し、真面目に登録者や再生数を伸ばしていた加賀谷にとって、敦広は悪以外の何物でもない。居なくなればいいと願っていた。

 そんな敦広が死んだ。痛快だった。

 公園を半周したあたりで、急に催し、彼は公園のトイレに駆け込む。清掃中の看板が出ていた。

「すみません。トイレを使っていいですか?」

 作業中の清掃員の女性に声をかけた。

 彼女は一瞬不機嫌そうな顔をしたが、すぐに、

「ええ。どうぞ」

 と笑顔で応じた。

(あれ、意外と若いし、可愛いな)

 トイレ清掃のイメージと服装のせいで、中年女性と思ったが、年齢は20代後半くらいの女性だ。

 股間のファスナーを開け、彼女に見られないように苦心しながら加賀谷は用を足した。


 *


 三枝と田中が中山敦広のマンションを訪問すると、妻の美恵は狼狽していた。

(これは何かあるな)

 三枝の直感が働く。

(そういえば、微かに煙草の臭いが……)

 彼は勿体ぶりながら尋ねる。

「敦広さんは、喫煙者でしたか?」

「いいえ。煙草を毛嫌いしていました」

 美恵が答えた。

(ということは、これは美恵のものか、それとも彼女に男がいて、そいつが吸っていたのか?)


 *


「三枝さん。ご名答です。美恵には男がいました」

 調査の結果を嬉々として田中が報告した。

「この男が犯人かもしれませんね」

 田中は盗撮した写真を三枝に渡す。

「名前は――」

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