その四
「さて、行きましょうか」
「うん……、酔い覚ましにちょっとだけ歩かない? タクシー乗らなくてもすぐに着くし」
そう言って、俺の手を取って歩き出す
久しぶりに握った女性の手。夜風が涼しい分、手の温もりがとても心地いい。
さっき
そんな俺の心情を知ってか知らずか、高瀬さんが肩にしな垂れかかって来た。よし、ならば勘違いしましょう。もうヤケだ、振り切って参りましょう。
「高瀬さんさぁ、何で急に俺にキツくするようになったの?」
「え……、えっと、私がキツく当たれば、冷たく言い返してくれるかなって、思って……」
あ~、Mだって話だもんな。俺が怒って高瀬さんへの態度を冷たくするかもと期待したんか。回りくどいってか、それって修復不可能な溝が出来るパターンじゃね?
「冷たくして欲しいの?」
「……、はい」
敬語!? ヤバイ、グッと来た。来てしまった。
元々Sっ気があると自覚してたけど、冷たくされたいと訴えるその表情が、こうも胸に突き刺さるとは思ってもみなかった。
グイッと高瀬さんの手を引き寄せて、何も言わず唇を奪う。始めからディープに絡め、きつく抱き締める。んっ……、はぁっ……、小さく漏れる高瀬さんの声に艶があり、色っぽい。
肩に手を置き、そっと身体を離す。あっ、と声を上げる高瀬さん。少し残念そうなその表情、堪らない。
「どうしてほしい?」
言わせたい。その寂しそうな口から聞きたい。どうして欲しいのか、自分から言わせたい。
瞳を潤ませて、でも目は合わせたまま。逃げる事はせず、でも言うのは迷っている。そんな高瀬さんをじっと見つめたまま、俺からは何も言わない。
「……、続き、してほしいです」
あぁ~、グッと来た。またもグッと来た。再び背中へと左手を回し、右手で頭を撫でてやる。絹のように手触りがいい髪の毛。染めず、黒髪でサラサラなのがとっても良い。
抱き締めたまま胸を張り、その大きな胸をグリグリと押し潰してやると、高瀬さんは耳元で熱い息を吐いた。
「家に、来て下さい……」
よし、行こう。
はやる気持ちを抑えつつ、再び手を繋ぎ2人で歩く。飲み物がないから、と途中に見えたコンビニへと入った。高瀬さんは俺が持つカゴへと歯ブラシや男物の下着を入れていく。やや照れたその表情に、さらなる興奮を覚える。
「それも入れて」
俺はいくらSっ気があるとはいえ、良識のある男だ。男女の営みに必要な物を顎で指す。高瀬さんは周りをキョロキョロと見回し人が見ていないのを確認した後、それを手に取ってカゴへ入れた。
「へぇ、こっちの薄い方がいいんだ」
0.01と書かれたパッケージ。個数が少ない割には値段が高いそれ。3種類ある中からそれを選んだ事を指摘すると、高瀬さんは黙ったまま俯いてしまった。
うぅぅ、可愛い……、もっといじめたくなる。さっさと会計を済ませて高瀬さんの部屋へ向かおう。
再び手を繋ぎ、夜道を歩く。早く抱き締めたい、早くひん剥きたいという気持ちから早足になり、自然と高瀬さんを引っ張っているような形。
相変わらず顔は赤いままだけど、高瀬さんの表情はまんざらでもない様子。
「高瀬さんさ、付き合ってもない男を部屋に連れて帰るってどうなの?」
「えっ……、いえ、普段はそんな事しなくって、っていうかこんな事初めてでっ、あのっ、平林君だからって言うか……」
慌てる姿も可愛い。別に俺も本気で言っている訳じゃない。もう前戯は始まってるんだ。
「俺は曖昧な関係って嫌いなんだ。会社の先輩と後輩ってだけの俺達がさ、こんな事していいのかな? 高瀬さんはどう思う?」
立ち止まって顔を覗き込む。俺の方が背が高いので、自然と高瀬さんは俺を見上げる事になる。その顎のライン、少しだけ開いた唇、不安そうに見つめるその瞳、思いっ切り
「あいが言ってたけど、平林君の冷たい声が、好きなのっ!!」
「ふ~ん、声が好きってだけで抱いてってなるんだ」
「違うっ! 仕事も頑張ってるし、周りの人達へのやり取りとか見てても、いいなって思ってたし……」
「でも最近急に辛くあたって来たよね? さっきは有耶無耶になったけど」
「それは……、あいに対する平林君の接し方というか、あしらい方がいいの! でも、私はあいみたいに可愛い感じで話とか出来ないし、距離の縮め方も分からなかったから……。
だから、口うるさくすれば言い返してくれるんじゃないかって、思って……」
「距離の縮め方? こうすりゃあいいじゃん」
ギュッと抱き締める。そして耳元で囁く。
「俺に抱かれたいの? それとも付き合いたいの?」
久しぶりに間近で嗅ぐ女性の匂い。酔いも相まって頭がクラクラする。抱き合っている為、俺がどういう状況かは高瀬さんにも伝わっているはずだ。
「……、好きです。付き合って下さい」
「よし、いい子だ。たっぷり可愛がってやるから、覚悟しとけよ?」
「はいっ……!」
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